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第645話 『情報屋リッカー その2』



 リッカーは、軽く手を挙げた。するとフロアの奥から綺麗な女の人が現れた。そしてその手には、葉巻。


 女の人はそれをリッカーに手渡すと、リッカーは葉巻の端を軽く食いちぎって、そのまま口に咥えた。葉巻を持ってきた女性に目配せすると、女の人はマッチを取り出してリッカーの咥えている葉巻に火をつけた。


 リッカーは思い切り葉巻の煙を吸い込むと、立ち上がって私達に向かって吐き出した。け、煙い。



「ゴホッゴホッ……うっ」



 物凄い煙に思わず咳き込んでしまった。この今いるフロア自体が、入ってきた時に既に煙草のニオイと煙で充満していて苦しい感じがした。


 でもセシリアやローザ、それにシェルミーやロドリゲスは煙いだろうに平然としている。でも私は、我慢できずに咳き込んでしまった。


 獣人という種族は、ヒュームよりも嗅覚や聴覚が敏感だから、それでかもしれない。


 リッカーは、ソファーから立ち上がるとなぜか私に近づいてきて目の前に立った。じっと私の顔を見つめる。そして呟いた。



「ほーーう。獣人かーー。狐の獣人、とてもいいねーー。狐の獣人の踊り子。しかもダイナマイトボディーだし、尻尾が4本もあるのも珍しい。気ーーに入った」



 リッカーは、そんな事を言いながらも私の周りをくるくると歩き周り、舐めまわすかのように身体を見た。そして唐突に手を伸ばすと、私のパレオを掴んでめくりあげて尻尾の根元を確認しようとした。



「きゃあああっ!!」



 いきなり想像もしなかった事をされたので、悲鳴をあげてしまう。


 するとセシリアがソファーから立ち上がった。そのままリッカーに何か言おうとしてくれたが、先に動いたのはローザだった。私のパレオを掴んでいるリッカーの腕をローザは、強く掴んでいる。今にもメリメリと音が聞こえてきそうな位にローザは、リッカーの腕を掴んでいた。


 いつの間にか、ボロを纏った男達がナイフを手にして私達の周りを囲んでいる。



「いててて……手を離せ、女盗賊!」


「お前が手を離せ、エロ情報屋! そうすれば離してやる」


「……うぐぐ……お、お前、本当に盗賊なのか?」


「盗賊だ。『薔薇薔薇盗賊団(ばらばらとうぞくだん)』リーダーのローザだ」


「ぷっ」



 周囲を囲んでいたボロを纏った男達。その中の何人かが、『薔薇薔薇盗賊団』という名前を聞いて吹き出す。


 どさくさに紛れて、セシリアも口を押えて笑っている様子。馬鹿にされていると、ローザが更に怒り出すんじゃないかと私は恐る恐る彼女の顔を見た。するとローザは、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。



「ば、バラバラ盗賊団だと? き、聞いた事もない名前だなー」


「ああ、マイペースに細々とやっているからな。それで耳にしないのだろう」



 ローザの返しに、今度は私も笑ってしまいそうになった。さっきリッカーに舐めるように見られてパレオを掴まれた時、とても怖いと思ったけれど……今は違う。


 ローザにも、セシリアやマリンと同じ一緒にいて安心できると言うか……一緒にいる事で笑っていられる……暖かい気持ちになれる何かを感じられると思った。


 ローザはアテナ様とご友人になったと言っていたけれど、それが今なら理解できる。とても……羨ましい関係。


 リッカーは、ローザを睨みつける。しかし額には、大量の汗。おそらくかなりの痛みを感じる位の力で、ローザに腕を掴み続けられているのだろう。



「は、離してくれーー!! 腕が、腕が潰れるー!!」


「この子に二度と触らないと約束できるのなら、そうしよう。どうだ、約束できるか?」


「わ、解った! 解ったーー!!」



 ローザはリッカーの腕から手を離すと、リッカーも私のパレオから手を引いた。そして少し離れると、葉巻をひと吸いして言った。



「馬鹿力めーー。やはりどうも女盗賊という風には見えんなー。ベルベット家の伯爵令嬢だという、セシリア嬢もそうだ。ベルベット家なんて貴族、クラインベルト王国にあったかどうかー」



 まるで見透かしているかのようなリッカーに、私はドキッとする。対して、まったく動じないセシリアとローザ。今度は、シェルミーが言った。



「リッカー。今の発言は、私の大切なお得意様であるローザと、ご主人様を侮辱した――そうとらえてもいいですか?」


「大切な友人だーーと? 盗賊ごときがかー?」


「別に不思議な事じゃないでしょ? あなただって、リベラルの権力者であるにも関わらず、賊とだって通じているんじゃなくて? そうでなくても、情報屋なのだから、盗賊のお客さんも沢山ここにくるでしょ。なんなら顧客名簿を見せてくれたら、潔白を立証できるけれども。例えばこのリベラルに潜んでいる『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部。それもお客さんだったりしない?」



 シェルミーにつつかれても、不敵に笑うリッカー。でも図星のようだ。



「それで――? 『闇夜の群狼』がなんだっていうんだー? 俺は情報屋だ。実に様々な情報を取り扱っているしー、その情報を持ち合わせてなくても時には客の為に調査し、その客が満足する情報を提供するー」


「それなら情報屋らしく、このリベラルにいる『闇夜の群狼』の幹部に会う為にどうすればいいか? それが誰なのか――情報が欲しい」


「『闇夜の群狼』と言えば、ヨルメニア大陸最大規模の犯罪組織だー。その幹部がこの街にいるとどうして、そう思う。それとどうして会いたい? まずは理由が知りたいなーー」



 今度はセシリアが、リッカーの質問に答えた。



「わたくしはベルベット家の伯爵令嬢よ。このリベラルに『闇夜の群狼』の幹部がいるという情報は、既に掴んでいるわ。でもそれが誰かまでは解らなかったの。それとわたくしがその人に会いたい理由、それは簡単よ。権力とお金――それ以外に何かあるのかしら」


「権力と金……なるほどーー」


「その幹部が現在、メルクト共和国に盗賊達を侵入させて暴れまわらせて、この国をのっとる為に裏で手を引いていると聞いたわ。このままいくと、メルクト共和国が賊達の楽園になる。わたしくしは、そうなる前にその幹部に接触し、少しでいいから取り入りたいのよ。そうすれば、メルクトの国のいくらかを、頂けるかもしれないわ」



 ええええ!! セシリアの話を聞いて、私は顔が真っ青になった。演技とは思っていても、まるで悪役令嬢。


 本気じゃないと知っていても、セシリアがそういう事を平気で口にして不敵に笑うと、本当はそうなんじゃないかって錯覚してしまう。


 しかしリッカーには、効果的だったようだ。


 リッカーは、口と鼻から同時に大量の葉巻の煙を吐き出すと、ニターっと笑った。

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