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第643話 『偽貴族令嬢とそのお付き』



「ちょっとシェルミー、いいですか?」


「なーに?」


「狼を探し出すとしても、本当に当てはあるんですか?」


「もちろーん。ただ闇雲に、人の多い街中を歩いている訳がないでしょ。リベラルは交易都市、多いのは人だけじゃなくて、ショップや露店などのお店も多種様々でその数も多い。そんな中を探して回るのだから、当てがなきゃとてもやってられないよ」



 ローザが言った。



「それはもしかして、こういう事か? このリベラルに潜んでいる『狼』は、この街で店を営んでいるという事か? そういう情報をシェルミーは、入手したのか?」


「まあ、それについてはこれから徐々に核心に触れていこうよ。ほら、着いた!」



 人混みの行きかう場所。その通りの真ん中で、立ち止まるシェルミー。私達も足を止めて、シェルミーの目線の先を見た。するとそこには、また別の通りがあった。


 今いる場所を表通りというのであれば、まさにそこは裏通りという印象。私は、シェルミーに再確認する。



「この先に、そのシェルミーが言っている、その当てがあるんですか?」


「そう、この先にあるよ。だからまあとりあえずついてきてね」



 通りは、先程まで歩いていた表通りと違ってなんとなく薄暗かった。歩行者もポロポロとは見かけるけれど、表通りで笑い合っている人達や、声を張り上げて集客している商人達とは真逆で、道の隅に座り込んで項垂れている。


 もしくは壁沿いで横になって、眠っている。そんな人達しかしない場所だった。


 私はなんとなく不安になって、セシリアの隣に移動し彼女のドレスの裾を握った。



「ちょっと」


「ヒイ、ごめんなさい! 強く引っ張ったりしませんから、少しだけ……ほんの少しだけ掴んでいてもいいですか?」


「……まったく、仕方がないわね。目的地に到着するまでの間ならいいわ。でも折角の素敵なドレスなのだから、あまり強くは引っ張らないでね」


「は、はひ!」


「着いたーー! 到着、ここだよ」



 ――目的地に到着。裏通りの奥の奥の方。そこには、古びた大きな建物があった。壁には至る所に亀裂(クラック)が入っており、建物の老朽化が伺える。その入り口には扉はない。とうの昔に壊れて外れ、そのままにしているのか――


 入口には、ボロを纏った男が二人立っている。一見浮浪者のようにも見えるけれど、いかにも腕力に自信があるといった感じでガタイはいい。


 シェルミーは、その男達に近づくと二人は入口を塞ぐように立った。



「止まれ、そしてまわれ右して帰れ。ここには、おめーらのような踊り子が、関心を持つものは何もねえ」


「確かにそうかもね。でも、私の主様はこの場所に関心がおありだそうよ」



 シェルミーはそう言ってにこりと微笑むと、セシリアを手で指した。


 え? これって、もしかしてそういう(てい)で行くって事? セシリアが私達の主様。でも綺麗な純白のドレスに身を包むセシリアは、誰が見てもとてもメイドには見えない。控え目に言っても、貴族令嬢か王族に見える。


 セシリアをまじまじと見つめる男達。セシリアは、いきなり演技を強要させられる展開になったのに、まったく同様をしている素振りも見せない。シェルミーは更に男達に、言った。



「お解り頂けましたですか? この方はベルベット家の伯爵令嬢セシリア・ベルベット様です。私とそこの狐の獣人の踊り子は、少々武芸を嗜んでいるので――我が主様、セシリア様に気に入られ護衛についています」


「そっちの女盗賊と、大男は?」


「ぐっ!! おのれ!!」



 女盗賊と言われ、何か言おうとしたローザをセシリアは制した。続けるシェルミー。



「別に特別どうという事もないよ。この大男は、主様の使用人、そしてこの女盗賊は『薔薇薔薇盗賊団(ばらばらとうぞくだん)』の首領、ローザよ。この場所は、ローザから聞いたのよ」



 薔薇薔薇盗賊団と言われ、ローザは信じられないという顔をする。確かに、バラバラって……私は演技がばれないように、自分の太腿を思い切りつねって笑わないように我慢した。セシリアも平静を装っているけど、微妙に震えている。


 もう少し、マシな名前をつけてあげればいいのにとシェルミーを見ると、彼女の表情を見て、彼女はわざとそういう面白くて吹き出してしまいそうな名前をつけて遊んでいるのだと気づいた。


 シェルミーと初めて会った時、何処か人懐っこい感じがして人当たりも柔らかな感じがした。今はそれに加えて、結構おちゃめな性格をしているのだと思った。こういう緊張する場面で何処か楽しんでしまう所も、やっぱり私にはアテナ様に凄く似ている感じがすると思う。



「……なるほど、それで?」


「それでとは?」


「ここへは何しにきた」


「ここへ来る用事って言えば、一つしかないでしょ。リッカーに合わせてくれるかしら」



 リッカーという者の名が出ると、建物の入口を阻んでいた二人の男は顔を見合わせ、道を開けた。



「ありがとう。それでリッカーは?」


「5階だ。中に入れ、案内人がいる。その者の指示に従え」


「わっかりましたー。それじゃ、中へ失礼します」



 シェルミーはそう言うと、私達の方へ振り向いてウインクをして見せた。


 シェルミーの後に続いて、私達も建物の中へと入る。すると入口を阻んでいた男が言ったように、また別のボロを纏った男が目の前に現れた。男は老人のようだった。



「リッカーは、5階にいる。これから案内するが、所持している武器はここで全て預からせてもらおう」



 ここまで来たら引き返せない。私達は男に所持している武器を全て預ける。すると早速リッカーがいるという建物の5階へと案内された。


 廊下を歩き、階段を上る途中――私はリッカーという者の事をシェルミーに聞いてみた。



「あの……シェルミー。リッカーって……」


「ああ、説明不足だよね。ごめんね。リッカーっていうのは、この交易都市を仕切っている十三商人の一人で、この街……っていうか、メルクト共和国も含めて、一番の情報網を持っている情報屋だよ」


「じょ、情報屋」



 狼を探す為、リベラルの街でまずここへ来た理由。それは、その情報屋という言葉で全てを察した。

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