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第642話 『狼』



 シェルミーが自分の家の使用人だと言ったロドリゲス。彼女は彼に、手話で何かを伝えた。するとロドリゲスは何処かへ行き、再びターバンを巻いた黒づくめの男達を数人引き連れて戻ってきた。


 この人達は、きっとシェルミーの護衛かもしくはロドリゲスと同じく使用人。


 でも気になる事がある。身に纏う雰囲気や、帯刀している剣からしても、腕の立つ者達であることは間違えない。それなら使用人っていうのは、おかしいかもしれないけれど……使用人であるロドリゲスが、かなりの戦闘力を兼ね備えている風だったから、だから他の使用人も、それなりの腕前を持っている。そう思えば、特別不思議ではないと思った。


 きっと豪商だというシェルミーの父親が、交易都市リベラルに行くと言ったシェルミーの為に、心配して護衛につけた者達だろう。



「それじゃあこれから親玉を倒しに行く為、情報収集に向かうよ。因みに親玉って言うのは、言わずもがなだけど、この国にいる悪の親玉ね。何処で誰が聞いているか解らないから、そう言おうね」



 セシリアが口を挟む。



「それなら、『狼』って名称にしない。その方がしっくりくるわ。それに親玉って呼ぶと、もしかしたら紛らわしい事になるかもしれないから」


「紛らわしい?」


「街に入る門の手前で、何人か盗賊の頭目にあったわ。メルクト共和国は今や盗賊達の楽園だし、ここ交易都市リベラルは、お金を持っていれば歓迎されるみたいだから、例え悪人でも条件に見合えば歓迎されている。だから『狼』って言った方が、特定できるし紛らわしくなくていいと思うのだけれど」



 セシリアはそう言って指をさす。指した先には、街の門前で暴れていた大男が子分たちと大笑いしながら大腕を振って歩いていた。あれは確か、カンダタ。盗賊団『蜘蛛の糸』と名乗っていた男。


 それを見たシェルミーとローザは、確かにと言って頷いた。



「うん、確かにそうだよね。じゃあこれから私達のターゲットである『闇夜の群狼』幹部の事は、狼と言おう」


「狼ですね。解りました」



 ローザが続ける。



「それで……今更ながらだが、あんた達を信頼してもいいんだよな。シェルミーは、『狼』を倒す為にリベラルにやってきた――それは、間違いはないな」



 頷くシェルミー。



「信じていい。私は、先に言ったようにレジスタンスだよ。他にも仲間はいるし、このリベラルにも先行している者が何人かいるわ。また後で紹介はしようと思っているけれど、それはまた後にでもして、折角だからこのまま情報収集に行きたいんだけど……」


「解った。それで、わざわざそう言うって事は、その情報収集の当てがあるって事なのだな」


「そういうこと。だから早速そこへ行きましょう。でもそこへ行くのは、私達だけ。私の部下達は置いていくから、あなた達の持っているその大荷物は、彼らに預けて。この先、『狼』を追い詰めるなら何があるか解らないし、人混みの多い街中を歩き回るなら身軽な方がいいでしょ。お財布と武器だけあればいいから」



 そうしてもらえるなら、それがいいと思った。私達の荷物は、旅する為の道具が沢山ある。テントや毛布なんかもあるし、一時的にでも預かってもらえるなら助かる。


 セシリアとローザも、この申し出には感謝し、シェルミーのお付きの人達に荷物を手渡して預かってもらった。


 こうして私達は、シェルミーが情報収集できるという場所に向かった。人でごった返すリベラルの大きな街中を歩きだす。


 ――暫く人混みの中を、キョロキョロとしながら進む。


 踊り子の衣装を身につけた、私とシェルミー。そして盗賊のローザと、お嬢様のセシリア。その後ろにロドリゲス。


 端から見て、こんなにレパートリーに富んだ私達を、街ゆく人達はいったいどんな目で見ているのだろうか。そう思うと、ちょっと可笑しくなった。


 だけど考えてみれば私とセシリアは、ずっとメイドの姿で旅をしていたし、それだけでも十分に人の目を引いてきていたのかもしれない。なぜならメイドだけで旅をする光景なんて、ちょっと普通に見ることがないだろうから。


 ザックを背負って旅をするメイドなんて、かなり奇妙に見えるだろう。


 だけどこの露出の激しい踊り子の衣装は、やっぱり恥ずかしかった。とても綺麗で可愛い衣装であるっていうのは認めるけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。


 そんなこんな考えて歩いていると、唐突に誰かにお尻を触られた。



「きゃっ」



 振り返ると、盗賊風の男がニヤニヤとしながらこちらを見ている。シェルミーが私に声をかける。



「どうしたの? もしかして、お尻触られた?」


「え? いえ、その……」



 人ごみに紛れ、私のお尻を触った男はこちらを見て相変わらずニタニタとしている。



「いえ、もういいです。大丈夫です」


「駄目だよ。ああいうのは、一度許すと付け回されるよ」


「で、でも別にお尻を触られた程度なので……」


「やっぱ、触られてんじゃん! ロドリゲスーー!!」


「うがあああ!」



 シェルミーはそう言って、手話で一番後ろを歩いていたロドリゲスに何かを伝えた。するとロドリゲスは振り返って、私のお尻を触った男の目前まで行き、驚いて棒立ちになっているその男を掴みあげると、軽々と投げ飛ばした。



「シェルミー!」


「悪い事をしたら、罰を与えないと。そうすれば、また悪いことをしようと考えた時に、ロドリゲスの事を思い出すでしょ? アハハ」



 シェルミーのその言葉に思わず笑ってしまった。やっぱり、この人は何処か少しアテナ様に似ている。



「さあ、それじゃあ、ちゃっちゃと情報を集めて『狼』を見つけ出して、罰を与えましょう! そうすれば、『狼』も今後また国を乗っ取ろうなんて悪い事を考えたりしても、さっきの男と同じく私達の事を思い出して躊躇するでしょ。フフフフ」


「そうですね、確かにそうです!」



 シェルミーにそう言って微笑みかけると、シェルミーもにっこりと笑い返してくれた。

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