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第641話 『踊り子』



 姿見鏡を見て、暫く固まっていた。生まれてこの方、こんな服に身を包む事なんてなかったからだ。陛下やモニカ様のお世話になり、クラインベルト王国の王宮メイドとなってからは、メイド服しか基本的に着たことがない。


 私は今、シェルミーに連れられて交易都市リベラルにある、服屋さんにやってきていた。シェルミーの選んでくれた服、つまりはシェルミーが今身に纏っている踊り子の服だけど、それとよく似たものを身に着けている。


 正直、踊り子の服は露出の激しいもので戸惑ってしまった。ほとんどビキニ水着と言ってもいい位のもので、それに加えて透けるほどの薄い布を纏っているだけである。下半身もパレオを一枚巻いている程度で、少し動くとすぐに下着が露わになってしまいそうで、ドキリとした。


 凄く恥ずかしい。こんな衣装で沢山の人が行きかうリベラルの街中を歩くなんて、凄く恥ずかしいと思った。だけど……


 試着ルームで踊り子の服に着替え終えて、いつまでも戸惑いながら鏡をじっと見ていると、カーテンがシャッと開いた。シェルミーだった。



「どう? 着替え終わった?」


「っひゃ!!」


「ひえーーー!! 凄い似合ってんじゃん!! テトラ、凄い可愛いよ!! 超絶可愛い、踊り子さんだね!」


「え? そ、そんな! でもこんな姿で街中を歩くなんて、私……」


「えーー、別に普通だよ。それに、こんな姿って言うけど私……既にそういう姿になっちゃっているんだけど」


「え? あっ、すいません。そういう意味じゃなくて、私なんかがこんな露出の激しい服を着ても、見る人が不快な思いをするんじゃないかなって……」


「それ、本気で言っている? ただ単に慣れない服で恥ずかしいから、そう言って回避しようとしているだけでしょう。テトラのその姿見て、不快になる人なんていないと思うけどなー。いるとしたら、それはテトラの可愛らしさに対する嫉妬。さあ、着替え終わったなら、外に出てー」


「あの、あの……」



 シェルミーはそう言って、戸惑う私の手を引いて試着ルームから私を連れ出した。下半身に巻いているパレオがその拍子にめくれ上がったので、慌てて抑える。本当にこの衣装、ヒラヒラとしていて油断ができない。



「さあ、こっち来てここに座って」



 鏡台の前の椅子。そこに座ると、シェルミーと同じ煌びやかで素敵な衣装に身を包み、恥ずかしそうにしている自分の姿が目に入った。



「しかし美人だね、テトラは」


「び、美人っていうのなら、シェルミーの方がそうだと思います。私なんて……」


「そんな事言わない。折角ご両親が、こんなにも可愛いあなたを生んでくれたんだから。うんと感謝しないとね」



 私の両親は、私の姿を見て幻滅した。母のお腹の中にいた頃は、きっと愛されていたのだろうと思う。私の後に生まれてきた妹を見ていたので、それは解る。


 でも私が生まれてきた時に、九尾であるはずの私の尻尾が4本であった事。それを両親は目にして、私に幻滅したのだ。



「さーーて、それじゃあこれから嬉し恥ずかしお化粧タイムだから、じっとしててよ」


「え? お化粧!? わ、私お化粧するんですか?」


「え? 当たり前でしょ。何処にすっぴんの踊り子さんがいるの? テトラは目立ちたいの?」


「い、いえ、目立ちたくはないですけど……」


「それじゃあ、お化粧して。すっぴんでいる踊り子の方がきっと目立つから。目立ちたくなければ、するしかないわね」


「ううーー、は、はい」



 シェルミーの強引な押しに負けると、彼女は張り切って私のメイクをし始めた。そしてそれが終わり、目の前の鏡台の鏡に映し出される自分の姿を見て、言葉を失ってしまった。まるで別人――



「こ、これが私?」


「そうよ。テトラはとっても可愛いんだから、もっと自分の価値に自信を持った方がいいと思うよ。もったえない、もったえない、フフフ。それじゃ皆待っているから、そろそろ行こう」


「は、はい!」



 試着ルームに置いていた自分の荷物と、涯角槍(がいかくそう)を手に取るとお店の外に出た。通りに沢山の行きかう人々。その中に、セシリアとローザがいた。二人も私と同様に別人のようになっている。で、でも……違う衣装。


 セシリアはとても素敵なドレス姿になっていて、ローザはまさかの盗賊のようになっていた。頭に巻いているバンダナがまた【シーフ】っていう感じがしている。



「あら、やっと準備ができたのね。へえ、とても踊り子の衣装が似合っているわ。素敵ね」


「テトラ、待っていたぞ。ちょっと私の姿を見てくれ。よりにもよってクラインベルト王国、国王陛下直轄騎士団、『青い薔薇の騎士団』の団長であるこの私が盗賊だぞ! これはもしかして、皮肉か!?」



 セシリアは何処かの大商人か貴族のお嬢様にしか見えないし、ローザの喋り方はそれらしくはないけれど、それでもその服装からとても美人な女盗賊には一応見える。


 でもこれって――私はシェルミーに言った。



「あ、あの!!」


「ん? なにー?」


「わ、私はなぜこんなヒラヒラした……っていうか、露出の激しい衣装なんですか? セシリアとローザのような感じ……そう、私も盗賊とか傭兵とかそういうのでも良かったんじゃ……きゃあっ!!」



 シェルミーに迫って思った事を吐き出していると、近づいてきたセシリアがいきなり私の下半身に巻き付けているパレオを掴んで持ち上げた。


 周囲にいた人達の目にさらされ、私はパニックになった。



「ちょちょ、ちょっとセシリア!! いきなり何をするんですかああ!!」


「フフフフ、パレオの下はそうなっていたのね。でもまさか、テトラが黒いパンティーを……」


「ちょちょちょ、ちょっともうやめてください!! それはシェルミーが踊り子の服には黒が似合うっていうからそうしたんですよ!!」



 大声を出してしまい、余計に人の目を引き付けてしまった。セシリアとのやり取り、それを見て笑うシェルミーとローザ。


 本当にこれからこの街に潜んでいるという、『闇夜の群狼』の幹部を探し出して倒せるのだろうか。とても不安になった。

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