第640話 『和解』
シェルミーと、もう一度カフェに戻り話の続きをした。
テーブル席には、もう一つ椅子を用意してもらい、こちら側に私とセシリアとローザ、向かってシェルミーとロドリゲスが並んで座った。
ロドリゲスは巨躯だけど、身体が太っているという訳ではなく物凄く筋肉質だった。
最初にローザに襲いかかった彼は、とても怖い印象だったけど、今はシェルミーの隣で大人しく腰を掛けてアイスミルクを美味しそうに飲んでいる。
しかもロドリゲスはローザにきちんと頭を下げて、勘違いして首を絞めた事を謝罪した。ローザの方もロドリゲスに誤解させて悪かったと謝り、ギスギスしたような雰囲気はなくなった。
ロドリゲスもその風貌とは違って意外だったけれど、ローザも敵意を向けてこない者、友好的な者に対しては、とても優しいんだなって思った。
セシリアが言った。
「それで……もう一度、きちんと説明してもらえるかしら。冒険者アテナの件も含めて」
「うん、いいよ。じゃあまずなぜ私が、冒険者アテナを知っているかと聞いたか? それから簡潔に話そうかな。冒険者アテナと私は、以前会った事があるんだよ。その時に、彼女に助けてもらってね。それで知り合い仲良くなったんだ」
アテナ様は、冒険者としてクラインベルトからガンロック王国、そしてノクタームルドと旅をされているそうだ。
そんなあちらこちらを、冒険者として旅しているアテナ様の事を考えれば、別にシェルミーと知り合いだとしても不思議ではなかった。現に私やセシリアも旅に出てから、多くの人と知り合った。
「あとねー、あれだよ。アテナが冒険者でありながら、実はクラインベルト王国の第二王女だという事も知っている」
え!? 私だけでなく、セシリアとローザも驚いた。でもシェルミーは、それが何事でもない感じで笑う。
「え? だってそうでしょ? アテナは私にアテナ・クラインベルトと名乗ったのよ。私はこう見えても豪商の娘。クラインベルト王国の王女の名前くらいは知っていても不思議じゃない……っていうか、私はクラインベルト出身じゃないけど、その国民なら誰しも知っているんじゃない? 自分の国の王女の名前だもんね」
言われてみれば確かにそう。セシリアとローザを見ると、頭を押さえている。きっとアテナ様がお忍びなのに、本名を名乗って冒険者をしている事に頭を抱えている。私もそう思ったけれど、反面アテナ様らしくて、微笑ましくも思った。
あの方はとても頭が良くて聡明な方だけど、こういう可愛らしいというか……不思議な部分があったりする。またそれが、ハラハラさせられたりほっとさせられたりする。シェルミーが続けた。
「だから、アテナの国の王宮メイドだと解ったあなた達に声をかけた。こんな場所にクラインベルトの王宮メイドと騎士がいる訳ないし、いるって事は何か理由があっているんじゃないかって……そしてその目的が私と一緒なら、きっと協力し合える」
セシリアとローザが顔を合わせる。そして今度はローザが言った。
「……解った。アテナ様の話や、レジスタンスだという話……全てはまだ信じられないが、協力するという話に乗ってもいい。シェルミーがそこまで話したなら、こちらも話すが、君のお察しの通りだ。我々はメルクト共和国を救う為、セシル陛下の命でやってきた。いや、ここにいるテトラとセシリアは、陛下の命ではなく、自分達の意思でやってきている」
「自分達の意思……」
「そうだ。この二人は、クラインベルト王国内でも蔓延っていた『闇夜の群狼』と、そいつらの潜んでいたアジトと、そこにいた幹部を叩いて潰した。奴らが悪びれもせずやっている奴隷売買や殺人など、目も当てられない行為を許せなかったからだ」
ローザの言葉を聞いたシェルミーは、私とセシリアの目をじっと見つめ、それぞれの手を握った。私達は、いきなりの事で動揺する。
「え? あの!?」
「思いは一緒なのね。それなら是非、力を貸して。お願い」
「え? え?」
セシリアとローザの顔を見る。二人とも、シェルミーの言葉を完全に信じているのかどうかは解らない様子だったけれど、しっかりと頷いていた。どうであれ、協力はし合えるという事。私はもう片方の手を伸ばすと、シェルミーの手を握り返して言った。
「は、はい! よろしくお願いします! 一緒にメルクト共和国を救いましょう!!」
「うん、ありがとう!! それじゃ、一緒に協力してこの街に潜んでいる『闇夜の群狼』の幹部を探し出して倒そう!! でもその前に、3人ともまずは着替えてもらうけどね」
『え?』
シェルミーの着替えてもらうという言葉にセシリア、ローザと3人並んで驚く。
「この街は交易都市リベラルだよ。色々な人がいるし、私のような商人もたくさんいる。だからあなた達の事を見て、私のようにすぐにクラインベルトのメイドと騎士だって気づく者もいるわ。だからまずは、この街に紛れてもらおうかなーってね」
「どどど、どうやってですか?」
「そうね。それじゃ早速カフェを出て、お店に行きましょうか」
シェルミーは立ち上がると、くるっと回転してそう言った。回った拍子にシェルミーの身に着けている踊り子の服がふわっと舞い上がる。それを見て、シェルミーの事をとても綺麗だと思った。本当の踊り子みたい。
それと同時に、はっと気づいた。
クラインベルト王国の王宮メイドや騎士だと気づかれないようにって……もしかして変装をすればいいとか言っているんじゃ。だとしたら……まさか。
シェルミーの身に付けている、とても煌びやかで可愛らしい踊り子の服。何か動作を行う度に下着が見えそうになって、ハラハラするその衣装に目が留まった。




