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第64話 『乱闘演武 その2』






 バーテンは、もう私の事を絶対に許さないといった表情をしていた。その表情に、私は少し縮こまってしまった。だけど、負けられない。それに…………


 こうなってしまったらもう、どちらか決着がつくまで、戦いは終わらないだろう。


 店の中は、私とバーテンダー…………そしてそのバーテンダーに従う店の常連客との大乱闘で、変わり果てた姿になっていた。


 残る常連客は、バーテンダー以外に3人。その3人の中には、見覚えのある顔があった。


 昨日、店であった男だ。スキンヘッドの大男と、顔に傷のある男。最後に、初めてみる隻眼の男。

 

 ――――隻眼の男は、バーテンに話しかけた。



「メル。高いぞ」


「わかった、わかった。その二人とついでに、表のメイド一人。始末してくれたなら、報酬を出してやろう。勿論、はずんでやるぞ!!」


「よし! のった! その正義の味方気取りの優男は、俺とスカーで始末するから、狐の女はリトルフランケがやれ」


「へっ!! まかせろや!!」



 大男の名前は、リトルフランケっていうらしい。隻眼の男がそう指示すると、大男は私を睨みつけ、手に持っていた金棒を頭上でぶんぶんと振り回し始めた。



「かかってこいやー!! 狐の小娘ぇぇ!! 一撃で楽にしてやるぜ!!」



 確かに、あんな金棒で殴られたら、一撃で身体が潰れるだろう。でも、それはあなたも同じ!!



「じゃあ、こちらから、かかっていきます!!」



 私は金棒を振り回す大男に向かって、モップを振り回しながら突っ込む。大男の目前まで踏み込むと、金棒が上から振りおろされてきた。避ける。外れた金棒の先が、その威力で床にめり込んだ。


 ――――チャンス!


 その振りおろされた金棒を蹴って跳躍し、すぐそばの椅子、テーブルと順に駆け上がる。そして大ジャンプ。大男の頭上まで跳躍し、モップを強く握りしめると、大男の頭部目掛けて思い切り振りおろした。雄叫び。


 

「えやあああ!! ――――《方天撃(ほうてんげき)》!!」



 バギイッ!!



「がふううっ!!」



 跳躍を利用した、頭上からの強打を繰り出す棒術の大技。モップは大男の頭を強打したと同時に、その威力に耐えられず真っ二つに折れて飛んだ。大男は、ゆっくりと仰向けに倒れていった。



「ふう……」


「うそだろ……? リトルフランケを秒殺だと!?」



 バーテンが青ざめる。


 残る敵に目を移すと、助っ人に入った男アーサーも、顔に傷のある男と隻眼の男を同時に相手し奮戦している。


 顔に傷のある男はシミターを手に巧みに振り回し、隻眼の男は鎖鎌を使って攻撃している。二人同時に相手しなければならないアーサーは、徐々に押されていた。


 ――――助けに入らないと!


 私は折れたモップを投げ捨てると、部屋の角にあったデッキブラシを手に取って、今度は私がアーサーの助っ人に入った。



「一緒に戦ってくれて、ありがとうございます。でも、大丈夫ですか?」


「ふう。ちょっと、危なかったかもね。でも、これで2対2だ。僕と君、二人で戦えば問題ない!」


「はい!!」



 私とアーサー、スカーという名の傷の男と隻眼の男の、二対二の図式になった。


 戦っていると、バーテンが一人こそこそと逃げようとしている姿を目に捉えた。逃がしては駄目だ! 私は、素早くテーブルに飛び乗りバーテン目がけてテーブル上にあったジョッキを、デッキブラシで打って放った。



「情報をもらえるまで、絶対に逃がしません!!」



 バコッ!!



「ひいいい!! ぐへえっ!!」



 ジョッキは真っすぐ飛んで命中、バーテンはその場に倒れた。


 ――――やった!


 しかしその一瞬を、チャンスとばかりに、スカーと隻眼の男に同時に狙われた。駄目だ! 避けきれない!


 勢いよく飛んでくる鎖鎌と連結している鎖分銅を、なんとかすれすれでかわす。しかし次の攻撃、側面から私目掛けて斬りかかってくる、シミターを振りかぶる男の姿が目に入った。今度は、避けられない!! 私は、歯を食いしばった。



 ――――くっ!! ルーニ様! 



 心の内側でルーニ様のお名前を叫んだ刹那――――マントをはためかせ、素早く動く男の影がスカーの背後に回り込み、脇腹と大腿部を瞬時にレイピアで突き刺して倒した。


 それは、アーサーだった。



「間一髪だったね。でも今のは、ナイスアシストだったと思わないかい?」



 アーサーが私にウインクする。一瞬、ホッとして身体の力が抜けた。



「アーサーさん…………」


「言ったじゃないか。僕の事は、親しみを込めて、アーサーと言って欲しい」



 ――――残りは、隻眼の男。アーサーと共に追い詰める。



「気を付けるんだ。この男の使う鎖鎌の攻撃は、かなり変則的だよ。注意してかかろう」



 私は、頷いた。刹那、隻眼の男が先に動く――――


 鎖鎌の分銅部分が、ジャラララと鎖の音を立てて、まるで生き物のように襲い掛かってきた。アーサーは、当たる寸での所で、かわそうとした。だが、分銅がアーサーの頬を僅かにかする。



「でやああああ!!」



 私は、突っ込んだ。デッキブラシを左右に回転させながら距離を詰め、勢いをつけて力いっぱい打ち込んだ。しかし、隻眼の男は鎌の部分で受け止め凌ぐ。



「はあ……はあ……どうしよう……この人、かなり強い!!」



 隻眼の男は、今度は鎌を振ってきた。



「危ないっ!!」



 後ろへ避けて、再び攻撃しようとしたその時だった。セシリアさんが店へ突入してきた。それには、驚きを隠せなかったが、セシリアさんの顔を見ると、再びこんな所で負けられないという気持ちが湧きあがってきた。



「セシリアさん!!!!」


「ごめんなさい!  店の外でゴロツキに襲われてて遅くなったわ! それはそうと、大丈夫? 助けに来たのだけれど?」


「セシリアさん!! 今、入ってきたら危ないです!!」



 隻眼の男の目が、一瞬光った。鎖分銅が、セシリアさんに襲い掛かる。私は、全力でセシリアさんの方へ跳んでデッキブラシでその攻撃を受けようとした。だがセシリアさん目がけて飛んできた分銅は、私の右肩にめり込んだ。



「ううああっ!!」



 激痛。隻眼の男の笑い声。セシリアさんは、激昂した。…………私の為に? 


 セシリアさんは、巻物を取り出すとそれを片手で開いた。そして、もう一方の手をその巻物に翳してこう叫んだ。



「《火球魔法(ファイアボール)》!!!!」



 巻物から、火球が飛び出し爆発した。私は、咄嗟にセシリアさんの手を引いて、店の外へ飛び出した。


 大きな爆発音!! 振り返ると、店は崩壊していた。


 店の周囲にはスラム街の人たちが集まって来ていて、その中にはアーサーもいた。何時の間に飛び出したのだろう。物凄いスピードだ。


 それから少しして、崩れた店の瓦礫の中から、バーテンが顔を出した。



「だ……誰か…………助けてくれ…………」



 バーテンの助けを求める声。それを見たセシリアさんは、バーテンのもとに駆け寄った。



「助けてくれ……俺が悪かった…………情報は売ってやるから……だから、ここから出してくれ…………」



 すると、セシリアさんは、体半分埋まって身動きができないでいるバーテンの胸ぐらを掴んでこう言った。



「誤解しているようね。そこの瓦礫を拾って、身動きのできないあなたの頭に叩きつける事もできるわ。それが嫌なら、洗いざらい情報を話して欲しいのだけれど。勿論、取引するわよね? 私が今からあなたに聞く事を、全てを答える事ができれば、あなたをここから、引きずり出してあげる」



 その辺に転がる石ころを見るような目で、バーテンを見つめるセシリアさん。バーテンは、力なくゆっくりと頷いた。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇リトルフランケ 種別:ヒューム

メルの酒場にいたスキンヘッドの男。巨漢で、力も強そうだが、メルに雇われた用心棒なのだろうか。


〇スカー 種別:ヒューム

顔に傷のある、いかにもゴロツキという風貌の男。盗賊などが愛用するシミターを武器として装備している。


〇サクゾウ 種別:ヒューム

隻眼の男で、鎖鎌の使い手。リトルフランケ、スカーのようにメルに雇われた酒場の用心棒。その顔と、名前の感じから遥か東方にあるという国の出身だと伺える。その国には、【侍】という者がいるそうだ。


方天撃(ほうてんげき) 種別:棒術

テトラの使う、棒術。攻撃対象よりも高く跳躍し、反動をつけて頭上から棒を相手の脳天へ振り下ろす技。体重も乗せての攻撃になるので、威力は非常に高い。大男もまともに喰らえば倒れる程。


〇掃除用のデッキブラシ 種別:掃除アイテム/武器

何の変哲もない掃除用のデッキブラシ。モップ同様に、メルの店に置いてあったそれは、通常よりも頑丈。棒術や槍術を得意とするテトラが持てば、立派な武器となる上に、お掃除だってできる。


〇鎖鎌 種別:武器

東方の国では、たまに見かける武器。鎌と分銅を鎖で繋いだ武器。本来の使い方は、分銅を投げて攻撃し相手の防備を崩した所で、鎌で仕留めるという使い方をするそうだ。もちろん、鎖を利用して相手の腕や首を絞めあげるという事もできる。


〇シミター 種別:武器

湾曲した金属製の剣で、盗賊などがよく好んで持ち歩いている。別名を、その形状から三日月刀ともいう。


〇スクロール 種別:魔法アイテム

魔法が封じられている巻物。開いて対象に翳し、魔法を詠唱すると誰でもその封じてある魔法を使用する事ができる。ただ、1回きりの使用制限で、価格も高い為乱用できない。巻物以外に本のタイプなどもある。


火球魔法ファイアボール

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法


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