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第639話 『ネックハンギング』



 ――――ネックハンギングツリー。


 相手の首を両手で締め上げて、そのまま宙へ持ち上げる。シェルミーをローザが突き飛ばしてしまった刹那、何処からともなくやってきた大男がローザの首を掴んで、彼女の身体を持ち上げた。


 その光景は、まさにそのネックハンギングツリーの通り。大木にかけられた縄に、ローザの首がかかって吊られている。そんな風に見えた。



「テトラ!! ローザを助けて!!」


「え? あ、はい!」



 見とれている場合じゃない。セシリアの声に私は我に返り、ローザを助け出す為に大男の背後に回り、羽交い絞めにしようとした。



「うがあああああ!!」


「きゃああっ!!」



 しかし大男は、ローザの首を締めあげたまま身体を大きく振って、羽交い絞めしようとした私に体当たりをした。私は吹っ飛んで、その先にいたセシリアをも巻き込んで倒れた。



「ロドリゲス!! やめなさい!!」



 大男の名前!? シェルミ-が叫んだが、ロドリゲスと呼ばれた大男は特に何の反応も見せずにローザの首を絞め続ける。このままじゃローザは、このロドリゲスという男に絞殺される。


 そう思った刹那、ローザはロドリゲスの両腕を掴み、ニヤリと笑う。骨のきしみ。



 メキメキメキ……



「う、うがああああ!!」


「とんでもなく力が強いようだが、私も負けてはいないぞ。こう見えて、日々の鍛錬はしっかりと続けているからな。もちろん、お前程ではないだろうが腕力もだ」



 ローザが更に力を入れてロドリゲスの両腕を掴むと、ロドリゲスはローザの首から手を離した。その瞬間を狙って、ローザがロドリゲスの懐に入る。大きな顎に目掛けて下から掌底を打ち上げようとした所で、シェルミーが割って入り二人を止めた。



「いい加減にしてロドリゲス!! それにローザ、これは誤解なの。もうこの辺で勘弁してあげて」


「誤解?」



 シェルミーは大男、ロドリゲスの顔を両手で挟むと顔を近づけて言った。



「もういいの! やめなさい!」


「うがあ……」



 ようやく落ち着きを見せ始めるロドリゲスに、シェルミーは何か手を器用にせわしなく動かして見せる。するとロドリゲスもシェルミーに対して、両手を使ってジェスチャーのような事をして見せた。そして完全に落ち着いた。


 シェルミーとロドリゲスはお互いに、手を使って合図を送り合っているように見せた。なぜこれ程近くにいるのに、お互いに合図を送り合っているのか? それが私には、解らなかった。でもセシリアは、二人がなぜそんな事をしているのかちゃんと理解していた。



「手話ね」


「しゅ、手話? 手話ってなんなんですか?」


「手を使ってお話するのよ」


「手……手を使ってって……それはなぜですか? これ程近くにいるんですから、わざわざそんな事をしなくても普通に喋って伝えれば……」



 そこまで言って、はっとした。ローザも手話というものを知らなかったようだけど、その表情からもう察しているようだった。シェルミーが話す。



「ローザ、強引に引き留めてしまってごめんなさい」


「ああ、別にいい。荒事は慣れている……それで、店の外に出るなり、襲い掛かってきたこの大男は誰だ? 知り合いか? 手話で話しているという事は、喋ることができない……もしくは耳が聞こえないという事か」


「ええ、そうよ。ロドリゲスは耳が聞こえない。だから普段は手話を使って会話をしているの。そしてローザを襲った理由は簡単、ローザが私を突き飛ばしたからよ」


「なんだと?」


「もちろんしつこくした私が悪い。だけど店を飛び出したところだったから、ロドリゲスには私が一方的に襲われた風に見えたんだと思う。因みにロドリゲスは、私の家の使用人よ。力が強くて、私の家族をいつも第一に考えて守ってくれる最強の使用人。ね? ロドリゲス」


「うう……」



 ロドリゲスはすっかり落ち着いている様子で、私達に向かってぺこりと頭を下げた。そうだったんだ。


 最初に問答無用で襲い掛かってきた時は、ゴロツキかもしくは私達に気づいて襲い掛かってきた『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の刺客か何かとも考えたんだけど……シェルミーの使用人で良かった。


 通りには人が沢山行きかっていたので、私達の騒ぎで人が集まってきていた。だから私は、勘違いでした。ちょっと仲間同士で勘違いして! っと言って回った。すると騒ぎに反応して周囲に集まった者達は、興味を無くて去っていった。


 そのタイミングでシェルミーは、もう一度ローザ、それに私とセシリアの目を見つめて言った。



「得たいが知れないなら話してあげる。私はね、このリベラルに潜んでいる、ある人物を見つけだしてやっつける為にやってきたの」



 私達もシェルミーと同じく、このリベラルで倒すべき者がいる。メルクト共和国を乗っ取る為に、賊を次々とこの国へ送り込んでいる『闇夜の群狼』の幹部。その人を見つけ出して、倒す。



「わ、私達もそうです。シェルミーと同じくこの街で果たすべき目的があります」


「へえ、そうなんだ! 奇遇だね!! それは何か、この場で是非聞きたいけれど、まずは信頼を獲得する為に私の方から言わないとね。それが礼儀。私はこの今いるメルクト共和国を、『闇夜の群狼』から救いだす為にやってきたの。つまり、レジスタンスなんだ」



 レ、レジスタンス。今言った話が本当だとすれば、シェルミーさんも、メイベルやビルグリーノさんやマルゼレータさんと同じだという事。


 実際にビルグリーノさんには、沢山の仲間がいた。現在ボーゲンやメイベル、ミリス達が向かっているテラネ村にも、数多くのレジスタンスが集結してきているという話。だからシェルミーも、メルクト共和国を救うために立ち上がった戦士の一人だと言っても説得力があった。


 何より、私達を見つめるシェルミーの目は真っすぐだった。だから少なくとも、私にはシェルミーの『闇夜の群狼』を倒してメルクト共和国を救いたいという言葉は、真実に聞こえた。

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