第638話 『シェルミーとカフェでお茶 その2』
セシリアとローザはアイスティーを注文し、私はアイスオレを注文した。シェルミーは、モカフロート。
オーダーしたものがテーブルに運ばれてくると、それを一口。シェルミーが話し始めた。
「それでーー、それでさ。単刀直入に聞くけど、あなた達はいったい何者? クラインベルトのメイドさんっていうのは、その王国の特注メイド服を見れば解るけれど、大臣に用事を頼まれて……だっけ? それは嘘でしょ」
「そ、それはその……」
「いいよーだ、隠しても解るもん。何もあなた達をどうにかしようと思っている訳じゃない。だけど、何か私の感っていうのかな。あなた達から危うさのようなものも、感じるんだよね。悪いようにはしないし、きっと力になれると思うから話して欲しい。どうかな?」
シェルミーは悪い人ではないと思った。なんとなくだけど、こちら側の人間……というか、上手くは言えないけれど、アテナ様に似た雰囲気というかニオイのようなものも感じる。ローザがシェルミーの目を一直線に見て問う。
「それなら先に話してもらおうか」
「え? 何を」
「街の門で止められていた時、シェルミーは私達に声をかけて、街の中へ入れる手助けをしてくれた。それはなぜだ? そしてアテナの名前を言った。私達はアテナの事を知っていると答えたけれど、なぜ君がアテナの名を知っている? それをまず説明してもらう」
ローザの質問を聞いて、シェルミーはアハハハと笑った。怪訝な顔をするローザ。セシリアはじっと成り行きを見つめている。私は二人と違って、ずっとハラハラしてそれが態度にも出てしまっていた。
ローザは、シェルミーをじっと見つめる。
「そんなに可笑しな質問をしたかな?」
「ううん、ごめんなさい。悪気はないんだよ、うん。まず最初の質問の答えだけど、単純に君達が目立っていたから、目についた。メルクト共和国は、今は荒れに荒れているからね。その影響で盗賊達がこの辺りにも徘徊しまくっているんだけど、そういったむさ苦しい人達の中に似つかわしくない可愛い女の子達がいたから……って説明すれば解ってもらえるかな。それに言った通り、私には一目で、テトラとセシリアがクラインベルト王国のメイドだと解った」
ローザとセシリアは、シェルミーの話にじっと耳を傾けている。私は目がずっと泳いでいるし、唾を何回も呑み込んでいた。額にも汗。
「だって気になるよね。メルクト共和国は現状、ヨルメニア大陸最大規模の犯罪組織、『闇夜の群狼』の巣窟になりかけているんだよ。それにあやかって暴れまわっている盗賊団も数多くいるし。見ただろ? リベラルへ入る門の手前で、盗賊団達が揉めごとを起こしていたのを。そんなとても危ない国へ、わざわざクラインベルトの王宮メイドが、大臣にお使いを頼まれたからって来るかな? そんな事をいう大臣もいないと思うけど」
シェルミーは、私達が誤魔化す為についた嘘を見透かしているようだった。だからと言って、正直に話してもいいものか……その判断が私にはできない。
「ここまで言っちゃったから、続けて言っちゃった方がいいね。その方が君達と仲良くできそうだ。ずばり言うけどテトラ、セシリア、ローザ――君達はこのリベラルに『闇夜の群狼』の調査に来たんじゃない? 察するに、クラインベルト王国から派遣されてきた隠密部隊って所かな?」
ドキリとする。ローザは陛下の命で派遣されてきているけど、私とセシリアは自分の意思でやってきた。でも本質的には、シェルミーの言った事と何も変わらない。
シェルミーの鋭い言葉に、セシリアもローザも全く動じていない。だけどバレていると思った。なぜなら私の身体から流れ出す冷や汗の量が、尋常ではなかったから。どどどど、どうしよう!!
「あれれ、どうしたのテトラ? 凄い汗じゃない。これ、ハンカチ。良かったらこれ使って」
「すすす、すいません! ありあり、ありがとうございます!!」
駄目だ。完全にシェルミーの推測を肯定してしまっている。でもシェルミーは、私に向けて言葉で問い詰めるような事はしなかった。ローザは腕を組んでシェルミーを睨みつける。
「どうしてそう思う? 全部間違いかもしれんぞ」
「アハハ、ないない。隠しているつもりかもしれないけど、ローザ。あなたはテトラと同じでとても正直な性格だよね」
「なんだと?」
シェルミーはそう言って、自分の腰の辺りを見せた。とてもセクシーな足が目に入ったけれど、セシリアとローザは、シェルミーの健康的でとても綺麗な足よりも、腰に吊っている剣に目がいった。
三日月刀という湾曲した剣。盗賊達が愛用して使用する定番の剣。
「私も剣の心得があるんだ。だから解っちゃうんだ。セシリアはどうか解らないけれど、ローザとテトラはかなりの使い手だよね。しかもそのローザの歩き方や仕草、言葉使いなどどう見ても、一介の冒険者とか傭兵なんかには見えない。だからと言って武芸者とも違う」
「…………」
「ずばり当てるよ。ローザ、君は騎士だね。しかも列記とした由緒正しき家系の騎士。テトラやセシリアが王宮メイドって所から導き出すと、クラインベルト王国の騎士だ。どう、当たりでしょ」
かなりの洞察力。だけど私には、シェルミーがいい人に思える。だけどローザは、シェルミーの事を危険だと判断した。
財布を取り出すと、私達4人分のカフェ料金をテーブルに置いて、私とセシリアの手を引いた。
「ま、待って! 私は協力者だよ!! 待ってったら! 話を最後まで聞いて!」
「ロ、ローザ! シェルミーが」
「出るぞ。シェルミーに借りはできたが、別の形で返す。とりあえずシェルミーから離れて、私達の使命を果たそう」
「待ってったら!!」
私とセシリアは、半ば強引にローザによってカフェから連れ出された。それでも追って来るシェルミー。そしてローザの腕を掴む。
「いい加減にしろ!! あんたは、得体が知れない!! 勝手に私達の事を想像するのはいいが、まとわりつくな!!」
「きゃっ!!」
軽く押したつもりだったかもしれない。追いかけて腕を掴んできたシェルミーをローザは、ドンっと突き飛ばした。
「シェルミーー!!」
「す、すまない! つい力が入った……ぐあああ」
倒れたシェルミーを心配して駆けよった刹那、誰かがローザの背後から迫ってきて、彼女の首を締めあげた。
私とセシリアは、驚いて何が起きたのか目をやる。すると、とても恐ろしい形相をした大男が、ローザを持ち上げつつも、その太い丸太のような両腕で首を締め上げていた。




