第637話 『シェルミーとカフェでお茶 その1』
「よし、もっと詳しく聞こう! でもお話するなら、やっぱりカフェだよね」
シェルミーはそう言って、リベラルの街にある彼女が最初に目にとめたカフェに私達を招き入れた。
店に入る前に、私の肩にとまるアロー。彼に囁くようにして言った。
「アロー。所でレティシアさんは何処なんですか?」
「そうですね、うーーん。それは僕にも解りません」
「ええ!? そんな……」
「ですが約束した通り、この街であなたを待っているのは、間違えないですよ。あっ、そう言えば、テトラ達が到着している事を知らせていませんね。では、ちょっと行って探してきます」
「ええ!? ちょ、ちょっと待って!! その間、私達はどうしていればいいんですか?」
「そんなの僕は知りません。これからカフェに入るんでしょ? とりあえずお茶でもしていればいいんじゃないですか?」
「そ、そんな悠長な」
バサバサバサ……
アローはそう言って、何処かへ飛び立ってしまった。カフェに入る手前で、セシリアとローザに「アローは?」と聞かれたので、レティシアさんを探しに行った事を伝えた。
カランカランッ
セシリア、ローザ、そしてシェルミーとカフェに入る。すると4人で座れるテーブル席へ誘導されたので、セシリアとローザが並んで座り、私はシェルミーの隣に座る形になった。
「あっ、そうだ。ちょーーっと待っててね」
「え?」
「お手洗い。直ぐに戻ってくるから、先に注文しておいてくれるー」
シェルミーはそう言って、立ち上がると背負っていた荷物も持ってお手洗いの方へと歩いて行った。
「こ、このまま消えていなくなってしまったらどうしましょうか……」
「…………そうなったとして、何か問題があるのかしら? 彼女が私達につきまとってきているのに、彼女の方から私達を撒く理由なんてないと思うのだけれど」
「あっ……そうか。はははは、そうでしたね……っひゃん!! セシリア、痛いですよ」
セシリアに胸を叩かれた。訳の解らない馬鹿な質問をしてしまったのはアレだけど、ミスする度に胸やらお尻やら叩かれても痛いし、反応にも困ってしまう。でもなぜかセシリアは、満足そうな顔をする。
ローザは、シェルミーが向かったお手洗いの方を軽く眺めた。セシリアも同じように気にしている様子。
「リベラルの街内に、一緒に中へ入れてくれた事については感謝なんだが、彼女はいったい何者なんだろうな?」
「さあ、何者なのかは解らないわね。今のところは……」
「でで、でも悪い人には見えないですけど……」
「兎に角、様子を見てみましょ。彼女が私達に興味を持っている事は明白だし、それについて首を突っ込んでくるというのなら、この際思いきって協力してもらえばいいんじゃないかしら」
「それはいいのか?」
「いいも何も、もう門を通過するのに協力してもらったわ。それに彼女は豪商の娘だと言っていた。連れている護衛やクルックピーの数からしても、きっと超がつく豪商の娘よ。この街にきているという事は、彼女にも、何かの目的やそれに対してコネクションがあるかもしれないしね。『闇夜の群狼』の幹部を探し出すなら、かなりの手助けになるかもしれないわ」
「で、でも、危険な事に巻き込んでしまっていいのでしょうか?」
「彼女が納得して、同意のもとであればいいんじゃないかしら。巻き込みたくないとか綺麗ごとを言っているのであれば、私達は既にアイシャやこれまでにも色々な人達を巻き込んでいるわ」
「そ、そんな」
セシリアのピシャリという言葉に、ローザがフフフと軽く笑った。
「確かにそうだな。しかし、同時に救いもしている。トリケット村や、リーティック村での事を覚えているだろ? 私達は巻き込みにきたのではなく、救いに来たのだ。そこは勘違いしてはならないな」
「ローザ……」
「おまたせーー」
元気なシェルミーの声。3人で振り返る。するとそこには、先程までとは違ったとても可愛らしい姿のシェルミーが立っていた。
シェルミーの姿は煌びやかで可愛くて……それでいて結構露出が多くて、同性である私でもドキっとするような服装に着替えていた。
また彼女の髪は、フードを被っていた時とは違って、燃えるような赤い髪が露わになっていて、それもとても輝いて見えた。私が思っていた事をセシリアが簡潔にして言ってくれた。
「あら、素敵な姿に着替えたのね。まるで踊り子みたいだわ」
「本当ですよ!! シェルミー、凄い綺麗です!! そしてとても可愛いです!! 露出が多いから見ていてちょっとドキっとしますけど、とてもいいと思います!!」
「ああ、いいな。とても似合っている。もしかしてシェルミーの正体は踊り子か?」
「皆、ありがとう。私の正体が踊り子かどうかという件については、残念ながらはっきりとそうだとは言えないけれど……全くの間違いでもないから、遠からずって感じかな。まあ、早い話がご想像にお任せしますとゆー事で、アハハ」
シェリーはそう言って私の隣に座る。その拍子に腰布がふわりとしたので、目がいく。身につけている下着が、簡単に見えてしまいそうな衣装に戸惑っていると、セシリアが私の表情に気づいてにこりと笑った。
「テトラはシェルミーの踊り子の衣装が気になって仕方がないようだけれど、もしかしてテトラも着てみたいのかしら?」
「え? え? いえ、そんな!?」
こんな際どい衣装をシェルミーは身に着けているのに、本人はまったくその事を気にしていない。それに戸惑っていただけだった。
でもセシリアの言葉にシェルミーは、目を輝かせて私の手を握った。
「そうなんだ! テトラも興味があるんだねー。いいよ、それじゃこのお店を出たら私と同じ服に着替えに行こうか! ね!」
「え? え? で、でも」
シェルミーは、もうどあっても私に自分と同じ踊り子の服を着せる気だった。
セシリアとローザに慌てて助けを求めるサインを送ったが、セシリアは面白がってにこにこと笑うだけ。
ローザは「テトラ、良かったじゃないか」と言って、私が助けを求めている事を全く理解くれていない様子だった。




