第636話 『シェルミーの興味の的』
私達は、このリベラルの街でやる事がある。
まず第一に、私達の到着を待つレティシアさんに会う事。ここへ来る途中に、私とセシリアを夢の中へと引き込んだラビッドリームも、まだ私の中に潜んでいるとアローは言っていた。だからレティシアさんに会ってラビッドリームを返さなければならない。
その後に、この街にいるという『闇夜の群狼』の幹部の情報を教えてもらう。
勿論レティシアさんが期待通りに、調査して有力な情報を掴んでいてくれればだけど。
そして第二に、その情報をもとに『闇夜の群狼』の幹部を倒す。倒して拘束し、メルクト共和国で暴れまわる盗賊達を降参させる。
こうしている間にも、メルクト共和国の人々は盗賊達に略奪され襲われている。
ボーゲンやメイベル、ミリスさん達だってコルネウス執政官やビルグリーノさん達とテラネ村へ向かい、首都グーリエ奪還に乗り出しているはず。もしくはその準備を整えている。
私達も早く、行動を開始して親玉を叩かないといけないのに……そういう役目がこの街ではあるのに、この女の子は私達に物凄く興味があるのか、ついてくるような事を言った。
「あ、あの」
「えーーと……」
「私はテトラと言います。こちらは、セシリア。ローザは自己紹介しましたけど、ボタンインコがアローで、アローが頭にとまっている女の子がアイシャです」
「うん。テトラにセシリアにローザにアロー、アイシャ。覚えたよ。そう言えばまだ名乗っていなかったけど、私の名前はシェルミー。とある豪商の娘なんだ。引き連れていた黒ずくめ軍団は、お察しの通り私の護衛さ。父様が心配してくれてね、つけてくれた」
「そ、そうなんですか。お父様は一緒ではないのですか?」
「いや、一緒にはいない。先にこの街には、妹が来ているから後で合流する予定なんだー。それで君達の予定、これから何をするの? はぐらかしても駄目だよ。私は君達を助けた。ローザはそれについて、お礼をすると言った。無理を可能にしたお礼としてはまだ遠いと思うけど、とりあえず君達のこれからの予定を教えてちょーだいよ。いいでしょ」
やっぱりだ。シェルミーは、やっぱり私達に凄く興味を持っている。どうしよう。こういう時に頼りになるのは、セシリアかローザ。セシリアに視線を向けると、セシリアはまた溜息をついてシェルミーに言った。
「確かにお礼はすると言ったけれど、できる事とできないことがあるのよ。それは解るでしょ? 正直言って、私達はあなたの暇潰しに付き合っている暇はないのよ」
「まあね。でもこれから何するのか、予定を話す位はできる事じゃない? もしできないって言うのであれば……そんなの間違いなく、この街で何か人には言えにような危ない事をしようとしている。そういう事だよね」
「そ、そんな訳ないですよ!! わわわ、私達はこの国を……むぐっ!!」
途中でセシリアに口を塞がれた。そしてセシリアは、鋭い目で威圧するようにしてシェルミーを睨んだ。
私は恩人に対して、そういう態度は良くないとセシリアに伝えようとしたけれど、セシリアは私が余計な事を口走るかもしれないからと、ずっと私の口に手を当てている。
「そんなに聞きたいの? 聞かなかった方が良かったって場合もあるけれど? その覚悟があなたには、あるのかしら。やぶ蛇って言葉があるのよ」
「アハハ、いいねえ。面白そう。それを言うなら、その逆もあるかもしれないね。聞いて良かったって場合もあるものねー」
セシリアは、ローザと目を合わせた。表情には出さないけれど、困っている。
アローは私達のやり取りに特別興味はないのか、割って入ってこず、アイシャの頭の上でじっとしているし、アイシャはまごまごしている。
あれ? そう言えばアイシャって……
「むぐ……っぐ……」
私の口を押さえつけるセシリアの手を両手で掴んでずらすと、アイシャに向けて言った。
「そう言えば、アイシャは大丈夫なんですか? もうリベラルに着きましたが、予定があるのでは?」
「え? へ、へえ。うちの叔父がこの街におりはって、到着したらそこへよる事になってますー」
「ええ!? それなら言ってくれれば良かったのに!!」
セシリアとローザもそれを聞いて驚く。
「へえ、せやけど、なんやらお取り込み中でしたもんで、様子見てから言わせてもらいましょー思ってました」
「それなら大丈夫です。こちらはもう大丈夫ですよ」
「へえ、そうですか。ほんなら、行かせてもーてええでしょうかね」
「はい! でもまた会えますか?」
「へえ、そりゃもちろんですわ。うちもまた皆さんに会いたいですもん」
シェルミーと向き合っていたセシリアも、会話を一時中断してアイシャに向き直り、彼女に握手を求めた。
「そう、それじゃさようなら。あなたにはお水もそうだけど、大きな借りができたわ。まだ私達もこの街にはいるから、見かけたら遠慮なく声をかけて頂戴。困った事があってもね」
「へえ、おおきに。それじゃ、いかせてもらいますわー……そうそう、うちの叔父さんなんやけどキラウいいはりまして、この街でなんやら商いやってはりますねん。もし滞在中に、叔父さんに会ったりしましたら、うちの名前出しはってください。サービスさせてもらいますよって」
「解ったわ。キラウさんね」
こうしてアイシャと別れた。彼女にはとてもお世話になったし、少しの間一緒しただけだったけど、友達になれそうな予感もあった。
アイシャもシェルミーの連れていた護衛の人達と同じように、別れ際に何度もこちらを見ては何度も手を振っていた。そして同じように街中を行きかう沢山の人混みの中へ消えていった。
暫くして、アイシャが消えていった方から、アローが羽ばたいて戻ってきたのを見て、笑ってしまった。
アイシャが去る時にも、ずっとそのアイシャの頭の上にアローが乗っていたのに、誰もそれを突っ込まなかったなと思った。
それを考えると、また可笑しくなって一人笑ってしまった。




