第633話 『盗賊達が大暴れ その2』
「静まれ、静まれーーい!! 盗賊共がああ!! 貴様らは、必ず面倒事を起こしてくれるな!!」
リベラルの街の外、城門前で盗賊達の大乱闘が始まると、街の方から更に大勢の門番が飛び出してきた。そしてそれでも収拾がつかないとなると、更にリベラルの兵隊が現れる。兵隊は門番と違い、武器も鎧もこれから戦争でもするのではという位に、重装備だった。
その兵隊の中の一人が、そう叫んだ。髪は白髪交じりで顔に皺も刻まれ、年齢は70歳近いと思われる。そして立派な深紅のマントを身に着けている所から、リベラル兵の隊長と推測できた。
スイコなど複数の盗賊達は、その男の事を以前から知っていたようで、武器をおろして大人しくなった。しかしカンダタは喰って掛かる。
「なんだああ、てめーは!? じじい、俺様になんか用でもあんのか? おめーも他の奴みたいに投げ飛ばされたければ、四の五の言わずにかかってこいよ!!」
「黙れ、盗賊団『蜘蛛の糸』の首領カンダタ! これ以上は目に余る問題を起こすようなら、ここで捕らえて然るべき罰を与えるぞ」
「へっへー、その前にじじい、名を名乗りな。俺様の名を知っているってーのに、俺様がおめーの名も知らねーっていうのは、フェアじゃねーじゃねえか。なあ、皆!! そうだろ?」
『おおおーーー! そうだそうだ』
『てめー、誰なんだよ!! 名乗りやがれ!!』
カンダタに呼応して騒いでいるのは、ほぼカンダタの仲間達だけ。スイコ達は、もう武器を収めると大人しく列に並び始める。そして騒いでいるカンダタ達の方を向いて、馬鹿な奴らだと呟いた。
虎髭の大男、バズ・バッカスももう暴れる気配はないようだった。リベラルから現れた兵隊長の登場で、今ここにいる全員がリベラルの兵隊とカンダタ一味に注目していた。
「やはり、賊は賊か。俺を知らんなら教えてやろう。俺は、この交易都市リベラルの治安維持及び防衛の役目を預かっているジラク・ドムドラである。この街でこういった問題が起これば、全てその責任と対処はこの儂に一任されている」
「へえー、そうなのかい! つまりてめーは、この街の守備隊長様って訳かい。それならさっさと立ち去った方がいい。ケガするぞ。それと俺達『蜘蛛の糸』盗賊団を、すんなりと街へ入れろや。それで見逃してやる」
「フッ、口の減らない奴だな。所詮はゴキブリか。おい、全兵士に告ぐ。速やかにこのゴキブリ盗賊団……おっと、蜘蛛だったか? こいつらを拘束し、望み通り街の中へ連行しろ。牢に入れて、その後に然るべき処分を言いたす」
「なんだとおお、この野郎!! やれるもんなら、やってみやがれってんだ!! こちとら、泣く子も黙る天下の大盗賊団『蜘蛛の糸』のカンダタ様だぞお!! その点ちゃんと解ってんなら、かかってきなってんだ!!」
また騒ぎが起きた。
今度は、リベラルの主力兵とカンダタ一味。リベラルの重装備の兵隊を相手に、カンダタとその一味は必死になって抵抗する。見方を変えればまるで、盗賊が街を襲撃しているようにも見えた。
城門前に並んでいた多くの人達に混ざり、私達は巻き込まれないようにカンダタ一味から距離をとった。
「ど、どないしましょテトラ。えらいことなってしまいましたわ。うちら、無事にリベラルの街の中へ入れますんやろか」
「解りません。どう思いますか、セシリア?」
「そうね、私も解らないわ。でもローザならいい考えがあるかもしれないけれど」
「ないな。もしかしたら、この騒ぎだからな。今日はもう城門を閉じられてしまって、中へ入る事はできないかもしれない。そうなったら、外でまた一泊キャンプする事になるな」
もしそうなったら、それはそれで仕方がないと思った。でも私達の到着を、レティシアさんが待っている。リベラルの街の中で待っている。
そしてもしもレティシアさんが、『闇夜の群狼』についての情報を既に掴んでいてくれているのだとしたら、少しでも早く敵の親玉を発見して、少しでも早く倒す事ができる。そうすれば、その分少しでも早くメルクト共和国を救う事ができる。
「アローは、どう思いますか?」
「どうって?」
「今の事態ですよ。もうすぐ陽も落ちてきますし……でも夕方になるまでには、街に入れるのかなって思っていました。だけどこんなに街に入りたい人の列ができていて、その上にこんな騒ぎが起きたんですから今日はもう中へ入れてもらえないかもしれない」
「レティシアに何か伝える事があるんでしたら、僕だけ飛んで行って、街の中へ入って伝えてきてもいいんですよ」
「そういう事ではなくて……」
「それじゃあ、成り行きを見守るしかないのでは? 何事も上手くいくとは限らない。そうなるように願い、努力する事はできますがね。とりあえず、今日はもうあきらめて、キャンプができる場所を周辺で探したほうが賢明かもしれませんね」
やっぱりそうするしかないのだろうか。セシリアとローザの顔を見ると、二人ともそれでいいのではないかという表情をした。アイシャも同様だった。
「そ、それじゃ、残念ですけど、今日は大人しく出直しましょう」
「それがいいわね。アイシャ、あなたもそれでいいかしら?」
「へえ、どちらにしても入れませんもん。それやったらその方がええですんで、ご一緒させてください」
私達は、今日はリベラルに入る事を諦めた。また明日、早朝から並べばきっと門が開いたと同時に中へ入る事ができる。
そうしようとその場を離れようとした――その時、誰かが私の肩を掴んだ。




