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第632話 『盗賊達が大暴れ その1』



 盗賊団『蜘蛛の糸』の首領カンダタとその仲間達は、門番の態度が気に入らないといって、突然暴れ出した。


 カンダタという男は、太っていて身体も大きかったが、身のこなしがとても素早い。周囲にいた門番をあっという間に、5人殴りつけて倒してしまった。


 しかし騒ぎが起きると、街の門から続々と新たな門番が飛び出してきた。ざっと数えても、100人はいる。



「セ、セシリア!!」


「リベラルは自治都市だから、この街が国みたいなものよ。だから当然、兵も持っているわ。いくらあのカンダタという男が強くても、盗賊団の一団一つで国と勝負なんてできない。直ぐに騒ぎは落ち着くわよ、きっと」


「そ、そうでしょうか」



 不安げな私と対称的に、騒ぎは落ち着くからじっとしていればいいと落ち着いて、成り行きを見ているセシリア。そのセシリアの横にいるローザは、腕を組んでじっとカンダタ達の騒ぎを見ていた。



「ど、どうかしましたか? ローザ」


「ん? いや、あの盗賊団は知っていてな。直接やり合った事はないが、手強い奴らだと聞いている。そしてその更に向こう側にいる、カンダタよりもガラの悪い巨躯の男。あいつも噂で知っている。しかも噂を聞いて、以前から興味を持っていた男なんだ」



 カンダタよりもガラが悪くて巨躯? それにローザが興味を持っている男って……


 ローザが指したその先、カンダタとその仲間達が門番達を相手に暴れているその向こうでも、また別の騒ぎが起きていた。


 そこではカンダタのように門番と盗賊団で揉めているのではなく、ガラの悪い者とガラの悪い者達でやりあっている。


 ローザが、興味があると言っているのは、複数の盗賊達に囲まれても全く動じずに、その囲いの中心でただ一人立って、多人数を相手に喧嘩を始めている男で間違いないと思った。囲んでいる側の男達ではない。


 その男も髭を蓄えており、身体は太っていた。でもカンダタよりも更に大きく、ズッシリとした身体。



「貴様、誰に喧嘩を売っているのか解っているのか? 知らないようだから、あんたの為に教えてやるが、俺達は盗賊団『双頭の蛇(そうとうのへび)』だぞ」


「ガハハハハ、へび? そりゃいい、俺様の大好物だ。それで、なんだ? おめーがその親分かよ」


「そうだ。『双頭の蛇』の頭領、スイコとは俺の事だ!」



 大勢で囲っている大きな男とは異なって、身長も普通だし痩せている男。しかしそのスイコと名乗った男は、鎖に繋がれた棒状の武器を取り出すとそれを両手で巧みに操り、ブンブンと振り回して見せた。


 大男は、特に冷めた目でそれを見ていたけど、私はそのスイコという男の動きと武器に目を奪われた。


 盗賊団とは名乗ってはいるけど、武芸としては見事なもので、スイコが今まで気の遠くなるような時間をかけて鍛錬してきた武術であることは、見て取れた。そして何より注目すべきは、二本の棒状の武器を鎖でつないだ武器――ヌンチャク。



「フフフ、これからリベラルに入国しようとしている時に、周囲で問題が起きてしまっているという事態なのに、随分と目を輝かせているな、テトラ」


「え? そ、そうですか!? そんな事、な、ないですよ」



 ローザに言われて自分でも驚いた。私、今そんな顔をしていた? アイシャの顔を見ると、彼女もうんうんと頷いている。



「なんや喧嘩してはんのに、テトラはそれ見て嬉しそう……っていうか、ウキウキしてるー言うんか、そんな表情をしてはりました」


「えええ! そ、そうだったんだ……そうだ、私、武術に興味があるから、だからあの人の喧嘩を見て、ちょっと興奮していたのかもしれない。スイコって痩せている方の人だけど、あの人が今手に持っている武器はヌンチャクっていう武器なの。だから喧嘩というか、武術を見ているようなそんな感じで見てしまって」



 ローザが驚いた顔をする。



「なるほどな。そういう目で見ていたという訳か。面白いな。確かに面白い。それに今テトラから、あの武器がヌンチャクというものだという事も解った。もしかしてそれは……」


「はい、そうです。モニカ様に武術を教わっている時に、様々な武器を使いました。結局は棒術か槍術という長柄武器が私には一番合っていたんですけど、ヌンチャクも少し使った事があったので……余計に興奮してしまったのかもしれません」


「はっはっは。確かにそれは興奮するな。私も騎士であるし、剣士でもあるからな。武芸に関心がいくのも解る。だが私が気になっていた男、あの囲まれている大男は更に興味深いぞ」


「ローザは、以前から知っているんですね」


「ああ、知っている。奴は覚えてないだろうが、私は二度ほど奴と戦って負けている」


「え?」


「昔だよ。もっと女子だった頃だ。今やったら、絶対に私が勝つ」



 ローザに二度も勝った事があるなんて……そのことに驚いていると、スイコの仲間達が先に動いた。一斉に大男に跳びかかる。だけど大男は、その表情に笑みすら浮かべている。



「はっはあああ!! 『双頭の蛇』の首領、スイコかああ!! そりゃあ、相手としちゃあ、なかなかいいかもな!!」



 向かって来る男達を殴り飛ばし、蹴りつけて掴んで地面に叩きつける。だけど大男も周囲から一斉に囲まれて攻められているので、完全には攻撃を防げないでいた。


 一人一人スイコの仲間を倒していくが、その間に何発も攻撃を身体、そして顔面にくらっていた。


 だけど大男は変わらず、ニタリと笑ってスイコとの距離をつめた。額には血。



「だああああっはっはっは!! やっぱりそうだ!! 相手としちゃあなかなかだが、それでもこの俺にとっちゃあ暇潰しに、どうにかなるって程度だな」


「なんだとおおお!? き、貴様!! この俺を本気にさせたいのか!!」


「本気? 本気出せるんなら、さっさと出しやがれ! そうすりゃ、命だけは助かるかもしれねーからな! ガハハハハハ!!」



 スイコの顔がみるみる赤くなり、怒りに染まっていく。しかし大男は、喧嘩の真っ最中だというのに高みの見物をしている仲間に合図を送り、酒瓶を投げさせそれを受け取ると豪快に飲み始めた。



「あの大男は、バズ・バッカス。『外道山賊団(げどうさんぞくだん)』の首領で、截天夜叉(せってんやしゃ)とも呼ばれている男だ」


「せ、せってん!? ってあの人は山賊なんですか!?」



 しかもローザが知っているという所から、とても有名な山賊なのだろうと思った。しかも相当強い。


 こちらでは大勢のリベラルの門番を相手に、カンダタとその子分の『蜘蛛の糸』盗賊団が暴れ、向こうでは截天夜叉(せってんやしゃ)の異名を持つ大男と、ヌンチャク使いのスイコ率いる盗賊団が争っている。


 もう少しでレティシアさんに会えるというのに、街に入れないどころか大変な事になってしまったと思った。

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