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第63話 『乱闘演武 その1』 (▼テトラpart)





 清掃用具のモップで瞬時に5人、打ち倒した。


 店の中にいる客は、全員如何にもゴロツキと言った感じで、バーテンの仲間だった。


 …………いや……一人、隅のテーブルで座る男がいる。静かに酒を飲んでいるが、こちらを気にしているのがわかる。単なる居合わせた客なのだろうか。だけど、この騒ぎに慌てた様子もない。


 男達は、私を一斉に取り囲んだ。先程の私の動きを見て、数を頼みにした方が良いと判断したのかもしれない。



「ヒャハハハハ!! かーわいーこちゅあーーーん!」



 後ろから、一人跳びついてきた。そうくる事は、すでに想定済み。避けると同時にモップで跳びついてきた男の背に一撃を打ち込んで潰した。男は悲鳴をあげて突っ伏した。


 バーテンが声を上げる。



「マヌケどもが!! 束になってかかるんだ!! それに見りゃ解るだろーがよ!! この女は何か武術のようなものをやっている! 油断せず、殺すつもりで行け!!」



 睨みつけられたが、私は怯まない。だって、頑張るって決めたから。ルーニ様をお救いするって決めたから。心の中で何度も強く思う。


 更に周囲からじりじりと迫る男達。酔っぱらっているのか、何を言っているのか解らない叫び声と共に武器を構えてかかって来た。目の前で仲間が一撃で倒されたと言うのに、まだヘラヘラと笑う余裕があるなんて。14人が同時、一斉に攻撃をしかけてきた。剣。斧。短剣。初撃をかわすと同時に、モップを使って反撃する。



「うおおお!! なんだこのメイド⁉ なんて動きだ!! 攻撃が全くあたんねーよ!!」



 コマのようにくるくると回転し、まるで舞っているかのように動いて、相手の攻撃を翻弄する。すると、私を取り囲んでいる男達は、自分達と私との力の差に徐々に気付き始めた。



「そうだ! こいつは獣人だ!! 身体能力が俺達ヒュームとケタが違う! 一気に全員でかかって押し潰すしかねえ」



 そう叫んだ男の喉に、モップのグリップ部分の先端を押し込んだ。男は、苦しそうに喉を抑えながら倒れてのたうつ。その光景を見て、同時に他の3人が攻撃してきた。私は、前に出ながらその攻撃をかわして容赦なく打ちのめした。流石に息があがる。



「はあ……はあ……ま……まだかかってくるんですか? も……もう、いい加減……降参してください!」


「怯むんじゃねえぞ!! この女は、息があがっている!」

 

「ハッハーー!! やっちまえー!!」



 今度は、一度に5人が斬りかかってきた。私も前に出る。攻撃。2人倒して側転し間合いを取るが、瞬時にそこから男たちの方へ前転で飛び込んで3人倒した。しかし、男達はまだ攻撃をやめる気配はない。



「早く、やれー!!」


「まとめてかかれって言っているだろ!!」



 男達の顔に焦りが見える。


 バーテンが、再び叫ぶ。その怒号に押された男達がまた懲りずに、私目掛けて一斉に襲い掛かってきた。


 こうなったら、何処までもやるしかない。モップを構える。しかし次の瞬間、男達はその場に倒れて呻きだした。



「ぎゃああああ!!」


「なんだ? どうしたおまえら!!」


「え? どうして? 私はまだなにも…………」



 まだ攻撃していないのに、なぜ男たちは倒れたのか? 店の中を見回すと、そこには先ほど隅の方で座って大人しく酒を飲んでいた男がレイピアを持って立っていた。レイピアからは、血が滴っている。唐突に男は言った。



「レディー一人に男達が寄ってたかってっていうのは感心できないね。だから、お嬢さん。良ければ、僕にも助太刀させてもらえるかな?」



 男は、旅人風だった。如何にも優男と言った感じの男で、剣の腕はかなりのものに思えた。


 5人は皆、その男が持っているレイピアの攻撃で足を串刺しにされていた。見ると、大腿部や脹脛の辺りから、出血している。背後から不意打だったとしても、5人相手にほぼ同時にそれをやってのけるなんて…………かなりの使い手。


 助太刀すると言ったけど、一人で戦う私に力を貸してくれるっていうの? いったいどうして? 



「アーサーだ。僕の名前は、アーサー・ポートイン。気ままに旅する愛の旅人さ」



 そう言って、ウインクをされたけど、どうすればいいか解らずに困った顔をしてしまった。



「フフフ……可愛い狐の君は、凄く照れ屋さんなんだね」


「な……なぜ、あなたが私に助太刀してくれるんですか?」


「あなたじゃなく、親しみを込めてアーサーって呼んでくれよ。酒を飲んでいたら、いきなり乱闘が始まった。本来僕は、面倒ごとには、極力顔を突っ込まない主義なんだが…………暫く成り行きを見ていると、やはりあなたのような可愛い人を助けないっていうのは、男として恥ずかしい事だと思ってね。だからここからは、とてもプリティーな君に加勢させてもらうよ」


「プププ……プリティー⁉  そそそ……そんな!! あなたは、いったい何を⁉」



 見知らぬ男にそう言われて、思わず自分が動揺してしまった事に気づいて赤面してしまう。いったい、どういうつもりなんだろう、この人。


 だけど…………


 いきなり助太刀だと言って参戦してきたアーサーという男。どう扱っていいのか、解らなかったけど、今は余計な事を考えてはいられない。兎に角、バーテンから情報を引き出さないと――――私は、再びバーテンに詰め寄った。



「もう十分でしょう! もう争いはやめましょう! 私たちは必要な情報を買いたいだけなんです! なぜそれが駄目なんですか? まず、話を聞いてもらえませんか?」



 バーテンの憤怒する表情は、一向に変わらない。



「なぜ、駄目かってー? そんなもん、俺が気に入らねえからに決まってんだろーが!! くそがー!! ここは、俺の店だ! ここじゃ俺がルールだ! こうなったら――――――おまえら!! やってしまえー!!」



 もう意地になっているのか。店中は、大乱闘で悲惨なありさまになっていた。床に転がる男達。


 バーテンの呼び声で後ろに控えていた、残りの3人が進み出る。――――恐らく、3人とも腕が立つ。そして、その中には見覚えのある者もいた。



 ――――昨日、店で会ったスキンヘッドの大きな男と、顔に傷のある男だ。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アーサー・ポートイン 種別:ヒューム

レイピアを巧みに使いこなす旅人剣士。キザな性格のようだが、その剣の腕は確かなもので剣を握れば、高速の突きを連続で繰り出す。テトラがメルの酒場に突入すると、店の隅のテーブルで静かに酒を飲んでいた。だが、彼はレディーに味方した。


〇掃除用のモップ 種別:掃除アイテム/武器

何の変哲もない掃除用のモップ。だが、メルの店にあったモップは乱暴に使用する事が多いので、通常よりも丈夫な物だった。棒術や槍術を得意とするテトラが持てば、立派な武器となる。


〇短剣 種別:武器

ナイフの事もさすが、ショートソードの事も短剣と呼ぶ。使い勝手が良くて、冒険者や傭兵、猟師も大抵は持ち歩いていて兵士も剣や槍と別で、装備していたりする。


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