第628話 『グラマラスボデー』
私もセシリアもローザも、そしてアイシャも下着だけになっていた。
下着だけの姿で、まず汗だくになった服を川で洗い、大きな岩の上に置いて乾かしていた。今日は暑いくらいに晴れたいいお天気なので、直ぐに洗濯物も乾くはず。
ここなら丘に隔てられていて、人が行き来する街道からも死角になっているし、目につかない。気兼ねしないで下着一枚の姿になれる。
川の水は流れに勢いがあって、凄く綺麗で冷たくて気持ち良かった。折角なので裸足になって川に入り、バシャバシャと水と戯れる。
「はーー、えらいもんやなー」
アイシャの声。明らかに私に向けられている感じがしたので、振り向いた。すると私と同じく下着姿で裸足になって、川に浸かって身体の熱気を冷やしている。そして、アイシャは呆然として私を見つめていた。
「はーー、ほんまえらいもんやーー」
「え? え? 何がですか、さっきから」
「えらいグラマラスやなー思ってーー。うちとは、えらい違いや。ダイナマイトボデーって奴やー」
話を聞いていたセシリアとローザがクスクスと笑う。二人も川の水で疲れを癒している。
アローは川で水を飲むなり、私のザックの上に乗ってコロンと転がっていた。
「そ、そんな私がグラマラスって……そんな事を言われた事なんて今まで無いですよ!!」
「へえーー、でもえらいごっついですもん! それ」
「で、ですから、そ、それってなんですか?」
「わからんのですか? テトラは、ほんまにわからんのですか? そんな立派なもん、身に付けてもーて」
アイシャがとても悲しいような、恨めしいような表情で私に迫ってくるので困惑してしまった。それにグラマラスって――
するとセシリアがすっと、こちらに近づいてくる。
「え、え? な、なんですか、セシリア?」
次の瞬間、セシリアは私の目の前までくると、背後に回った。そして両手で、思い切り私の胸を鷲掴みにした。
「ヒイイイイイ!! な、な、なにを!! いきなり何をするんですか、セシリア!!」
「解らないようだから、アイシャの代わりに私が指摘してあげているのよ!! アイシャは、あなたのこの大きくて立派な胸とお尻を見て、言っているのよ!!」
セシリアはそう言って、そのまま背後から胸だけでなく私のお尻も乱暴に掴んだ。
「ひいい!! や、やめて、セシリア!!」
「恨むなら、自分のその恵まれすぎている身体を恨むのね」
「やめてーー、セリシア!!」
襲い掛かってくるセシリア。振り払って逃げようとすると、セシリアはそうはさせないと更に迫ってくる。そのまま縺れて転んで、全身ビショビショになってしまった。ローザが声をあげて笑う。
「あっはっはっは。まったく、川を見つけて水を手に入れた途端、元気全快だな。だがいい事だ。そう言えばアテナと冒険していた時に、一緒にいたエルフなんだが……そのエルフと私の関係に、セシリアとテトラは似ているかもしれないな」
「アテナ様です」
ローザがアテナ様の事を呼び捨てにしたので、セシリアの表情が一瞬真顔になった。ローザもそれに気づいて慌てて説明する。
「すまんすまん、セシリアは、国王陛下直轄の王宮メイドだったな。本来ならアテナ様、もしくは王女殿下とお呼びするべきだし、確かに私は陛下に忠誠を捧げている。そしてもちろん、アテナにも捧げている。愛していると言ってもいい」
そしてもちろん……の所から、いつもキリっとして精悍な表情を見せるローザの顔が、なんというか……とてもしまりのないというか、デレデレとしたしまりのないものに変わった。私とセシリアは、そのローザの顔を見逃さなかったけれど、あえてこの場では触れなかった。
「そのアテナの頼みなのだ。王女殿下直々のご命令とあれば、騎士である私はなんとしても従わなければならないし、従うべきだと思っている。それがアテナの為であるなら、尚更だ。私は王国の為なら身を粉にする所存」
「な、なるほど。それなら合点がいったわローザ」
「理解してくれてありがとう。私もアテナ様の事をアテナと呼ぶようにし始めた時は、そりゃあかなり苦労をしたものだ。でもそれが、アテナの為になるのだと思うとな……ゴニョゴニョ」
ローザは、空を見上げると今度は目を輝かせ始めて遠くを見つめはじめる。私はローザがアテナ様の事を呼び捨てにしている事に対して、それ程気にはしていなかったけれど、セシリアは今の会話でローザの忠誠を本物だと確信したようだった。
でも忠誠は本物でも、アテナ様に対しての思いはそれだけではない気もする。
どちらにしても、私もセシリアもローザも、クラインベルト王国にお仕えしていて、自分達の大好きな国に忠誠を誓っている事には変わりがない。それに関しては、騎士とメイドの隔たりもない。
そんな事を思っていると、またセシリアが私の胸とお尻に手をかけてきたので、私は急いでザバザバと川の中を駆けて距離をとった。アイシャは相変わらず、私の胸とお尻を凝視している。
「え、えらい揺れてもーてはるわ。ほんま、えげつない程、実ってはるわ。うちもテトラのようになれるやろか?」
そもそも種族が違う。でもコロポックルにもグラマーな人はいるのかもしれない。
「ア、アイシャの知り合いのコロポックルには、グラマーな人はいなかったんですか?」
腕を組んで少し考えるアイシャ。
「うーーーん、おるには、おりはったかな。いや、おらへんかったかな? どちらにしてもテトラみたいな、えげつないもん持ってはったんは、おらへんかったと思いますわー」
「えげつないって言わないでください!!」
交易都市リベラルまで間もなく。そこではレティシアさんが私を待っている。
それなのに、私達は少し街道から離れた丘の向こうの川で暫し休息をして、お喋りして笑って楽しんでいた。




