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第626話 『アイシャ その2』



 ケヤキの木の下でアイシャさんに出会い、彼女と一緒に交易都市リベラルを目指す私達は街道をひたすらに北に向かって歩いていた。


 このまま3時間程歩き続ければ、目的地リベラルへは到着する。


 快晴。しかし天気がいいのはいいけれど、こうして歩き続けていると暑いしつらい。飲み水も、もう残っていないのでどうしようかと考えていた。


 水分が無くなって一番つらそうだったセシリアが、とりあえずアイシャさんから飲み水を分けてもらって一時的に凌ぐことはできたけれど……もう一滴も残っていない。


 3時間程度なら、リベラルまでもつかなって思っていたけど、照り付ける太陽は私の予想よりも遥かに身体から水分を奪っていた。


 街道をセシリア、ローザ、アイシャさんと歩き続ける。ローザは、体力にはまだ余裕があるみたいでアイシャさんと一緒に、彼女の小さな荷車を引っ張るのを手伝っていた。そしてその荷車の上では、アローがゆっくりとくつろいでいる。そんなアローを見下ろして、私は彼の事がちょっと羨ましいと思った。



「ふうーー」



 私はアイシャさんの隣に移動すると、ちょっと彼女に聞いてみた。



「アイシャさん、ちょっといいでしょうか?」


「へえ」


「アイシャさんは、普段から結構この辺りを行き来したりしているんでしょうか?」


「まー、そうやねえ。うちは、このメルクト共和国を中心に活動してますよって、普段から結構って訳ではありゃしまへんけど、何十回もこの街道は往復させてもーてますねん。メルクトに賊が多なってしもうてからは、ガンロック王国の方へも行商へ行く事が多なってまいましたけど」


「そ、そうなんですか。それじゃあ、もしかしてこの辺りに詳しかったりします?」



 私の唐突な変な質問に、アイシャさんは首を傾げる。もっと直球で要件を伝える事が出来ればいいのだろうけど、私は性格的にそれが苦手だったりする。



「そんなん聞きはって、なんでですー?」


「いや、その。実は水が無くて困っていたのはセシリアだけでなく、私達もだったんですけど……でもセシリアが一番つらい状況だったので、アイシャさんから頂いた水は全てセシリアに飲んでもらいました」


「そやったんですか。でももう、うちの持ってた水はあれで全部ですねん」


「はい、だと思いました。それでさっき聞いたお話になるんですが、アイシャさん……この辺りに詳しければ、何処かに水の飲める場所とかあるかなと思いまして……リベラルまでは、喉の渇きを我慢しようと思っていたんですけど……この暑さですから」



 この国が賊に支配されかけていて、こんなに荒れていなければリベラルに向かうにしても、村や街も正しく機能していて、水や食料の調達も簡単にできたかもしれない。


 だけど、今はそうじゃない。いくら考えても結局は栓の無い事。



「そや! それやったら、近くにええ所がありますわ。そこやったら、水がぎょうさんありはりますわ。ここからちいと離れとるんですけどね。よければ案内しますによって」



 え? 水源がある!!


 セシリアやローザと顔を見合わせるなり、声をあげて喜んだ。ローザが引いていたアイシャの荷車を、一旦その場に停車させる。



「アイシャ! そこへ案内してくれると助かる」


「お願いしますアイシャさん」


「お願い、アイシャ。そこに連れて行ってもらえれば、水筒に十分な水の補給ができるわ」



 アローは、いつの間にやら眠ってしまっている。だからセシリアとローザ、3人でアイシャさんに頼んだ。



「ええです、ええです。それやったら、早速案内させてもらいますわ。方角的には――」



 アイシャはそう言って、近くにあった岩によじ登ると、周囲を見渡した。そして少し離れた場所にある丘を指さして言った。



「あの丘ですねん。あの丘を越えた直ぐの所に、川が流れてはったはずですねん」



 セシリアは、かけている眼鏡をくいっと持ち上げて、アイシャさんが指した先にある丘をじっと見て言った。



「とても川があるようには見えないのだけれど」


「さいですやろ。でもありますねん。あのずーーっと横になってはる丘で、隠れてはるだけですねん。あっこまで行きはって、丘をあがれば……川ありましたやんかってなりますねん」


「そ、そう。それじゃ、あそこまでそれ程距離もないし、行ってみましょうか」


「はい。行ってみましょう!」



 アイシャの案内してくれた方角、私達は街道をまた一旦逸れて川があるという丘の方へと歩いた。


 丘までの距離はそれ程でもなく、あっという間についた。そして登ってみる。アイシャさんの荷車は、普通の荷車よりもかなり小さなサイズだったが、それでも荷が乗っているし、それに比例した重量もあるので私とローザで押して丘の上まであげた。


 丘の上までくるとアイシャさんが言った通り、直ぐ向こう側に川が流れていた。細い川だし、街道からは丘に完全に隠れている位置を流れていた。だから、確かにこの辺を知っていなければ、ぜんぜん気づけなかっただろうと思った。



「あった!! ありました!! 川ですね!!」


「川だ!! これで水の補給ができるな」


「やれやれと言ったところかしら」



 今度はアイシャさんの荷車を支えながら、川がある側へゆっくり丘を下りる。


 私とローザとセシリアは、3人並んで川まで走るとそのまま両手で川の水を救って、ゴクゴクと飲んだ。


 川の水は冷たくてとても美味しくて、私達は生き返った。

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