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第624話 『リベラルまで その2』



 大きなケヤキの木。その下に、小さな荷車とその木にもたれかかって座る人を見つけた。


 セシリアが、もう体力的にかなりつらそうだったので、私は彼女を背負ってローザとアローと共に、その木を目指して歩いた。そこまで行けば、そのケヤキの木の下で休んでいる人に、水を分けてもらえるかもしれない。


 木の下まで到着する。見ると女の子が一人、座りこんだまま居眠りしている様子だった。小さな荷車を見ると、色々荷物が積んでいる。でもその中で一番目立つのは、傘のように大きな葉っぱだった。



「随分とエスニックな感じの服を着ている女の子だな。気持ちよさそうに眠っているようなので、邪魔するのは忍びないが……やむおえん。こちらの都合で申し訳ないが、セシリアも限界だしな」



 眠っている小さな少女を見て、ローザが呟いた。


 手持ちの水が無くなって私もローザも、もう喉がカラカラ。だけど目的地の交易都市リベラルまではもう少しだと思うし、気合を入れていけばなんとか辿り着けるだろうと思った。道だって、街道を歩いている。万が一にも迷う事はない。


 だけどセシリアは、私達のように身体が強くもないし、体力も少ない。少ないというのは、少し違うかもしれないけれど、それでも一般的な王宮メイドの体力しかない。


 だからたまたま道中で見かけた、目の前にいる小さな少女に、水を分けてもらえないか聞いてみる事にした。


 セシリアを背負ったままだったからか、ローザか気を使ってくれて、ケヤキの木の下で居眠りしている少女に声をかけてくれた。


 ローザは少女がもたれかかっているケヤキの木の幹を、ノックする。



 コンコンコンッ



 すると少女は、はっと目を覚ました。



「や、やあ、おはよう。気持ち良さそうに居眠りしている所を悪いな。私の名前はローザ・ディフェ……」


「ヒイイイイイ!! 堪忍してくんさい!! 堪忍してくんさーーい!! 後生ですから!!」


「は? いや、その、ちょっと?」



 ローザが少女に近づくと、その少女は更に後ずさりして距離を取ろうとした。もしかして誰かと間違えて怯えているのかなと思う。



「ヒイイイイ!! うち、なんもしてまへんもん!! 悪い事、なんもしてまへん!! 命だけは、命だけは堪忍してくんさい!!」



 ローザは、溜息をつくと頬をポリポリっとかいて言った。



「いや、だから私達はな――」


「ヒイイイイイ!! 怖いッヒーーー!!」



 ローザと一緒に、私も彼女に説明した方がいいかも――そう思った時だった。


 ローザは素早く動いて、怯える小さな少女の後ろに回り込むと、彼女の両脇から両手を入れた。羽交い絞め……にするつもりではないようで、彼女をそのまま持ち上げて、自分の姿だけではなく私とセシリア……そして私の頭に乗っているアローを見せた。



「まあ落ち着け。私の事を何かと勘違いしているかもしれないので説明するが、私達は単なる旅人だ。私は騎士で、共にいるのはメイドにボタンインコ。とても、危険な連中には見えないだろう?」


「と、盗賊ではありゃしまへんのですか?」


「失礼だな。盗賊ではない。言っただろ、騎士だ。それにどう見ても目の前にいる二人はメイドだろ。ほら、よく見ろ。メイド服を着ている」


「ほ、ほんまや。これは、えらいすんまへん。うち、ぜんぜん勘違いしてしもーてましたわ。あんさんらの事を、盗賊や思うて――もうあきまへん、うち乱暴されて荷物も全部持ってかれてまうわー思って縮みあがってしもーてもーたところですわ」



 このメルクト共和国は、現状『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』という巨大犯罪組織に乗っ取られかけている。


 その混乱に乗じて、他にも数多くの盗賊達がそこらじゅうで暴れまわっている。だからこの少女は、眠っている間に、いきなり目の前に現れた私達の事を盗賊だと思い込んだのかもしれない。


 でも、どうやらもう大丈夫そう。彼女の目から恐怖の色は消えている。私は背負っていたセシリアを降ろして、先程まで彼女が居眠りしていたケヤキの木の下へ座らせて休ませた。


 ほんのり顔が赤い。水を飲ませてあげないと。



「すいません、私の名前はテトラです。今、あなたが座っていた所に座らせたのが、セシリア。そして頭の上に乗っているボタンインコはアローです」



 私も自己紹介すると、少女は私とローザ、そしてセシリアにアローの顔をキョロキョロと交互に見て回った。



「う、うちはアイシャいうんですわ。気も身体も小さいですが、これでも一応16歳になります。こんなこんまい時から、旅商人やらせてもらってますー」



 16歳。私より2歳年下。確かに言われてみれば、ルーニ様やリア、もしかしたらルン位の年齢にも見える。それくらい小さくて可愛らしい少女。


 私と同じ獣人でないのは一目瞭然だけど、セシリアやローザと同じ、ヒュームではないのかもしれない。他のそういう小さな種族。


 やっと少し警戒も解いてくれたので、ローザが本題を話した。



「アイシャ。実は私達は旅をしている」


「はあ、そうなんですか。旅人って、言ってはりましたもんなー。えらい大変ですな。うちも同じですわ。これからリベラルに、寄らせてもらおう思うてますねん。リベラル知ってますー? 交易都市の」


「そうか、アイシャも交易都市リベラルに向かっている途中だったのか。実は私達の目的地もそこなんだ」


「へえーー、へらい偶然ですやんか」



 ローザは頷いた後、ケヤキの木にもたれかかってダウン寸前になっているセシリアを指して言った。

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