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第623話 『リベラルまで その1』



 ――――翌朝。私、セシリア、ローザ、アローの4人はキャンプを畳むと再びリベラルを目指した。


 交易都市リベラル。このメルクト共和国の最北部に位置する交易の盛んな大きな都市だそうで、自治都市でもあるようだ。


 自治都市というのは、簡単に言うとその都市自体が一つの国みたいなものだという。つまりこのメルクト共和国には、もう一つメルクトに認められている国が存在するという事になる。


 当初の目的では、メルクト共和国を統治している5人の執政官の一人、コルネウス執政官を助け出し、メイベルやディストルの仲間、それにビルグリーノさんやマルゼレータさん達の一団と共にテラネ村へ行く予定だった。


 そこへ行けば、このメルクト共和国を乗っ取って支配しようとしている巨大犯罪組織、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を倒そうとしているレジスタンスが集結している。


 そのテラネ村へ、国を立て直す為に絶対必須であるコルネウス執政官を連れて行けば、更にレジスタンスの仲間は集まる。


 一気に水かさがあがった所で、テラネ村から近くにあるメルクトの心臓部、首都グーリエに攻め込んで首都を占拠する賊を一掃し、奪還する。そういう計画だった。


 だったって言うか、ミリス達やボーゲンは今もそのつもりで、メイベルやビルグリーノさんに同行して計画を進めている。


 対して私達は、セシリアとローザと合流したら後を追うとは言ったけれど、テラネ村や首都グーリエとはまるで別の方角へ進んでいた。それが交易都市リベラル。


 メイベルやディストル、ミリス達にボーゲン……皆私達が追いつくのを待っている。だけど私達には新たな考えが浮かんだ。


 メイベルやボーゲン達は、首都グーリエを取り返す。グーリエを取り返せば、きっと形成は逆転するはず。でもセシリアの話によれば、それでも不安は完全には取り除けないらしい。なぜなら、『闇夜の群狼』の幹部が、このメルクト共和国に大勢の賊を引き連れてきて指揮をとっているから。


 つまりは、そういう事。メルクトに蔓延る狼の根は、思ったより深い。完全に消し去る為には、根も焼き払わないといけない。


 だから私達は、いっそその指揮をとっているリーダーを倒してしまおうという考えだった。首都を奪還し、賊達に指示を出しているリーダーを倒せば、メルクトを一気に平定できる。それは明らかだ。


 それでレティシアさんが言っていた事を思い出す。


 『闇夜の群狼』の幹部が、交易都市リベラルにいるらしいと。そのリーダーは、もちろん賊の首領で何処かの国の将軍などではない。だから陣頭指揮をとったりするようなこともしないし、敵に顔はおろか姿も見せない。


 闇に潜み、陰から子分たちに支持を出す。普通なら何処にいるかも解らないかもしれないけれど、レティシアさんがリベラルにいるかもしれないと言っていたし、今彼女はそこで私達の到着を待ちながらも情報を探ってくれている。


 だから私達は、メイベルやボーゲン達の後を追わずに、リベラルに向かう事にした。


 交易都市リベラルまでは、街道を行けば迷う事もなく到着できるので、昨日色々とあった草原地帯から街道へと戻り真っすぐに目的地を目指していた。


 馬車でもあればもっと楽だったのかもしれないけれど、無いものはない。天気がとても良くて、清々しい。だけど空は快晴で、少し日光の眩しさと暑さも感じる中をてくてくと歩いた。


 …………


 そういえば手に入れた馬だけど……いなくなってしまった。


 あの薪拾いから夢の世界へ行った後、ラビッドリームを捕まえて、心配するローザの待つ場所へ無事に戻り、そこで一夜キャンプをした。すると朝、忽然といなくなっていたのだ。


 捕まえるのにあんなに苦労したのに……馬を繋いでいた縄が、完全ではなかったとローザが嘆いていたけど……



「はあ……」



 私の肩にアローはとまって、ずっと目を細めている。


 そんな楽しているアローの事がちょっと羨ましいなと思いつつも、後ろを振り返った。するとかなりしんどそうな顔でセシリアが歩いていた。


 私は元気に先頭を歩くローザを呼び止めて、セシリアに声をかけた。



「だ、大丈夫ですか? セシリア」


「はあ、はあ。大丈夫じゃないわって答えると、どうにかなるのかしら。もしかして、おぶってくれる?」


「そ、それは……」



 私も汗をかいているけど、セシリアも結構な汗をかいている。私とローザは体力はあるけれど……セシリアは普通の女の子だから、体力に自信のある私達に合わせて歩いているとかなり大変なんだろうなと思った。


 ローザも心配して、セシリアの様子を見に来る。



「セシリア、大丈夫か? ちょっと水分を補給するといい」


「ありがとう」



 ローザはそう言って水筒を取り出して、セシリアに手渡した。そう言えば水も残り僅かになっていた。昨日から川など水を補給できる水源を目にしていない。



「全部、飲め。まだ昼にもなっていないというのに、この暑さだからな。熱中症にでもなったら大変だ」


「でももう水筒には、残りわずかの水しかないわ。私とテトラは、もう全部水を飲んでしまっているし」


「かまわん。水くらいなんとかなるさ。見渡してみろ、辺りには草木がそれなりに広がっている。つまり見つけられていないだけで、水源はあるという事だ。なあ、アロー」



 ローザの言葉は聞こえているが、アローは「んーー」と短く返事しただけだった。もしもの為に少しでも体力を温存しているのかもしれない。それとも、ただ暑くてまいっているのか……



「ローザ、あとどの位でリベラルに到着するんでしょうか?」


「さあ……適当な事は言えないからなんともな。だがもうそれ程、遠くはないはずだ。近くまでは来ている」



 ローザは周辺を見回し、少し先の大きな木を指さした。



「見ろ、あそこで誰か人が休んでいるぞ。あそこまで行って、リベラルまであとどの位か聞いてみよう。知っているかもしれない」


「は、はい。そうですね。もしかしたら、水を分けてくれるかもしれませんしね」



 こんな時、マリンがいてくれれば魔法でいくらでも水を出してくれるのになって思った。でもいくら考えてもいないのだから、仕方のないこと。


 ああ……今頃、マリンはどうしているかな。無事にリアのお姉さんのルキアに会って、リアの事を知らせる事ができたかな。ううん、きっともう再会を果たしているかもしれない。


 暑くて、水も足りなくてちょっとしんどい旅だけど、リアやマリンの事を思うと自然と笑顔になれた。

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