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第622話 『赤い目の兎 その4』



 もう大変だった。森に入ると、巨大な白い毛玉だったラビッドリームが、もとの初めて見た時のサイズよりも小さくなり、なんと10匹に分裂していた。


 10匹になって森の中を駆ける兎。さっきまでは、巨大な毛玉から逃げていた私達だったけど、今度は一転して追いかけて回っている。散り散りになって逃げ回る10匹の兎を、私とセシリアで全力で追いかける。



「テ、テトラ……私もう……はあ、はあ、はあ、駄目……」


「セシリアは、そこで一旦休憩していてください!! 私が捕まえますので!!」


「はあ、はあ、お、お願い……」



 体力がそれ程ないセシリアは、早々にへたばってしまった。逆に私は体力だけはある。一生懸命に兎を追う。だけど1匹すら捕まえる事ができない。


 ピョーーンッピョーーンッ



「もう! 逃げないでください!!」



 時間にして30分位経過しただろうか。それでも捕まえられない。でもそれだけ時間が経過すると、こちらの心強い助っ人が復活をする。アローが凄い勢いで、復活して戻ってきた。



「アロー!! 大丈夫ですか?」


「え? どうして? 僕は防御魔法でしっかりと攻撃を防いでいたでしょ?」


「え? でもあの兎が転がってきてそのまま潰されてしまったから」


「潰されてはいない!」


「え? でも、地面にめり込んで……」


「潰されてはいない! めり込んでもいない!! 僕は、ちゃんと攻撃をガードしたのですよ! 大きさがそもそも違うのだから、ああなるのは当然です。だからあのラビッドリームは、僕を轢き潰した気になってそのまま前進したようだけど、それはとんでもない勘違いなのです。その証拠にほら、僕はこの通り、まったくのノーダメージだったって訳ですよ。ハッハッハ」


「え? でも潰れ……」


「潰れていません! テトラ、あなたもなかなかしつこいですね。地面にめり込んだのは、認めますがガードはされていました。そう、しっかりとね! そんな事よりも、そろそろいい加減にあのラビッドリームを捕獲して、もとの世界へ戻らないと」


「はい。私とセシリアの本当の身体は、意識を失って今もあの草原に寝転がっているんですよね。時間が長引けば長引くほど、リスクが高くなる。そういう事ですよね」


「ええ。そう言う事です、レディー」


「でもただでさえ、あんな不思議な兎をどうやって捕まえればいいか解らないのに、10匹に増えてしまってどうしていいか」



 アローは、溜息をついた。



「フーー。本当ならこの状況下も、テトラのいい修行になるかと思ったのですが、流石にこれ以上はどうしようもない感じになってしまいましたしね。解りました。僕がどうにかしましょう」


「え?」



 アローはそう言うと、逃げ回っている10匹の兎を目で追った。そして次の瞬間、アローの身体がどんどん膨張し始めた。それを見た私はアローが、空気を入れ過ぎた風船のように爆発すると思って叫んだ。



「ア、アローー!!」


「心配しないで。忘れましたか、ここは夢の中なのです。テトラ、あなたの夢をラビッドリームが媒体にして創ったドリームワールド。つまり不可能な事はない世界なのです」



 アローは、どんどん膨らんで100倍位の大きさまでなると、パアアアンっと大きな音を立てて弾け飛んだ。



「アローーー!!」



 セシリアも驚いて、こちらに駆けてきた。



「な、何があったの?」


「アローが、アローが風船みたいに膨らんで……」



 どうしよう!! そう思った刹那、破裂したアローの残骸の中から、何羽もの小さなアローが現れた。数えてみるとざっと30羽はいる。しかも可愛い!


 そして沢山の小さなアローは、そこらじゅうを飛び回って、逃げ回っている10匹のラビッドリームを追い込んで手際よく一か所に集めた。


 集まったラビッドリームは、光を放ち始めて合体! また1匹の兎に変わった。私は今しかないと思い、全力で走り兎を抱きかかえた。


 すると沢山増えた小さなアローの1匹が、私の肩にとまる。そして言った。



「よくやりました、テトラ、セシリア。これでもとの世界へ戻る事ができる。ローザが待っているから、急いで戻ろう」


「は、はい! でもどうやって!!」


「心配しなくても、ラビッドリームは捕まえた。後は僕がやる。二人とも目を閉じて」



 セシリアの顔を見る。するとセシリアは私に頷いて見せると、目を閉じた。私は兎を抱いたまま、セシリアの方へ近づくと、彼女の片手を握り目を閉じる。



「では、そのまま目は閉じたまま……ゆっくりとリラックスして」



 アローの声に耳を傾ける。言われたようにする。


 ――――――


 一瞬、物凄く眩しい感じがした。アローに言われてその通りに瞼を閉じていたはずなのに、眩しさを感じるなんてかなり不思議だと思った。


 目を開いてみるとそこは、草原だった。メルクト共和国の夜の草原。


 慌てて隣を見ると、隣で寝転がっているセシリアも目を覚ましたところだった。



「やあレディー、お目覚めかい」


「アロー!! 私……」



 目の前にアローがいた。横になっている私のお腹に乗っている。慌てて起き上がると、周囲を見回した。特に異常はないようだけど……


 セシリアも、むくりと起き上がった。



「どうやらこちらへ帰ってこられたようね。ホッとしたわ」


「兎!! 兎は!! あの土の精霊だと言っていたラビッドリームは、何処にいったんですか!? 戻ってくる時にしっかりと抱いていたはずなのに!」



 確かに抱いていた。目を開けるその瞬間まで、ラビッドリームを抱いている感触とぬくもりも感じていたような気がするのに……いざ、目を覚ますとそこにはいない。



「もしかしてレディー、あなたは、ラビッドリームの事を心配しているのですか? あなたに悪夢を見せたのに」


「最初はそう思いましたが……でもあの兎さんのお陰で、色々と思い出せた事もありました。あの時の事を……」



 アローにそう言うと、セシリアも沈んだ顔をした。セシリアには、以前に私のフォクス村での事を話したから……


 セシリアはフーーっと軽く息を吐くと、私の肩に触れた。



「まあ、兎にも角にもこうして無事にもとの世界に戻ってこれたのだから良しとしましょう。それにきっと、今頃はキャンプでローザが首を長くして待っていると思うわ。さっさと薪を拾ってキャンプに戻りましょう」


「は、はい! そうですね」



 立ち上がってセシリアとアローと共に、ローザの待っているキャンプへ薪を拾いながらも歩いて戻った。


 私は一つ気になることを、肩に乗っているアローに聞いた。



「それであの兎さんは、何処にいるんですか? ちゃんと捕まえましたよね」


「ええ、捕まえました。ですからラビッドリームは、今もあなたと一緒にいますよ」


「え?」


「あともう少しで交易都市リベラルです。レティシアに会うまではテトラ、あなたがしっかりとその兎を抱き留めておいてください」



 アローはそう言って、にっこりと微笑んだ。

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