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第62話 『バーテンダーのメル』 (▼メルpart)






 ――――――クラインベルト王国。王都下町に位置するスラム。


 そこに俺の城……つまり店がある。


 店は、それなりに繁盛している。客はゴロツキばかりの、糞野郎共しか来ねえが、とりあえず金は落としてはいきやがる。冒険者や盗賊なんかもそこそこ来るな。酒、そして情報を買いに来るんだ。


 信用できるやつから、胡散臭いやつ………色々バラエティーにとんだ客。へっ!


 ――――情報は、金になる。


 情報にはそれぞれその価値があり、それに見合った額を支払ってもらう。特に、うちは王都内でもデカい情報を扱っているので、そういったものは金額も高額になる。だがデカい情報だ。いくら高額でも金を払う奴はいくらでもいるんだ。


 たまに飛び込みで、いきなり情報をよこせとか、ふざけた事を言ってくる野郎もいる。如何にもマヌケ面だ。フン。そんなやつには、情報を売ってやるどころか酒も出してやらねえ。ボコボコに凹まして店から叩き出してやるんだ。


 そういや……自分から言い値を付けてくるアホもいたな。そんなやつも、酒をぶっ掛けて、店の外までぶっ飛ばしてやる。そうすれば、少しはスカってするってもんだ。そしてその後、そいつがどうなるか。うちの常連が寄ってたかって身ぐるみ剥いだり、通りの路地裏へ引きずり込んでリンチしたりしている。大はしゃぎしてな。


 ――――つまりこの店には、ルールがあるんだ。客はそれを守ればいいだけなんだ。それさえ守って金を払えばいいんだ。


 盗んだ金でも一向にかまわない。殺して奪った金でもかまわない。そんなもん、俺には関係ねえ。


 兎に角、俺の店が受け入れる客っつーのは、この店にちょくちょく酒を飲みにきて、俺に逆らわず、俺を怒らせないやつだ。つまり、俺はそういう自分にとって都合のいい奴しか、信用しねーし、情報は売らねーんだ。



 …………



 そんな事を延々と考えながら、グラスを磨いていると、ノックスが慌てた様子で店に入って来た。まるでこの店に、王国の兵士でも取り締まりにやってきたというようなツラだ。



「お……おい! メル!! 昨日来た、あの上玉のメイド二人! 今、またやって来たぞ!!」



 なんだと⁉ あいつらか? あんな目にあったってーのに、また来ただと?



「なにい? 昨日のメイドだと? 昨日の仕返しか? なるほど…………冒険者を雇いやがったな」



 テンプレートな展開。毎度、マヌケ面の馬鹿が店に来るから教育してやって追い出すと、その度に、そいつは逆恨みして腕自慢の冒険者を雇って仕返しにくる。よくもやってくれたなーっとか、後悔させてやるーっとか言ってな。


 それで、またコテンパンだ。ボコボコにやられて泣き叫びながら帰るんだ。いつものことだ。


 この間も、Bランクの冒険者を連れて来たやつがいたっけな。そいつは、馬鹿みてーに、自信満々に剣を見せびらかして来たもんだから、挨拶代わりにそいつの顔面に、ウイスキーの瓶でキツイ一発をお見舞いして転がしてやった。そしたら、ぶっ倒れちまったんで、そのまま丸裸にして外へ放り出して仕舞いだ。ザマミロだ! ダハハハ! 



 ――――いいか? この店では、誰も俺に逆らえねえ。



「それで、何人連れて来た?  貴族のメイドだろ? 10人位、連れて来やがったか?」


「いや、それがどうも……ふたりだけだ! 昨日来た美人のメイド二人だけなんだ!!」


「な……なんだとお⁉ そ……そんなの、殺されに来たってことじゃねーか? あの女ども、アホなのか?」



 ――――バンッ!!!!



 その時、店の扉が壊れそうな勢いで開いた。そして、獣人の方のメイドが入ってきやがった。俺は、扉の両サイドにいる常連に目で合図を送った。そうすると、ガラの悪い常連たちは、メイドを逃がさないように店の出入口である扉の前を塞いだ。どうするんだ? もう、ただでは、帰れねーぞ、小娘。



「なんのようだ?」


「じょ……情報を買いにきました。私に情報を売ってください!」


「ああ? じゃあ、売ってやるからよ、まずは俺のケツにキスしな」


「けけけ……けつ? そそそ……そんな所に、キスはしません!!」



 客たちが大笑いする。俺は、「うるせえ!!」と言って怒鳴った。



「ここは、王都で最も多くの情報を、取り扱っているって聞きました。ある人を探しています。どうしても、その人を見つけないといけないんです。…………この命にかえても!! だから…………お金は言い値で払います。ですから、協力してもらえないでしょうか?」



 ある人を探している…………命にかえてもだと? どうしても見つけなければならないだと? 危ない薬でもやっているのか、このメイド。



「嫌だと言えば、どうするんだ? まさかとは思うが、力ずくとかつまらねー事を言うんじゃねえだろうな」



 俺はそう言いながら、メイドの一番近くにいる奴らに、合図を送った。すると、合図に気づいたやつらが、立ち上がってメイドを囲む。



「どうしても、情報が欲しいのです! お願いします!!」



 メイドは、野郎どもに囲まれているにもかかわらず、頭を下げて頼む事を繰り返している。こんなどこぞの御貴族様のメイドがここまで、必死になって探しているやつって誰なんだ? ここまで来ると、逆に興味が出てきたぜ。



 …………まてよ



 …………確か、こいつ命に代えてもとか、さっきふざけた事を抜かしやがったな……



 ――――――!!!!



 待て待て待て!!!! まさかこいつ!! 王国のメイドか⁉ それなら、このメイドの必死さも合点がいく。



 ――――まずいぞっ! それはまずい!!



 だとすればこいつを逃がせば、クソ面倒な事になる!! 


 王国に知れても、奴らに知れても俺は殺される!!!!



 常連の一人が、そろそろと近づいてきた。



「どうするんだ、メル? 人質にでもとって、こいつらのアホなご主人様からたんまり、お小遣いでももらうか?」


「好きにしていいから、さっさと小娘を取り押さえろ!」


「いいねー!! 人質にするってことは、生かしておけばいいってことだよな! じゃあ、殺さなければ何してもいいって事だ? うっへー! 決めた! この狐っこは、俺様のお嫁さんにしちゃおう!!」



 ノックスは、そう言うとメイドに抱き着きにいった。


 しかし、メイドは咄嗟にしゃがんでノックスをかわすと、その体制から一回転――――ノックスの両足に水面蹴りを入れた。ノックスは、バナナで滑ったみたいに、派手に転んだ。



「ぎゃっ!!」



 まずい!! やっぱりだ!! やっぱり、俺の感は、冴えてる! こいつは、王国のメイドだ!! こんな武術を使えるメイドがそこらにいる訳がねえ。


 俺は、常連どもに向けて叫んだ。



「おめえらああ!! このメイドを逃がすなあああ!! 絶対に逃がすなあああ!!」



 その言葉を聞いたメイドは走り出し、店の隅に置いてあった掃除用のモップを手に持って構えた。


 その姿を見て、常連たちが笑い転げる。



「ヒャーーーハッハッハッハ!!!! やべーぞ! 俺達みんなメイドさんに掃除されちまうぞ!」


「こんな可愛いメイドさんに掃除されるなら、幸せだけどな! フェッフェッフェ」



 おいおい! 遊びじゃねえぞ! さっさと拘束しねーと…………



「いいから、さっさと抑えつけろ!! そうすれば、このメイドをお前らで好きにしていい!」



 男どもに玩具にされたあと、外にいるもう一人のメイドと一緒に、消えてもらう。殺して、バレないように森に埋めれば足がつく事もない。見つからなければ、このあとに王国の兵士がやってきても、なんとでもしらばっくれれる。『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』…………奴らにも言い訳が立つだろう。 



「やったぜ!! さあ、覚悟しな! 狐のねえちゃん!! 抱き着いて、スリスリしてやんよ!!」


「拙者も、存分に頬擦りさせてもらう所存!! この日の為にタワシみたいな髭を、維持してきたって言っても過言ではない!!」


「へっへっへっへ。何もかも、ひん剥いてやる!! ひん剥きマスターの俺の底力、見せてやるぜ!」



 メイドに興奮した男どもが同時に3人、飛び掛かった。


 しかしメイドは手に持ったモップを、まるで槍か戦棍のように使い、飛び掛かってきた男達を殴り飛ばした。


 その光景に店の常連たちは、驚きを隠せない。



「使えないマヌケどもだ!! こうなったら武器を使え!! 手や足を斬り飛ばして、動けなくしろ。それからでも、あとで楽しめるだろ?」



 そう言って発破をかけると、男達はそれぞれ武器を抜いて、メイドに束になって襲い掛かった。


 ここで、始末をつける。でないと、マジで不味いことになる。


 むしろ、王国よりも『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』に知られた方が、より大変な事になってしまう。


 俺の額から冷や汗が噴き出た。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇メル 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王都にあるスラム街、そこで経営する酒場のバーテンダー。


〇バラエティーにとんだ客

メルの経営する酒場に来る常連客。チンピラ、ゴロツキ、色々と言い方はあるけれど、そう言った輩。中には冒険者や傭兵崩れ、現役の盗賊もいて腕の立つ者もいる。メルは酒や情報などを売る事でこの者達に一目置かれている。メルの店ではメルがボスで、メルの一声でバラエティーにとんだ客がメルの気に入らない者を排除する。


〇ノックス 種別:ヒューム

メルの酒場の常連客。スケベで有名で、スケベのノックスという二つ名を持っている。だからなんだと言われると、困る。


〇都合のいい奴

メルにとってとーーっても都合のいい客。つまり金になる情報を持ってくる奴か、メルの持っている情報を高値で買ってくれる客。メルの思い通りに動いてくれる奴も、都合のいいやーつ。


〇昨日店に来た上玉のメイド二人

一人は眼鏡をかけた黒髪のきつそうな女で、メルが葡萄酒を奢ってやった。もう一人は狐の獣人メイドでおどおどとしていて挙動不審だった。


〇店のルール

メルの店では、メルが作ったメルに都合のいいルールがある。もちろんそれに従わないのであれば、メルの一声で即刻退場させられる。


〇オレのケツにキスしな

この国のゴロツキやチンピラがよくいうセリフ。遥か東方の国では、同じゴロツキでも土下座をさせたがるそうだが、こちら側にある国々にいるゴロツキは、ケツにキスをさせたがる傾向がある。因みにガラの悪い貴族は、靴にキスをさせたがる。


闇夜の群狼(やみよのぐんろう)

メルが王国政府よりも恐れる謎の組織。


〇ひん剥きマスター

ひん剥く為に技術を磨き、それを極めし者。ゴロツキやチンピラである以上、幼気な若い娘をひん剥くというシチュエーションには遭遇する訳だが、そこで発生するひん剥きイベントをより成功させる為のスキルそのものでもある。速度やパワーだけでもよくなく、正確さやひん剥く順番及び芸術性も必要とされる。

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