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第619話 『赤い目の兎 その1』



 私達を拘束しようとする帝国兵に突進して、同時に4人を吹っ飛ばした。更に他の兵士が向かって来る。


 私は吹っ飛ばした兵士の一人に馬乗りになると、その兵士が所持していた剣を抜いてそのまま転がって離れた。


 奪った剣を突き出す。帝国兵達の喉元の辺りに切っ先を合わせて睨みつけると、帝国兵達は一旦襲ってくる足を止めてたじろいだ。


 後方からセシリアの声が響く。



「テトラ、その者達をその剣で刺したとしてもどうせ殺せない。ここは、あなたの夢の中の世界にある幻想のフォクス村なのだから。それなら、何も遠慮せずに思う存分に暴れた方がいいわ」


「そ、そうですよね」


「そうよ、問題無いわ。私が保証する」


「でしたら、そうします!! ええい!!」



 私は剣を構えなおすと、目前に迫っていた帝国兵達に向かって思い切り斬りつけた。



「ぎゃああっ!!」



 剣で身体を斬りつけられた帝国兵士は、傷口から大量の血を溢れ出させながらも仰向けに倒れた。一瞬、ゾワってした感覚が身体を走ったけれど、セシリアが再度「もう一度言う!! これは夢よ!! 私とあなたとアロー、それとあの兎以外は現実ではないわ!!」と言ってくれたので、続けて攻撃を繰り返した。


 次々と帝国兵を剣で斬りつけ、突き刺して倒す。私は長柄武器が得意で、剣の扱いは得意ではないけれど、巨漢ホルヘットや覆面女剣士、ローグウォリアー、ビーストウォリアーに比べればぜんぜん大した相手ではなかった。



「ぎゃああ!!」


「ヒイイ、ぐへっ!!」



 あっという間に、ハーガンとリヒャルトの二人を残すのみとなった。セシリアの方を振り返ると、セシリアはにこりと笑って頷いた。


 剣で攻撃し息絶えた帝国兵に目をやると、上手くは言えないけれど何か奇妙な感じもする。斬りつけた傷口から血は溢れ、吐血しているものもいるけど、なんて言うか……人形のような感じ。


 ハーガンとリヒャルトは、信じられないという表情をしていた。剣を抜いてはいるけれど、手は震えている。


 今の私は、フォクス村にいた頃の子供の私。でもいくら見た目が小さな少女でも、中身は違う。ルーニ様救出の為にドルガンド帝国領のトゥターン砦まで攻め込み、クラインベルト王国に潜む『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』のアジトも壊滅させる事ができた私。皆と一緒にだけど、それでも少しは成長した私。


 無抵抗な人達を惨殺し、何の力もない少女を木に吊るし上げて石をぶつけているような人達には、決して負けない。



「て、てめええ!! このままじゃ済まさない! できる事なら捕まえて、またお仕置きの続きをしてやろうと思っていたが、もうここまで来たら殺すしかないな!!」


「ハーガン、さっさとやっちまうぞ!! でないと、ハイドリヒ様に俺達が――」



 ハイン・ハイドリヒ。ドルガンド帝国の恐ろしい軍人。



「死ねえええ!!」


「うおおおお!!」



 ハーガンとリヒャルトは、鬼のような形相で同時に襲い掛かってきた。あの頃は何も出来なかったけれど――今は!!



「やあああ!!」



 向かって来る二人に対して、剣を突き出そうとした。刹那、後方から石が飛んできてハーガンの顔面を打ち抜いた。(いしゆみ)。そして、セシリアの声。



「今よ、テトラ!!」


「はいっ!!」



 リヒャルトの攻撃を避けると同時に、彼の首を飛ばす。更にセシリアの飛ばした石が直撃して転がったハーガンに馬乗りになって、両手でしっかりと剣を握るとそれをハーガンの胸へ下ろした。



「ええいっ!!」


「ぎょえええー!!」



 夢の世界で現実ではないけれど、私はあの子供の頃の私を木に吊るし上げた二人の男を倒した。



「よくやったわ、テトラ!」


「ありがとうございます! セシリアがちゃんと援護してくれたから!」


「そんなの当たり前でしょ? 私はそれ程、気が長くないの。それより、兎を追うわよ」


「は、はい!」



 原っぱの先、そこを大きな兎が駆けていた。その後を変わらずアローが追い掛けている。アローが兎に接触しよとすると、駆ける兎は急にブレーキをかけて身体を反転させてかわす。


 捕らえられそうで、捕らえられない鬼ごっこ。そんな現状に、遠めに見てもアローがイライラしているのが解った。


 私とセシリアは、アローのもとへと急いだ。



「アロー!! 大丈夫ですか!!」


「テトラ、それにセシリア!! どうやら無事だったようですね、何よりです」


「それより、あの兎――捕まえればいいんですか? それとも倒せばいいのでしょうか?」


「生け捕りにできるのなら、それに越したことはありませんが……おそらくそれは無理でしょう。よって倒すしかないですが、殺してはいけませんよ」



 私が質問すると、セシリアも続けてアローに問うた。



「それはどういう事かしら。状況から見て、この世界を創り出しているのはあの兎だと思うのだけれど。だとすれば、あの兎を倒せばそれで私達は、この夢の世界から目覚めるんじゃないかしら」



 セシリアの言葉に、兎をひたすらに追いかけていたアローは一旦追うのをやめて、私の方へ羽ばたいてくると肩にとまった。



「こうなってしまっては、先に話しておいた方がいいでしょう。まずこの世界は、テトラの心の底にある記憶がもとになって構築された世界です」



 や、やっぱり私の夢の中の世界――



「そう、テトラの夢の中の世界に僕らはいます。ですから本当の僕らの身体は、今はメルクト共和国のあの薪拾いをしていた草原に変わらず転がっています」


「そ、それって……」


「そうです。早く目を覚まさないと、運が悪ければ偶然通りかかった魔物の餌になるかもしれんませんね。そしてそうならなかったとしても、このままこの夢の世界へ居続けるともう二度と目が覚めない……もとの世界へ戻っては来れないという場合もあります」



 ええ!? そんな!! だからアローは、私達を助けに来てくれたんだ。ローザと一緒にキャンプで待っているはずだったアロー。でも彼は魔法使い(ウィザード)だ。


 何かを感じとって、ここまで来てくれた。するとやっぱり、セシリアの言った通り私達はあの兎に攻撃されているのだと思った。


 原っぱの先を見ると、少し離れた所で赤い目の大きな兎がこちらをじっと見つめていた。

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