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第618話 『あの日のフォクス村 その9』



 セシリアと二人で、村の中を見渡す。セシリアは、かけている眼鏡をくいっと軽く持ち上げて目を凝らす仕草を見せた。


 いつも眼鏡をかけているから、特に気にはしなくなってしまっているけど、そう言えばセシリアはあまり目が良くない。兎を探して村の中を見渡すなら、断然視力のいい私の方が適任。


 私は一層身を乗り出すと、屋根裏の壁に使用されている板の隙間からじっと周囲を見回した。すると向こうの方――村長の家の更に向こうの原っぱに、白く丸いものが見えた。フワフワの毛。



「あっ! あれ、セシリア!」


「あら、見つけた?」


「はい! しかもあれ……あそこ、ちょっと見てください!」


「え?」



 兎は、草場から草場へと跳ねて移動していた。しかもただ移動しているという訳でもない。逃げ回っている。カラフルな丸い鳥に、追いかけまわされて逃げ回っている。



「あら、まあ! あの兎を追い回している丸くてカラフルな可愛らしい鳥、もしかしてアローじゃないかしら」


「そうです! アローが私達を助けにここまでやってきてくれえたんですよ!」


「そうね。しかもあの兎を追いかけまわしている所を見ると、やっぱりあの兎がもとの世界へ戻るための重要な鍵のようね」


「ええ、きっとそうです。アローがいるなら急ぎましょう。私達もあそこへ行って、アローに加勢すればきっと上手くいきます」



 セシリアは、うーーんと考える素振りを見せると、兎とアローのいる辺りまでの中間に位置する村長の家を指さして言った。



「あれ……あなたを木に吊し上げたドルガンド兵がいるわ」



 ハーガンとリヒャルト……私を縄で縛って木に吊るした人達。そして容赦なく私に石を投げた。



「20人位はいるわね。きっと私達を探しているのね」


「どちらにしても、あそこを抜けてアローのもとに行くしかないです」


「せめてアローに、私達がここにいるって気づいてもらえれば……いえ、もしもの話をしている暇があったら、さっさと行動に移すべきね。テトラ、いきましょう」


「は、はい!」




 空き家――


 一階部分に降りると、再び外に出た。フォクス村の中は、あちらこちらに帝国兵が徘徊しており、ふとその辺りの道を見ると、無残にも殺められた村人の死体が転がっていた。


 転がっている死体はどれも、私の知っている顔。いつも私の事を偽物や紛い物と言ったりして、罵声を浴びせてきた人たち。それでもその無残な屍を見ると、悲しい気持ちになった。


 道に出ると、そこらじゅうにいる帝国兵に見つかる。庭などにある草場の陰、そして家や小屋を利用してまずは村長の家を目指した。



「正直に答えろ!! 九尾(きゅうび)は何処に逃げた!!」


「で、ですからそれは、儂には解りません!!」


「もういい、殺せ!!」


「ま、待ってくれ!! 儂は本当に……ぎゃああっ!!」



 帝国兵が村長の首に当てていた剣を大きく振りあげて、そして下ろした。私は結末を知っていた。目を背ける。



「テトラ、これは夢よ。現実にあった事かもしれないけれど、今ここで起こっている事は現実ではないわ。しっかりと気持ちを保って」


「は、はい。ありがとうございます、セシリア。もう大丈夫です」



 忘れたくても、絶対に忘れられない大きなトラウマ。だから決して平気ではない。だけど大丈夫だと思い込むしかないと思った。ここが夢の中なら尚更、気持ちは強く持った方がいいと思う。心の闇にとらわれないように。


 村長の家を隠れながら迂回して抜けると、兎とアローが追いかけっこしていた原っぱへと出る事ができた。



「や、やりました! セシリア!」


「まだよ、後ろからつけられてきている。こうなってしまっては、あの人たちを倒してからアローを追うのが賢明ね」



 後ろからつけられている!? そのセシリアのセリフに驚いて振り返る。すると向こうから10人以上の帝国兵がこちらに向かって駆けてくる。


 ハーガンにリヒャルトの顔もある。手には、縄。この夢は、どうしても私を過去にあったように木に吊るし上げたいのだと思った。


 だけどそうそう思い通りには、いかないと思う。なぜなら今の私にはセシリアや、大切だと思える友人達ができたから!!

 

 私を支えてくれる人達。人間関係を通して、私は大きく成長できたと思う。ううん、まだまだ私なんて大した事はないのかもしれない。

 

 だけど私を鍛えてくれた、ゲラルド・イーニッヒ様やレティシア・ダルク、それに色々と暴言を浴びせながらもその言葉とは反対に、常に私の後ろで私の背を支えてくれていたボーゲン・ホイッツ。凄い人たちが私と繋がっていてくれた。


 だから、今までの出会いを通してはっきりと言えること。私がそんな凄い人たちに出会い歩んできた経験は、決してだてじゃない。



「テトラ!! この出来損ない!! 今、捕まえてやる!!」


「覚悟はできているんだろうな!! 勝手に脱走まで図ったんだからな。覚悟しろ、死んだほうがいいって思える程の刑罰を与えてやるぞ。ヒッヒッヒ」



 ハーガンとリヒャルトが他の帝国兵と一緒にこちらに掛けてくる。



「テトラ」


「はい、大丈夫です。セシリアは少し下がっていてくれますか?」


「解ったわ。アローたちを見失いたくは、ないのだけれど」


「はい、勿論手早く片をつけさせてもらいます!」



 私はそう言い放つと、向かって来る帝国兵に対して大きく構えた。



「おらああ!! 大人しくしろよ、狐女!!」



 狐女、そんなことを言われるだけで怖くて悲しくて泣きだしそうだった。でも今では、その程度の言葉を浴びせかけられてもボーゲンの口の悪さを思い出して笑ってしまう。



「でやああ!!」



 4本ある尻尾のうちの1本が光を放つ。向かって来る帝国兵達とぶつかる寸前に、私は身を低くして転がった。そのまま体当たりし、一度に帝国兵4人を吹っ飛ばした。

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