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第613話 『あの日のフォクス村 その4』



 ノヴェムはハイドリヒの部下を次々と殴り倒し、蹴り飛ばす。力量差は、圧倒的。だけど、数が違う。私はあの時と同じように無意識に叫んだ。



「ノヴェム!! 逃げて!!」



 するとノヴェムは、驚いた顔を見せた。そう……私はいつも後ろ指をさされては、なじられ蔑まれ罵られ……毎日愛想笑いと俯いて暮らしていた。


 唯一、森の中を散歩している時が一番自分らしくいれたのを覚えている。そんな毎日を暗く、誰の意識にもできるだけ触れないように影を潜めて生きてきた私が、大声で叫んだ。その事に妹は、何よりびっくりしたんだと思う。



「早く!! 早く逃げなさい!! あなたまで殺される!! 私は出来損ないの姉だけど、あなたのお姉ちゃんだから!! だから、この一度だけでもお姉ちゃんとして、あなたを守らせて!!」


「お、お姉ちゃん……」


「くっ! 余計な事を!! まあ、どちらにしても、もはやこの村は、別動隊によって周囲を囲まれている。捕らえるのは、時間の問題だ」



 ノヴェムは、目の前にいる帝国軍を瞬時に3人倒すと、思い切り跳躍しハイドリヒがいる方と逆の方へと走り出した。そして草陰に飛び込むと、そのまま姿を晦ました。


 ハイドリヒはとても冷淡な表情で私を睨んだ。そして部下に命じた。



「余計な事を。こいつを殺せ」



 そう、そうだった。あの時、ハイドリヒは妹を逃がしてしまって、私に怒りを向けてそう言った。だけど……



「閣下、少々よろしいですかね」


「リヒャルトか。なんだ、まさかとは思うが、私の邪魔をしたこの愚かな少女を助けよと言い出すのではあるまいな。崇高なドルガンド帝国の軍人として、私に同じ血の通う者を処罰しなくてはならなくなるというような、胸糞悪い気分にはさせないでくれよ」



 狂気に走るハイドリヒの目。それが向けられれば、同じ帝国軍人でもそれは恐ろしいもので、リヒャルトという男も例外ではなかったようだった。



「いえいえ、滅相もないです、閣下!! 自分が閣下に申し上げたい事というのは、この少女を見せしめにしてはどうかという事でありまして……」


「見せしめだと?」


「はっ! 閣下も以前言われておりました、有効活用というものであります!」


「ほう、なるほど。確かに私は以前、そんな事を話した。それは記憶している。面白い。それでは、リヒャルトの話を聞くとしよう」


「はっ! ありがたき幸せです!」



 リヒャルトはそう言って、少し離れた場所に見える、村に生える大きな木を指さした。



「この少女をあの木に吊るしあげます! そうすれば、我が帝国軍人のいい捌け口となりましょう! そして、同時に良い見せしめともなるのです!」


「……それは……あまり面白くないし、効果的とも思えないな。その程度で、兵達の遊びになるとも思えない」


「いえ、なります! きっと兵達はこぞってこの呪われた少女に石を投げるでしょう! もしかしたら他の場所からも石が飛んでくるかもしれません。何しろこの少女は、このフォクス村で嫌われていたようですから」



 ハイドリヒはリヒャルトとその言葉を聞くと、くっくっくと笑い出した。そうだった、そうだったのだ。私はここでそう言われ、あの木に吊るされて……思い出したくもない、つらく酷い記憶が蘇る。



「はっはっは、解った。その方が生産性があるというのであればお前の好きにしろ。どうせこんな出来損ない、役には立たない。顔は整っていて、大人になれば相当な美人になりそうな予感もするが……所詮ドルガンド帝国以外の下等種族。そんなものに、思いを寄せたり欲情するような愚かな者は、帝国には存在しない」


「その通りであります、閣下」


「リヒャルト。お前の(げん)を受け入れ、私はこれからこの村の村長のもとへ行って、見せしめに殺す。テトラの処分はさっさと済ませ戻ってこい。直に我が帝国の別動隊が到着するが、クラインベルトの王国軍もやってくるぞ。国王であるセシル自らが陣頭に立って指揮をしているというからな、その首を挙げる事ができれば……この上ない事だぞ」


「了解であります! それでは直ぐにこのガキを吊るしあげて、戻りますので!」



 ハイドリヒは、リヒャルトに私の事を一任すると馬に騎乗して部下を連れて、村の中心の方へと駆けて行った。


 リヒャルトと残った3人の帝国兵は、私を蹴飛ばした。



「うっ!! な、なにを……」


「何をじゃねー、くそだらあ!! リヒャルト様と言わんかーい!! この狐の化物が!!」



 リヒャルトは私の胸倉を掴み上げると、そのまま私の首を絞めた。く、苦しい……このままじゃ殺される……


 喉を潰されると思った所で、地面に叩きつけられた。起き上がろうとすると、腹に蹴りを深々と入れられて、痛みでのたうった。そして苦しんでいると、リヒャルトとは違うまた別の帝国兵に顔を踏みつけられる。更に踏みつける足は、徐々に力が強くなってくる。このままじゃ、頭を潰される。



「ヒッヒッヒ。死ね死ね死ね」


 ギリギリギリギリ……



 何かそういう音が頭の中でなっていた。このままじゃ本当に頭を潰される。



「その辺にしろ、ハーガン。いくら身体能力のある獣人だと言っても、まだガキだ。吊るしてからが地獄なんだからよー、こんなあっさと決着つけちまったら面白くないだろ」


「ヒッヒッヒ。言われてみれば確かにそうだな」



 リヒャルトにそう言われたハーガンという男は、私の顔から足をどけた。私はよろよろと立ち上がる。するとリヒャルト達に捕まれ、手足を縛られてさっきリヒャルトが指した木の所まで連れていかれた。


 そしてあの時と同じく、私を木に縛り付けて吊るした。

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