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第612話 『あの日のフォクス村 その3』



「一度しか言わないし、一度しかチャンスもないからな。テトラ・ナインテール、心して聞くのだ。今から私を、九尾であるお前の妹に合わせるのだ。嘘を言っても、戸惑っても地獄を見るぞ。だからしっかりと考えて、私の欲している答えを言え」



 私は悟った。どちらにしても殺される……と。ただ、殺し方が異なるだけ。レマの死は、きっとまだ楽な方に違いない。


 この青年、ハイドリヒを怒らせれば一生続くとも思える程の無限地獄に放り込まれて、いたぶり尽くされた挙句に、酷い死に方をさせられるだろう。


 気が付けば私は恐怖で、自分の家の方を指さしてハイドリヒとその他大勢のドルガンド帝国兵を、うちの方へと誘導していた。


 フォクス村の規模は、しれている。もしもハイドリヒを家まで誘導しなくても、どのみちハイドリヒが本気になれば一瞬で見つかってしまう。


 それにさっきのレマのように、村の者を捕らえて拷問すればそれでも聞き出せる。村の者なら、誰しもがこの村の伝説である九尾の末裔の家を知っているのだから。


 それなら、私は少しでも生き永らえたい。そう思っていた……のを思い出した。


 あれ? あれ? あれれ?


 どういう事!?



「どうした、テトラ? 何か問題でもあるのか? まさかお前の家ではない場所へ誘導しているのではあるまいな? もしそうだとすれば、大変な事になるぞ」


「い、いえ。そ、そんな事……考えてもおりません」



 また記憶が蘇ってくる。


 これは――この世界は私の遠い昔の記憶!! これは、私の住んでいたフォクス村が襲われた時の記憶だ。どうやってこんな過去の世界へ入り込んでしまったのか、なぜこんな事になってしまっているのか訳が解らない。けれどその中に今、私は確かにいる。


 気が付けば私の身体も、子供の時に戻ってしまっているし、先程まで頭の中もボヤっとして、記憶もなんだか曖昧になっていて、自分自身があの忌まわしい事が起きた過去の世界の自分へと変わってしまっていた。


 でも思い出した。私は、ファクス村にいるんじゃない。メルクト共和国にいる。そして先ほどまで、広い草原地帯でセシリアと一緒に横になって夜空を見上げていたはず。



「ここか、ここがナインテール家なのか? 確かに他の住民の家に比べてば大きくて立派な家だ。間違いはなさそうだな」



 ハイドリヒがそう言うと彼の部下が数人、家の中へと入っていた。そして私の両親を目の前に引っ立ててきた。私の昔の記憶……その通りなら、私の両親はここでこのハイン・ハイドリヒという青年に殺される。



「ド、ドルガンド帝国の軍人達がこんな辺境の何もない村になんのようだ」


「何も無いことはない。九尾がいるだろ? 九尾は獣人の中でも希少種と言われ、その体内には膨大な魔力を秘めていると聞く。軍事利用すればその力は一騎当千。我々ドルガンド帝国は、軍事国家だ。それだけでも立派な理由になるだろう、違うか?」


「くっ!! それなら、解った。そこにいるだろう。その子を連れていけ。その代わり、これ以上この村を襲わないでくれ」



 お父さんはそう言って、私の方を見て指した。


 ……そう、そう言えばそうだった。あの時、私の父は九尾である妹を守るため、あるいはフォクス村の皆を守るために、代わりに出来損ないであり偽物の私を差し出したのだ。


 あの時は、目の前が真っ暗になった。両親や他の村人の私を見る目。出来損ない。偽物。紛い物。失敗作。色々と陰口を叩かれ、後ろ指を指されていたから知ってたけど、それでも絶望した。


 ハイドリヒは、剣を抜くと私の父の首にあてた。



「私は嘘をつかれたり、舐められるのが嫌いだ。お前は出来損ないの娘の方を差し出す事によって、優秀な妹の方を守ろうとしている。どんなに出来が悪くても、親なら子は可愛いもののはずなのに……何とも呪われし一族だな」


「お願いします! テトラ、テトラは差し上げます!! どうせ、この村にテトラは居続けても幸せにはならない。それならいっそ……」


「いっそ……何? 殺せと!?」



 ハイドリヒの目が一瞬光ったような気がした。すると父の頭が、胴と離れて地に落ちた。鮮血。母の悲鳴。



「あなたのせいよ、テトラ!! あなたがドルガンド帝国の軍人をここへ連れてきた!! あなたは、本当に救いようの無い出来損ないだわ!!」


「お、お母さん……」


「お母さんなんて呼ばないで頂戴!! 私の娘は、ノヴェムだけよ!! あなたは――」



 そこで母の首も転がった。ハイドリヒの持つ剣は、赤く染まり血がポタポタと滴っている。


 あの時と同じ……あの時と同じシチュエーション!! なぜ私にこんなつらい過去をもう一度体験させるんだろう……いったいどうして、誰か……


 次の瞬間、私の家の中からドルガンドの軍人が何人も吹っ飛んで外に転がってきた。



「よくも私の両親を殺してくれたな? 許さない……」



 家の中に侵入したドルガンドの軍人を全て叩き伏せ、家の中から姿を現したのは、綺麗な銀色の9本の尻尾を持つ少女だった。9本の尻尾は、うねうねと落ち着きなく動いてハイドリヒ達ドルガンドの軍人達を威圧する。



「ほう、これがファクス村の伝説――九尾か。素晴らしい」



 ノヴェム・ナインテール、私の妹だった。

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