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第607話 『テトラとセシリア、二人だけの夜』



 メルクト共和国に来てからは、セシリアやローザだけじゃなくて、ミリスさん達やボーゲンにメイベル、ディストルと多人数で行動しているのが普通だった。


 だから今このメルクト共和国で、なんの変哲もない草原地帯を、セシリアと二人だけで薪を探して歩いているのがなんだか不思議な感覚だった。懐かしいというか、久しぶりとか――そう言った感覚に似ているかもしれない。



「どうしたの、テトラ? 考え事?」


「え? いえ、別にそういう訳じゃ……」


「そう、それなら別にいいのだけれど――」


「い、いえ。その……キャ、キャンプに戻ればローザもアローもいるんですけど、こうしてセシリアと二人で、こういった草原地帯をふらふらと歩いて薪を探して回るなんていうのも久しぶりで、なんだか楽しいなって思って」


「楽しい?」


「は、はい。メルクト共和国を助けなきゃいけないのにそんな事を思ってしまって、とても不謹慎かもしれませんけど……でもルーニ様が攫われて、救出する為に初めて城から出て旅した頃を思い出すというか……セシリアと色々と旅をしてキャンプをした事を思い出すと、なんだか無性に懐かしくって……だから今言ったように不謹慎かもしれませんけど、今セシリアと一緒に薪拾いしているこの時間が楽しくて……それでなんとなく嬉しくて」


「…………」



 セシリアに凄まれると、何もかも心の中を炙り出されるような気がして、全部喋ってしまう。だから正直に話したつもり……だったんだけど、セシリアに思いを伝えたら、彼女はその場に立ち止まってじーーっと私を見つめていた。



「な、なな、なんでしょうか?」


「いえ、別に。ただ……」


「ただ?」


「よくもまあそんな恥ずかしい言葉を、スラスラと口に出して言えるなと感心していた所よ」



 セシリアにそう言われて、私の顔がみるみると赤くなる。わ、私は……私は……



「でもかく言う私も、テトラと同じ気持ちかしらね」


「え?」


「私もテトラと同じ風に思っていたかもって話よ。私はこんな性格だから、特別な友人はいないわ。だからといって生れついての自分の性格を、今更どうにか変える気もないし――こんなどうしようもない私の事を友人だと思ってくれているテトラは、私にとって凄く大切な存在。だから私も二人でいた時の事を思い出して、少し懐かしんではいたのよ」


「セ、セシリア……」



 人生で親友だと呼べる人に何人出会える事ができるのだろうか。フォクス村にいた頃の幼い私には、森の動物や虫達がそれだと思っていた。それで納得していた。


 だけどこんな私にも、今はセシリアという一番の親友ができた。



「だけど、今は『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』などと名乗っているふざけた組織をぶっ潰さないといけないけれど。それが終わって世の中が平和になったら、陛下にまたわがままを言って二人……いいえ、マリンも誘って何処か長閑な場所でキャンプを楽しむというのもいいかもしれないわね」


「はい!! 絶対それいいと思います!! きっと、楽しいですよ!!」



 セシリアがそう言った事で、ふとマリンの事が気になった。彼女も私達の大切な友達。


 マリンは今頃どうしているだろうか? 『闇夜の群狼』とドルガンド帝国に攫われたルーニ様を救出した時に、一緒に助け出した女の子――リア。


 リアのお姉さんであるルキアが生きている事を知り、私はそのルキアにリアが元気でいると伝えに行こうとしていた。


 だけど、メイベルとディストルがやってきて、メルクト共和国を賊の強襲から救って欲しいと言われた。ううん、言われたのはバーンさんだけど、私も何かできる事をしたかった。

 

 ルキアに会って、リアが元気でいる事を知らせてあげるって事はとても大切な事。だけどメルクト共和国は、国全体が『闇夜の群狼』に襲われて乗っ取られかけているという瀬戸際。


 既に抵抗して殺された者達の数も、夥しい人数になってきているという。賊は、良民達にも容赦がないのだ。


 こんな私でもメルクトに行けば、僅かでも助けにはなる。だけど……どうするべきか悩んでいるとマリンは、メルクト共和国に行くつもりだった私の代わりに、リアのお姉さんであるルキアを探しに旅に出ると代わりを申し出てくれた。


 ……ありがとう、マリン……でも今あなたは、何処で何をしているのだろうか。


 ローザの負傷で、暫くセシリアと別行動していた事で、今余計にそういう風に考えてしまうのかもしれないけれど、またセシリアとマリンと3人で旅やキャンプができたら……とても楽しいだろうなと思った。


 暫くぼんやりとそんな事を巡らせていると、セシリアが急に集めていた薪を放り上げて草原に大の字になって倒れこんだ。背伸び。



「セシリア!! い、いきなりどうしたんですか!?」


「フフフフ、テトラもどう? 気持ちがいいわよ」


「でもキャンプで、ローザとアローが……」


「あら、ちょっと横になってお月様を眺めるくらい平気よ」



 セシリアはそう言って、自分があおむけに倒れている直ぐ隣を叩いた。


 私はセシリアに近づくと、手に持っていた薪を下ろしてセシリアの直ぐ横に転がった――夜空。


 数えきれないほどの星々に、綺麗な真ん丸のお月様。確かにセシリアの言うように、ちょっとならたまにはこうやって夜空を眺めてゆっくりとしてもいいかもしれない。メルクト共和国に入ってからは、ずっと気が張り詰めていたから――


 でも誰かに私達の今の姿を見られたら、夜中の草原地帯で倒れているメイド二人という状況を見て、何か事件が起きたのかもと驚くかもしれないと思った。


 そんな事を考えてフフフフと笑うと、セシリアが私の事を「何が面白いのか」と、不思議な顔で見つめたけれど、直ぐに何かを察して彼女もフフフと笑った。

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