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第606話 『ずるいセシリアと大人なローザ』



 草原地帯にテントが二つ。私とセシリアとアローで一つのテントを使う事にして、もう一つをローザに使ってもらう事にした。



「私が一人か。私だけ、何か悪いな。あれなら私がテトラかセシリアと一緒のテントを使用しても構わないのだが……」


「いいんです、いいんです! 私とセシリアはずっと二人で長旅をしてきましたし、一緒にいて特にどうという事も無く気兼ねもしないので」



 セシリアは、その綺麗な黒髪の天使のような外見からは想像しにくいが、寝相がかなり悪い。お腹の上に足を乗せられた事や、蹴られた事なんて何度もある。極めつけに寝起きも悪いのだ。


 ローザがもしもセシリアと一緒に寝て、朝になってそのままセシリアを起こそうとしたらどうなる事か……私だってセシリアの生贄にはなりたくはないけれど、それでもローザと一緒に寝かせるよりは、正しい判断だと思った。アローもいるし。


 そう思ってアローに視線を送ると、彼は首を傾げていた。


 そんなローザとの会話を聞いていたセシリアが、きょとんとした顔で言う。



「私は別にテトラでもローザとでも、どちらでもいいのだけれど。でもいつもテトラと一緒にテントに入っているからたまには、別の誰かとでもいいかもしれないわね」


「ダーーメ、駄目です!! セシリアは絶対私と一緒に寝るんです!!」


「……あら、そう」



 迂闊だった。またセシリアにのせられてしまった。これじゃまるで、私がセシリアと片時も離れたくないとか一緒に寝たいみたいに聞こえる。それに聞く人が聞けば、何か誤解を招きかねないような……


 ローザは「そ、そうか」と短く答えて納得する素振りを見せたので、私は顔を真っ赤にして言い訳しようとする。すると、セシリアがまるで見下しているかのような表情で言った。



「それじゃ仕方がないから、今晩は特別にテトラと同じテントを使う事にしようかしら。夜にセシリアがいないって泣かれても困るしね」



 っもおーーーー!! セシリアとローザの事を思って、自ら一番大変な所に飛び込んでいるのに!!


 腹が立ったので、いつもやられているお返しに、たまにはセシリアのお尻をつまもうかと思った。


 さりげなくそっと、セシリアのお尻の方へ手を伸ばそうとした所でセシリアがまたあの怖い目で私を睨んだので、私は後が恐ろしくなってしまい手を引っ込めてしまった。


 背負っていた涯角槍(がいかくそう)を、設営したテントに立てかけると私は、草原にバフンと倒れこんで、ゴロゴロと転がって回った。やるせない気持ちを、広がる大地にぶつけている。


 うーーん、うーーん。私だっていつまでも昔の弱虫でどうしようもなかった私じゃないし、やられっぱなしにもなりたくない。セシリアにはいつもやられっぱなしだから、たまには反撃してぎゃふんと言わせてやりたいけど……やっぱり後が怖い……


 もどかしい気持ち。ゴロゴロと転がっていると、セシリアが私を軽く蹴飛ばした。



「い、痛い!」


「痛いってそんなに強く蹴ってないでしょ? こんな所でいつまでも、転がって遊んでいる方が悪いんじゃないかしら? 逆に謝って欲しいくらいなのだけれど」


「え? ご、ごめんなさい」


「いいわ。許すかどうか、特別に検討してあげる」

 


 な、なにそれ!? セシリアはそう言って満面の笑みを見せた。っもう! 絶対、私で遊んでいる。遊んでいるのはセシリアの方なのに……って言うか、蹴飛ばしたのはセシリアなのだから、セシリアが私に謝らないといけないのに!!


 また大地に怒りをぶつけようとした所で、パチパチと火の音が聞こえてきた。振り向くと、ローザが焚火を熾していた。



「ほら、二人ともそんな所でいつまでも遊んでないで、晩御飯の準備に取り掛かろうか」


「は、はい! すいません!」


「そうね、解ったわ」


「それじゃ、二人で薪を集めてきてくれるか。食べるものは、私がリーティック村から持参したものがあるからそれを準備する。しかし薪が不足している。もう少し夜が深くなってくれば肌寒くもなるだろうし、ここは草原地帯だからな。あまり薪も無いだろう。だからキャンプからはなるだけ離れずに、今晩もつ位の量を、集めてきてくれると助かるんだが」


「解りました。それじゃ行ってきます」



 テントに立てかけた涯角槍(がいかくそう)を護身用の為に再び背負った。草原地帯にも生息している魔物は沢山いる。セシリアはボウガンがないし、魔物と遭遇したら私が戦わなくてはいけない。


 アローが私の肩に飛んで来ようとしたので、それを制した。



「アローは、ここでローザと一緒にいてください」


「ふむ、それはいいがこの周辺にも魔物はいるよ。あのゴブリンキングが、再び復讐しにやってくるかもしれませんしね」


「アロー、怖い事を言わないでください。それにそれなら尚更、2人2人で行動した方がいいと思います」


「なるほど、ツーマンセルですか。確かに理にかなっている。それではお言葉に甘えて僕は、ローザ嬢と暫し二人だけの素敵な楽しい時間を楽しませていただく事にするよ」



 アローはそう言って、ローザの肩にとまった。あんなセリフを言うから、ローザに追い払われるかなとも思ったけれど、ローザはアローにニッコリとほほ笑んでいた。


 やっぱりローザは、私とは比べ物にならないくらいに大人で素敵な人だなって思った。



「それじゃ、行きましょテトラ」


「は、はいセシリア」



 なんとなく、このシチュエーションに懐かしい感じもしつつ……夜の草原地帯、私とセシリアは二人で薪を拾いに出た。

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