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第605話 『早く会いたいな』



 二頭の馬が手に入った。


 馬との追いかけっこを繰り返し、遂には追い詰めて捕まえる事ができた。お陰で私とローザは泥だらけ。


 空を見上げると、月と星々――辺りはすっかりと暗くなってしまっていた。


 交易都市リベラルでは、レティシアさんが私達の到着を待っている。そこにこのメルクト共和国を、乗っ取ろうとしている巨大犯罪組織『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部がいるという。


 私達は、急いでリベラルへ向かわなくてはいけないのに……馬を手に入れれば徒歩よりも遥かに早く到着する事ができると思っていたのに……その馬を入手する為に半日程それに費やしてしまった。


 目的地に早く向かわなければと焦ってしまう。今いる草原地帯から、もともと歩いていた街道へ戻ろうと躍起になっていると、ローザが私の肩をポンと掴んだ。



「辺りはもう暗い。このまま月の灯りだけを頼りにリベラルまで向かうというのは、危険も多い。今日はこの辺りでキャンプをして、明日朝早くにまた出発しよう」


「そ、そうですね」



 セシリアとアローも同意見のようだったので、私もローザの考えに従った。本音を言えば、早くレティシアさんに会いたかった。あって武術の稽古をつけてほしい。


 もともと友達のいなかった私は、森で動物や虫達相手に戯れている事が好きだった。だけど私の住んでいたフォクス村はドルガンド帝国に焼かれ、その後に見せしめとして私は、木に吊るされた。そんな私をセシル陛下とモニカ様が、見つけて救ってくださった。


 しかもそれだけでなく、まだ幼く震えていた私に食べ物を食べさしてくれて、温かいスープもくれた。汚れていた身体も拭いてくれて、フワフワする優しい肌触りのする毛布をくれた。


 そして陛下とモニカ様は、行くあてのない私にクラインベルトの王都へ来て、王宮メイドとして働かないかと仕事まで与えてくれた。


 王宮メイドになった私は、度々モニカ様の武術の稽古相手をするようになった。稽古相手と言っても、私がモニカ様とまともに戦えるはずもなく、いつもコテンパンにやられていた。


 しかも大怪我をしないように上手に――それは相当な実力差がないとできないことだった。


 私とモニカ様はそれ程、歳も変わらないのにどうしてこんなにも違うんだろう? って思ってた。


 それから何度も私は、モニカ様に練習相手として呼び出され、そのお相手をさせてもらった。


 私じゃモニカ様のまともな相手にはならい。それを何度もお伝えして辞退しようとしたけれど、なぜだかモニカ様は私の事を凄く気に行ってくださっていて、モニカ様が王宮にいらっしゃる時はいつも私が呼び出された。


 そんな日々が続き、気が付くと私は武術が大好きになっていた。


 王宮メイドとしての仕事も不満には思ったことはないし、住み込みで食事つき。大浴場も使う事ができる身分としては、下級メイドでも田舎の富豪よりもいい生活をしているのではないかとまで思っていた。


 ……仕事は、王宮のメイド。趣味は、モニカ様と稽古した数々の武術。最近じゃ、セシリアやマリンとキャンプをしたりする事もとても楽しいと思っている。


 だからかもしれない。レティシアさんという、底なしのとんでもない強さを持つ凄い人からもっと色々な武術をおしえてもらい、稽古をつけてほしいと思っている。


 ローザが周囲を見渡して、広がる草原の先に向けて指をさした。



「あそこにテントを設営しよう。あそこなら木が少し生えているだろ。そこに馬を繋いでおけばいい。それと辺りは草原が広がっているからな。周囲を見渡せるし、魔物や賊が襲ってきても直ぐに対処できるだろう」


「す、凄いですねローザ。流石、王国騎士団の団長様といいますか……直ぐにそういう考えが思いついて行動できるんですね」


「あははは、おだてても何も出ないぞ。それに大した事はない。人には、それぞれ得意分野があるからな。私は普段から騎士団長を務めているし、何百という部下を率いては訓練をしたり、魔物や盗賊の討伐に向かったりしている。だから行軍し、キャンプを張るなどというのは日頃からの事なのだ。逆に、王宮メイドの仕事をしろと言われても、私はテトラやセシリアの足元にも及ばないだろう」


「それでもローザのような人……例えるなら凛としているとでも言うのでしょうか。私もローザのようになれたらいいなって思います。私なんかじゃ、いくら努力してもそれは無理だって解ってはいるんですけど……あいたっ!」



 後ろからセシリアにお尻を叩かれた。



「な、何をするんですか? セシリア」


「直ぐに悲観的な事ばかりを言わない」


「そ、そんに私、悲観的な事ばかり言っていますか?」


「言ってるわよ。次言ったら、また叩くわよ」


「そ、そんなあーーー」


『アハハハハ』



 セシリアとのやり取りを目の当たりにして、ローザとアローが笑う。でも加減しているとは言っても、叩かれると痛いものは痛い。少しセシリアを睨みつけてやろうかと思ったけれど、目をやると逆に恐ろしい目で見返されたので目を慌てて逸らした。


 冷徹で感情を押し殺した無表情な目――


 セシリアには勝てない。だけど負けを認めるのは悔しいなあ。そんなくだらない事に思いを巡らせながら、ローザの指した木に馬を繋ぎ、テントを設営した。

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