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第604話 『馬 その3』




 もう一度ちゃんと目を凝らして見てみたけれど、やっぱり間違いじゃない。あれは、ミリスを攫ったゴブリンキングだった。


 あの時は、連れ去られたミリスを救い出す為に、ボーゲンとメイベルとディストルと一緒になって戦った。


 ボーゲンとメイベルはAランク冒険者だからかなり実力があるのは解ってはいたけど、Eランクのディストルがそれに負けない位の強さだって事を知って驚いた記憶がある。


 あの時は、もう少しでという所まで追い詰めたけど、そこでゴブリンキングには逃げられた。因みにその時は、ローザとセシリアはその場にはいなかった。


 女盗賊団『アスラ』が占領していたリーティック村を救い出した直後に、ローザがローグウォリアーとビーストウォリアーに襲われて負傷をしてしまった。それでローザは直ぐには旅を続ける事ができず、セシリアと共に怪我を回復させる為にリーティック村に残ったのだ。


 ミリスがゴブリンキングの集団に襲われて連れ去られたのは、その後の事だった。だから二人に、今目の前にいるゴブリンキングの事を説明した。勿論、セシリアの掌の上で休んでいるアローも話を聞いている。


 ゴブリンキングは、私の事を覚えているようだった。遠目に見ていても、私一人に狙いを定めて激しく睨んできているような気がする。


 セシリアが言った。



「でもそのゴブリンキングが、なぜ今になってテトラの前に現れたのかしら」


「馬を追っていたんだと思います。食べようとしていたのか、騎乗しようとしていたのかは解りませんが」


「偶然って訳ね。それでどうするの? テトラとローザ、二人であのゴブリンキングとその子分のゴブリン達を退治するのかしら? 先に言っておくけど、私はボウガンもないし、大して戦闘の役にも立たないと思うけれど」


「どどど、どうしましょう、ローザ? ここで戦いますか?」


「そうだな。ゴブリンは、例外なく冷酷残忍で醜悪な存在だ。このまま野放しにはしておけないが……ここは我々のクラインベルト王国ではない。それに先も急いでもいる。このまま何もしてこないようであれば、それでいいとも思ってはいるが……襲い掛かってくるならこのローザ・ディフェイン!! 容赦はしないつもりだ!!」



 ローザは正義感も強く、剣の腕も凄くて頼りになる。だけどその一方で、魔物や盗賊を相手に一歩も引かない所があって、リーティック村ではそれが仇になったと思う。だから私は、心の底ではゴブリンキングにこのまま何処かへ立ち去ってほしいと祈っていた。


 だけどやっぱりこのまま襲い掛かってくるようなら、私も全力で抵抗をする。抵抗をして今度こそ、ゴブリンキングを倒してもう襲撃されることのないようにするつもり。


 私とローザは武器を握りしめたまま、暫く草原地帯の先でこちらの様子を見ているゴブリン達と睨み合っていた。


 刹那、ゴブリン達の親玉のゴブリンキングが大きく片手を挙げて、そこから勢いよく横へ振った。すると周囲にいたゴブリン達は、草原地帯の更に向こうの方へと移動し始めて、やがて姿を消した。


 ゴブリンキングは、仲間が完全に移動を終えるまで最後までその場に残っていて、私の顔を見ていた。その顔は、なんていったらいいのか上手くは言えないけれどとても混沌したもので、恐ろしくてじっと目を合わせている事ができなかった。


 だけど私の隣にはローザがいて、後ろにはセシリアとアローがいる。だからなんとかゴブリン達が立ち去るまで、武器を握って見張っている事ができた。


 見合っていた全てのゴブリンがその姿を消すと、ローザはやっと手に持っていた剣を鞘へと納めた。



「相手の力量をちゃんと見定める事ができるとはな。なるほど、確かにただのゴブリンではないようだ」


「ゴブリンキングです。ミリスを連れ去った時にも巣に潜んでいて、身体の大きなゴブリンジャイアントとか大勢のゴブリンを子分に従えていました」


「強さだけでなく、魔物には珍しく統率力も兼ね備えたゴブリンだったという訳か。だとしたら、やっぱりこの場で退治しておいた方が良かったかもしれないな」



 ローザに言われて、はっとした。


 言われてみればそうかもしれない。いくら私達にはこの国を奪い取ろうとしている『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』という賊を、一刻も早く倒さなければならないという使命があるにしても、あのゴブリンキングはゴブリンキングでこのまま放っておいたらまた悪さをして誰かを襲ったり攫うかもしれない。


 セシリアの掌で横になっていたアローが起きあがると、身体の具合を試すように一回ピョンっと跳ぶ。そして、そのまま羽ばたいて私の頭の上に乗った。



「っま、僕もいつになく油断をしてしまって不覚をとってしまいました。ゴブリンというのは、冒険者にとってはとてもポピュラーな魔物なので、ついつい忘れがちになるのかもしれませんが、実は非常に危険な魔物です。確かにローザの言うように、退治できるのであれば、しておいた方がいいのかもしれませんね。まあ、もう何処かに立ち去ってしまいましたがね」



 少し皮肉の混じっているようなアローの言葉を聞くと、ローザがパンっと手を叩いた。



「我々はリベラルに向かっているのだろ? 迷っている時は最も優先している目的を思い出せ。それじゃ、リベラルを目指す為に逃げていった馬を捕らえるぞ。きっとそうは離れていないはずだし、あの群れだ。すぐに見つかるだろう。ゴブリンキングについては、再び私の前に現れるような事があれば、見事に両断してやるさ」



 私とセシリアは頷いて、ローザの後に続いた。ローザが走り出すと、セシリアは凄く嫌な顔をして先に行ってと言った。


 やっぱり馬がないとリベラルまでの道は、セシリアにはきついかもしれない。私はアローにセシリアの事を頼むと、馬を捕まえる為に先行しているローザの後を急いで追った。

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