第601話 『次なる目的地はリベラル』(▼テトラpart)
パンディットモンキー。とんでもない凶悪なお猿さん達のいた森の中で、私はアローと一緒にそのお猿さん達を相手に特訓をしていた。
なぜこんな大事な一刻を争う時期に、特訓なんて悠長な事をしていたか……それには、ちゃんとした理由があった。
このままの私じゃ、どうあがいてもメルクト共和国を救うなんてできないと思ったからだった。
別に私がいなくたってボーゲンやメイベル、ディストルだっている。ビルグリーノさんだってまだまだ本当の強さを見せてくれておらず強そうだし、マルゼレータさんだってそう。更に仲間には、ミリスさん達もいる。
このメルクト共和国を立て直す事ができるコルネウス執政官だって既に無事に救出し、今はボーゲンやビルグリーノさん達と一緒に首都グーリエに向かっている。だけど『闇夜の群狼』から、首都を奪還する為には、まずテラネ村へ立ち寄らなくてはならない。
テラネ村に到着すれば、その村にはコルネウス執政官を軸にして、国を立て直そうとしている人達や、ビルグリーノさんやメイベルの仲間が集結してきていると言っていた。
だから正直に言うと私一人それに加わったから、何か戦局が変わるなんて思ってもいなかった。
だけど……
だけど……モロロント山で戦ったホルヘットや、盗賊の双子の姉妹。あの覆面女剣士もそうだけど『闇夜の群狼』にはとても強い人達が大勢いた。
コルネウス執政官を追ってモロロント山に登った時にも、レティシアさんに偶然会わなければ、私はきっと最初に出会ったホルヘットできっと力尽きていただろう。
ローグウォリアーと、ビーストウォリアーという強力な刺客もいる。あの二人も、とんでもなく強かった。でも同時に勝ちたいとも思った。
私一人でどうにか戦局を変えられるなんて己惚れている訳じゃないけど、私がもっと強ければあの時だってもっと……って思えるシーンがいくつもある。
だからこそ私はもっと強くなりたかった。このままの私じゃ、絶対このメルクト共和国の為に力にはなれないと思ったから……だから、目的を脱線してもレティシアさんに教えを請うた。
しかしレティシアさんは、私を置いて一人交易都市リベラルに行ってしまった。いや、アローを置いていってくれたけど……
アローとは、レティシアさんが連れている、まるっとした形のボタンインコで、流暢に人の言葉を喋り魔法まで使用する。とても心強い私の友達。
レティシアさんは、モロロント山で討伐したガルーダの報酬を冒険者ギルドで受けとる必要があるからと言って、交易都市リベラルに先に行ってしまった。
私が追い掛けてくるのを知っているから、私にアローをつけてくれた。そしてセシリアとローザ……つまり仲間と合流したらもリベラルに来なさいとも――
それでレティシアさんは、セシリア達を待つ時間を有効活用した方が良いと、あの恐ろしいお猿さん達――パンディットモンキーが大量にいる森で、キャンプを張って待つ事になった。それが修行になるからと。実際、修行にはなっていた。
そしてセシリア達と、今はこうやって合流を果たすことができたし、お猿さん達もあしらえるようにもなった。
だけど、あの森でするキャンプは常にお猿さん達の襲撃に気を向けて警戒をしておかなければならず、かなりきつかったというのが本心。でもその甲斐もあってか、あの凶悪なお猿さん達の群れを撃退する程度の力はついたと思う。
レティシアさんにもっと実戦的な格闘戦の特訓をしてもらえたら……もっとパワーアップできるのになとも思った。
セシリアが作ったお墓。ルーニ様救出の際に、トゥターン砦に向かっていた所で、アンソンさんという人と知り合い色々助けてもらい、セシリアは、アンソンさんにボウガンをもらった。そのボウガンのお墓。
ずっと旅に持ち歩いて何度も使用してきたボウガンなので、少しガタもきていたのかもしれない。
パンディットモンキー達との戦いでそのボウガンは奪われ、ローザと共に奪い返すも修復不可能な位に大破してしまっていた。
だけど特別な思い入れのあるセシリアは、そのボウガンを土に埋めてお墓を作ってあげたのだ。ボウガンの素材はそのほとんどが木材だったので、そうする事が一番自然に戻ると思ったのかもしれない。
ボウガンが埋まっているお墓の前でセシリアが言った。
「さて、それじゃ行きましょうか」
「はい、交易都市リベラルにですね」
セシリアとのやり取りで、ローザが言った。
「もう一度確認させてくれ、テトラ」
「え? あ、はい。なんでしょうか」
「メルクト共和国は、こうしている間にも徐々に賊共に浸食されていっている現状だ。私も既に、ローグウォリアーとビーストウォリアーにやられた傷も完全回復した。今すぐにでも我々3人で、コルネウス執政官の後を追った方がいいんじゃないのか。きっとボーゲンやミリス達も私達が追いつくのを、今か今かと待ち続けているぞ」
「気になったので口を挟ませて頂きますが、3人ではなく4人ですよ」
私の肩にとまっているアローが頬を膨らませて言った。私は、特に気にせずローザに答える。
「レティシアさんです。レティシアさんがこのメルクト共和国を強襲した『闇夜の群狼』の親玉が、その交易都市リベラルにいると言ってました。だから私達はそこへ行ってその親玉を叩いた方がいいと思うんです」
唸るローザ。セシリアが、唸っているローザの代弁をするように言った。
「そうね、それならリベラルに行った方がいいかもしれないわね。ボーゲンやメイベル達が賊の本隊を抑えて、首都グーリエを奪還する。それと同時に私達は、このメルクト共和国を占領しようとしている賊の親玉を叩く。どちらが先に成功しても効果的だし、かなり敵の動揺を誘える作戦だわ。だけど、そのレティシアさんはなぜそんな『闇夜の群狼』の親玉……つまり幹部なのだけれど、その潜伏先を知っているのかしら」
情報の出所の謎。ローザもセシリアと同意見のようだった。
だけど私には、レティシアさんに会えばきっとそれも解るとしか、現状では答えられなかった。
それはとても無責任な答えかもしれないけれど、私にとってレティシアさんは、とても信頼できる人だと確信していたから。




