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第6話 『ルシエル・アルディノア』 (▼アテナpart)






 先日私は、ネバーランの森の遺跡辺りで、ウィリアムと言う戦士風の冒険者と出会った。その日は、たまたまその森でキャンプを張って薬草採取を楽しんでいた。


 暫く薬草採取に夢中になっていると、森の何処かで男の叫び声が聞こえてきた。喉の渇きも忘れて採取に夢中になりすぎていたので、水筒を取り出した。そして、水分を補給しながらも叫び声の出何処を探して周囲を見回した。


 耳を澄まして周囲を探っていると、突如草葉の陰から何匹ものレッサーデーモンに襲われて爆走しているウィリアムが飛び出してきた。そして、こちらに気づかずにそのまま走り去っていった。


 その光景…………血だらけになりながらも悲鳴をあげてレッサーデーモンに追いかけまわされて逃げている彼を最初に見た時は、びっくりして丁度飲んでいた水を豪快に吐き出してしまったし、鼻からも少し吹き出した…………


 そして、鼻がツーーンってした。ツーーンってしたけども緊急事態なので、鼻が痛いのも我慢して急いで助けに行った。


 その甲斐もあって、彼を何とか助ける事ができたという訳だ。良かった、良かった。


 それにしても、魔族と会うこと自体が稀なのに、一度にあの数のレッサーデーモンに追いかけられるってどういう状況だったのだろうか。単なる好奇心だけど、聞いておけば良かったかな。ネバーランの遺跡に入ってって言っていた気もするけど……今度、行って見るか。お宝があるかもしれない。


 まあそんなアクシデントがあり、薬草採取を中断してしまったので、今日はまた別の森へ薬草の採取に来ている。


 ギゼーフォの森と言う所で、前回採取を行ったネバーランの森と比べると、拓けていて鬱蒼とはしていない。どちらかというと、のどかで爽やかな感じの森だ。……あっ、兎がいる。可愛い。



「この前、採取した薬草も、ほとんどウィリアムの治療に使っちゃったからなあ。今日は、この森で十分な量の薬草を採取しないといけないわね」

 


 薬草の補充。そして、私特製薬茶ブレンドの材料調達。ウィリアムが絶賛していたのだが、自分でも結構美味しいしおまけに回復効果もあるので、とても良いものを作っていると自負している。


 そして、考えてみたんだけど、この薬茶を商人の所へ持っていったらいい値段で売れる商品になるのではなかろうかと思う。……ふむ。


 万が一、人気商品になるような事があれば、きっとこれは私だけのブランド商品になるかもしれない。どうしよう、そうなったらお金も入ってくるし……お金が入ってくると色々なキャンプ用品や装備も購入できてしまう。そんな事を考えていると、そういう欲の塊…………っていうか、気持ちが盛り上がってきてしまう。



 …………一瞬の閃きが脳裏に過る。



「ブレンドだけにブランド……ってね。…………ッフ」

 


 つまらないダジャレを思いついて、呟いて少し笑った。しかし、それは迂闊な行為だった。その時、唐突に何処からか視線を感じたのだ。



 ――――っは!!!! 気配!!



 気配の方へ振り向くと、そこには天使のような美しい顔にすらっとしたシルエットの、輝く黄金の長い髪の少女が立っていた。その手には、弓を持っており、尖った耳は、その容姿と合わせて一目でエルフと解るものだった。



 ………………



 ――――緊張――――

 


 ――――そして、沈黙。木の上で、小鳥たちのさえずりが聞こえる。



 静寂を破って、エルフが先に口を開いて呟いた。



「……ブレンドだけに……ブランド…………ッフ」



 ――――――!!!!



 このエルフ!! 今なんて⁉ 何て言ったあああ!!



「やめてええええ!!!!」



 私は、叫んだ!! しかしエルフは、まるで追い打ちをかけるように続けて、



「ブレンドだけに……ブラン……」



 私の顔は、トマトのように真っ赤になった。とりあえず、こやつを黙らせないと!


 一直線に素早くエルフに距離を詰めて、手首を掴んだら懐に潜り込んで襟を絞り上げる。エルフを背負い投げで跳ね上げた。



「しまった!! つい興奮して、勢いで投げ飛ばしちゃった!!」



 しかし高く跳ね上げられたエルフは、宙で華麗に回転した。



「えっ⁉」



 確か、エルフっていうのは強い魔力と高い運動能力を持っていると聞いたことがある。



 ドーーーーンッ



 華麗な回転からの華麗な着地、もしくは受け身を取ると思われたエルフだったが、宙で回転した後は見事に背中から地面に落下した。



「っったーーー!! 貴様! いきなり何をする⁉ 敵か? 敵なのか?」



 美しい顔のエルフは、もうプンプンに怒った。


 ……私は、何度も謝った。






 お詫びを兼ねて、ルシエルをキャンプへ招待した。……因みにルシエルとは、彼女の名前だ。ルシエル・アルディノア。私の勝手なイメージだけど、エルフの名前らしい綺麗な名前だ。


 ルシエルは、物珍しい物を見る様子で私のテントを観察している。



「珍しい?」


「これが、テントというやつか。凄いな。ふーん、ふーーん。オレの居たエルフの里には、こんな物は無かったな」



 ん? オレ?



「なるほど。簡単に折りたたんで収納して持ち運べるし、何処へ旅しても簡単に寝床ができるという訳か。これは、旅するならかなりいい代物だな」


「あのさ、ルシエルって女の子でしょ?」


「ああ、114歳だから女の子っていうのかどうかは知らんが、エルフの中だと割と若い方だぞ。ピチピチと言ってもまあ、いいと思う」


「……そうなんだ。さっき自分の事を、オレって言っていたから気になって……」


「ほう……それって、変か?」


「いや、変じゃないよ。私のエルフの勝手なイメージだけど、ちょっと違っていたから……エルフは自分の事を言う時は、私って言うのかなーって……ほら、でもエルフって森の知恵者って感じだからなんとなくそう思うでしょ?」



 うーーん。確かにあまりエルフの事には、詳しくはないけど……もしかしたら、実際のエルフは自分の事をオレっていうのかもしれない。



「ふーーん、そうなんだな」


「いや、ほら、気にしないで! それは、私個人の勝手なイメージだったってだけだしー。深い意味は、無かったんだけど偏見になっていたのなら謝るわ」


「あー、でも、里でも他のエルフ達に、オレじゃなくて私って言えって散々注意されたなあ。あははは、思い出した」


「言われてたんかいっ!!」



 手の甲で、ルシエルを軽くペシリと突っ込んだ。



 そんな会話をしつつもご飯作りを進める。肉が焼き上がると、塩と胡椒で味付け。これは、私のご飯。ルシエルには、茹でた豆を塩で味付けした物を出した。森で薬草と一緒に採取した野草のスープは、二人分。


 それを見て、よだれを垂らすルシエル。


 ……っえ?? 


 エルフってよだれとか垂らす種族だっけ?? 私がおかしいの?


 すると、ルシエルの表情が唐突に曇った。あれ?



「ルシエル? どうしたの?」


「いや、その……」



 ルシエルは、申し訳なさそうな表情で言葉を続けた。



「アテナにご馳走になっているのは、解っているし……わがままだとしたら、本当に申し訳ないと思うのだが……」



 はっとした。


 しまった!! もしかして!!



「ごめん、もしかして豆嫌いだった? もしくは、森の野草とか採取したから……森の知恵者としての立場で、野草を採る行為が森を傷つけたとかそういうので、怒っているとか……でも、食べる事は私達も生きてく上で必要な事だし」



 ルシエルは、吹っ切ったように答えた。



「まって! 違うんだアテナ。私は、招待されている方だし、このキャンプはアテナのものだという事も解っている。だが、私は豆を食しながら…………目の前で美味そうな肉にがっつく、アテナの姿を見せつけられるというのもだな。こう……我慢できんだろ? ん?」



 ……は? 


 それって…………?

 


「え? もしかして、肉食べられるの?」


「え? 食べるぞ。どちらかというと、大好きだぞ」


「え? エルフって肉食べないんじゃ……っていうか人間が狩りとかして、動物狩ると怒るよね。動物を殺したって」


「はっはっはっは。よく知っているなアテナ。でもそれは、爺ちゃん婆ちゃん世代のスタイルだな」



 なんてことだ。ルシエルに会ってから、どんどん凄まじい速度で私の中のエルフ像が書き換えられていく。



「じゃ……私の肉と豆、交換する」


「え? お豆も好きなんだけど」


「お……お豆もかーーーい!!」




 私は、私の中で凄まじい速度で書き換えられるエルフ像と同じ位のスピードで、ルシエルをペシリと優しく突っ込んだ。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、物語の主人公。ネバーランの森にある遺跡の近くで、レッサーデーモンに追いかけ回されていた戦士風の冒険者、ウィリアム・ハーケンを助ける。テントに招き、怪我の治療とご飯をご馳走した。森には、最近夢中になって自作している薬茶の原料になる薬草を採取しにやってきていた。

 

〇ウィリアム・ハーケン 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスは【ウォーリアー】。絵にかいたような戦士でウォーハンマーを愛用の武器としている。ネバーランの森でアテナに助けられる。アテナに治療と食事をご馳走になった後、テントで一晩御厄介になった。アテナと別れたあとも、ずっとアテナの事を思い出しては物思いにふけっている。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

お肌がプリプリピッチピチの114歳。見た目はもちろん、美少女。ギゼーフォの森でたまたまアテナと知り合ったハイエルフ。アテナのエルフのイメージとはかけ離れた性格をしており、肉を好んだり粗暴な物言いをしたりする。でも、気さくな性格でフレンドリー。金髪の長い髪にそのエルフさながらのシルエットから、黙っていれば美しいエルフに見える。黙っていたらだけど……


〇ハイエルフ 種別:種族

より精霊力の強いエルフ族。通常のエルフの他に、ヒュームとの混血のハーフエルフや精霊力よりも魔の力の強いダークエルフがいる。因みにエルフやハイエルフは、森の知恵者や守護者と呼ばれていて、彼らの住むエルフの里やその近辺でも森でも必要以上の動物の殺生などは嫌っている。


〇ギゼーフォの森 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある森。アテナがウィリアムを助けたネバーランの森とは対照的な森で、のどかで空気の澄んだ爽やかな森。凶暴な魔物は少なく、兎や栗鼠、鹿や猪に鳥などの動物が沢山生息している。薬に使える植物も多く自生している。


〇薬草 種別:アイテム

ネバーランの森や、ギゼーフォの森。その他、クラインベルト王国には様々な種類の薬草の採れる森が点在している。村や街では、あまり薬草の状態で売られている事はない。薬師が調合し、ポーションとして販売している事が一般的なので、薬草が欲しいアテナは自分の足で薬草採取をしに森を回っていた。


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[一言] 肉食系のエルフ(笑)
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