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第599話 『モーニング その2』



 シェーン・コナリーさんの奥さん、テレサさんは私達が注文したモーニングセットを運んできてくれた。


 私はシンプルにAセット。トーストとサラダにゆで卵。


 シンプルにって言っちゃったけど、サービスでそれに加えてスクランブルエッグもついてきた。朝からこんなに卵大丈夫かな? でも美味しいからいっかな。飲み物は、コナリーさん自慢のスペシャルブレンドコーヒー。


 クロエはBセット。ミックスサンドに、私と同じくサラダにゆで卵、そしてスクランブルエッグ。飲み物は、ロイヤルミルクティー。


 通常のモーニングでは、バリエーションメニューはセットにはならないそうで、ミルクとか珈琲とか紅茶とか、シンプルな感じの飲み物でないとセット料金にはならないらしい。でもクロエが美味しそうだと言ったので、セットにならなくてもいいからとロイヤルミルクティーを注文した。するとテレサさんがにこっと笑って、今日はセットにしてあげるからと言ってくれた。


 テレサさん、ありがとうございます。


 ロイヤルミルクティーっていうのは、その名の通りちょっとリッチなミルクティー。使用する茶葉も通常のものより高価なものを使用し、よりミルクに合うものを厳選して使用する。


 例えると、チャイに似た感じになるのかな。だとしたら、ガンロック王国を旅した時に友人になったナジームが入れてくれたチャイの味を思い出す。とても濃厚でほんのりスパイシー、甘くて美味しかった。


 でもこのお店のロイヤルミルクティーは、仕上げにほんの数滴ブランデーを振って香り付けしたら、甘くて美味しいホイップクリームを浮かべる。


 ううーーん、これは、私もなんだか飲みたくなっちゃった。でも朝は、シンプルにブレンドコーヒーって決めているんだよねー。ゆずれない、これはゆずれない。


 最後にカルビ。コナリーさん夫婦は、ちゃんとカルビの分も朝ご飯を用意してくれた。冷たいミルクにハムエッグ。前回も食べていたけど、使用されている卵が3つに増量していて、ハムも3~4倍位厚みが増していた。カルビはそれを見るなり、目の色を変えてもう夢中になって食べている。


 そんな私達を、コナリーさん夫婦は眺めて微笑んでくれた。



「アテナさん……わたしは……」


「うん、とりあえずまずは朝食を食べてからにしよ」


「は、はい」



 モーニングセットを私もクロエも食べ終わると、テレサさんがパンに使っていたお皿を下げて、デザートに剥いた林檎を出してくれた。兎の形を象っていて、とても可愛らしい林檎。その林檎の味にクロエの瞳が、輝く。私もクロエもお礼を言った。



「さて、それじゃ話をしようか――クロエ」


「え、ええ」



 俯くクロエ。悩んではいた。だけど、もう私にはクロエがこれからどうするべきなのか、どうしたいのか答えが出ているように見えた。


 ゲースとの対話の中で、クロエは私がこの国の第二王女だという事をもう知っている。だから私の申し出を受ければそれは、ちゃんと実現する事も知っているのだ。


 私はクロエにこれからの事について、いくつか選択肢を提示した。まず一つ目が、このままブレッドの街に残って母親と共に過ごす。


 母親に関しては2週間程、取り調べの為、騎士団に拘束されると思うけれど、その後は一緒に元通りの生活に戻れる。気になるフランクとゲース及びその二人の手下に関しては、厳しく取り調べした後、牢に入れられて追って沙汰が下される。だから報復的な心配は、もう何もない。


 二つ目は、エスカルテの街へ移って住む事。住まいや生活援助に関しても私とバーンでさせてもらうから、何も心配はない。どちらにしても、エスカルテの街でもブレッドの街でも、私とバーンが生活の支援をするから何も心配はない。だから、クロエは安心して好きな方を選べばいい。


 最後に三つ目。クロエには色々な事があったと思う。だからお母さんとも距離を置いて、一人で何処か離れた所で住みたいというのなら、それはそれでいいと思った。


 王都ならそれに適している。お父様にクロエの事を話せば、きっとよくしてくれる。ルーニなんかリアに続いてまた素敵なお友達ができたって、跳び跳ねて喜ぶかもしれない。


 兎に角、王都ならお父様にルーニに、爺やゲラルドなど他にも頼りになる人達がいるから安心だ。


 クロエに今考えにあげた事を伝えると、彼女は俯いた。じっと考えている。どうするか、後悔しないように考えている。もう気持ちは決まっているのかもしれないけれど、本当にそれでいいのかどうか――



「……アテナさん」


「はい」


「アテナさんには、色々とお世話になってしまいました。グーレスにもだし、マリンさんやルキアにノエルさん……コナリーさんにテレサさんにも」


「うん。きっと皆、クロエの事が大好きだからだよ」


「可哀そうだから、じゃくて……?」



 クロエの言葉を聞いて、私は微笑んだ。



「マリンは、泉でクロエがバリオニクスという鰐の魔物に食べられそうになった時に助けに入ったわ。ルキアは、キャンプでクロエと一緒にいたけれど、素敵な友達ができたって喜んでいた。ノエルは、どんな危険が待ち受けているのか解らないのに、あなたを助ける為に、ゲースの屋敷に我が身を省みず飛び込んだ。カルビ……グーレスは、ずっとあなたの事を気にかけている。それって単に可哀そうってだけで、できる事ではないと私は思うのだけれど」



 クロエの両目は見えない。でも私の言葉を聞いたクロエは顔をあげて私の方を向いた。目には、確かな決意が現れていた。



「アテナさんに、お願いがあります」


「うん、私に力になれる事があればなんでも」


「アテナさんは、パスキア王国へ行くと言っていました。わたしもそこへ連れて行ってください」


「……うん、そう決めたんだね。いいよ、解った。じゃあ皆にもそう伝えるね」



 平静を装って、そうは答えて見せたけれど、私の驚きはいうまでもなく、返事とは裏腹に心の中では「なんでなんでなんで――!?」って大声をあげていた。


 クロエがパスキア王国に……え? どうして? あまりの予想外のクロエの希望に、どうしてそうなるのか頭の中をフル回転させていた。ど、どゆこと?

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