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第575話 『悪趣味 その1』




 馬車が止まり、ドアが開く。男はわたしの手を取ると一緒に馬車を降りた。



「さあ着いたクロエ。今日からクロエ、君の住む家だ。大きな屋敷だぞ。まあ、大きさはクロエ、君には関係のない話かもしれんがな。なんせ君専用の特別な部屋を用意している。クロエ、君は今後そこから出る事は、決してないのだからな。出る事ができるとしたら、ワタシがクロエ、君に飽きた時だ。ブヘヘッヘッヘ!!」



 男の手がわたしの頬に触れる。



「可愛いのお、クロエ。これから毎日毎日クロエ、君を可愛がってやるからな。クロエ、君はその見返りに、ワタシに最高の恐怖と絶望の表情を見せておくれ。ブヘへ」



 このままこの男に、この屋敷に囚われたら確実に殺される。時間をかけてゆっくりと拷問をされた挙句に殺される。助けてと泣き叫んでも縋りついても、この男はきっと余計に喜んでわたしを更に痛めつけるだろう。


 そんな、人を痛めつけて喜ぶ人間がいるだなんて……そんな酷い人間が……


 今いる場所は、ブレッドの街を出て、少し離れた所にある屋敷と聞いたけど……ここが何処か見当もつかない。でも早くこの男から逃げ出さないと、わたしはこの男に地獄のような苦しみを与えられた挙句、きっと殺される。


 助けて!! 私は誰かに助けを求めるように逃げ出した。



「きゃあああああ!! た、助けてえええ!!」



 恐怖で竦んで動かないと思っていた足が、奇跡的に動いた。


 きっと馬車から降りた先に屋敷はあるはず。わたしは、それとは別の方へ向かって全力で駆けた。ここで逃げ切らないと……目が見えないので、両手を前に突き出して、兎に角走った。すると、すぐ後ろに誰かの足音が迫ってくる。追われている。



「ボヤボヤするな。さっさと捕らえて連れてこい。ワタシは先に屋敷に入る。クロエを捕まえて大人しくさせたら、例の部屋まで連れてこい。ああ、それと後でフランクを屋敷に呼べ。代金を支払ってやろうと言えば、直ぐに来るだろう」


「へえ、解りやした。おい、ガキ!! 大人しくしやがれ!!」


「ひ、ひいい!!」



 自分の部屋にいるだけの毎日を送っていたわたしには、到底逃げ切る事なんてできなかった。見えないけれど、きっと周りにはわたしをここへ連れてきた男の子分が何人もいる。恐怖で竦んでいた足が動いて走り出せただけでも、わたしにとっては奇跡そのものだった。


 でもそれも終わり……わたしの身体を押さえつける男に無理やりに立たされるとそのまま屋敷のある方へと歩かされた。


 屋敷の扉がギイっと音を立てて開く。それが地獄への門の扉が開く音に聞こえる。



「さあ、中へ入れ!! 立ち止まるな!! ぐずぐずしていると、痛い目をみるぞ!!」



 屋敷に入る。男は、大きな屋敷だと言っていた。じゃあここはきっと屋敷のエントランス。


 そこから長い距離を歩かされた。きっとわたしは、廊下を歩いている。そして、また扉の音。その奥へと連れて行かれると、わたしを拘束している男が言った。



「地下に降りる階段だ。足元に気を付けて降りろ」


「か、階段……」


 

 一歩降りると、足の下に硬さを感じた。地下への石階段……


 そのままどんどん降りて行くとまた、通路を歩き立ち止まる。ギイっという扉の開く音がしたので、部屋があるのだと思った。



「さあ中へ入れ」



 言われるがまま部屋の中へ入ろうとすると、まずとんでもない悪臭が鼻を突いた。吐きそうな程の、きつい臭い。



「ううっ!!」


「いいから、入れ!! 早くしねーと旦那様に俺が怒られんだろーがよ!!」


「いや、はやして!!」


「こいっつってんだろーが!!」



 無理やりに腕を掴まれ、椅子に座らされた。そして両手両足、腰と首にも鉄製の枷を嵌められ椅子に固定された。肌が触れて気づいたが、座っている椅子も鉄製だった。鉄製の椅子なんて、見た事も聞いた事もない。いったいここは……


 考えていると、また別の人が何人か部屋に入ってくる音が聞こえた。女の人。



「あなたクロエって言うのね。さあ、クロエ。これからお着換えしますよ」


「え? 着替えって……」


「このボンテージの衣装に着替えて頂きます。旦那様は、こういう衣装の方がとても興奮なさいますので」


「い……いや、そんなの嫌!!」


「嫌って言われも私にはどうしようもありません。私はこの屋敷のご主人様に使えるメイド。あなたはご主人様を喜ばせる玩具。自分の役割は、ちゃんと把握してくださいね。それじゃ、もう一度この子の拘束を解いてくれるかしら?」


「ええー、めんどくせーなあ」


「直ぐ旦那様がいらっしゃるわよ。その時に準備ができてなければ、あなた達の怠慢が原因だと伝えるけれど」


「解った解った!! ちょっとまってくれ、ほらやるぞ!」


「うーーい! よし、拘束具を取るからそしたら立て、お着換えだお嬢ちゃん!!」



 叫んだが誰も助けにこない。わたしは無理やり服を脱がされて、下着同然のようなボンテージという衣装に着替えさせられると、また鉄の椅子に座らされ、鉄枷で拘束されて自由を奪われた。身体を動かそうとしたけど、どうにもならない。



「まだ子供なのに……可哀そうだけど、どうにもならないわ。それじゃあね。せめてしっかりと旦那様のご機嫌をとって楽しませてさしあげたら、もしかしたら万に一つの奇跡が起こって、ここから出してもらえるかもしれないわね」


「た、助けてください!! 助けてください!!」


「嫌よ。そんなことして私が同じ目にあわされたらどうするのよ。まあ、旦那様はあなたのような少女が大好物みたいだけどね。ウフフフフ、それじゃあね」


「ままま待って!! 助けてください!! ここから出して!!」



 わたしを着替えさせたメイド、それに拘束した男達が部屋を出て行くと、ほぼ入れ替わりのように男が部屋に入ってきた。


 気配と雰囲気で、お母さんからわたしを買い取ったこの屋敷の主だと解った。

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