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第560話 『鰐の屋敷 その4』



 絶対に鰐野郎を捕まえてやる。そう思ってノエルと窓から飛び出した。


 2階から屋敷の外へ飛び降りると、辺りには霧が発生していて視界が最悪だった。これじゃ鰐野郎を見失ってしまう!! きょろきょろとしながら焦っていると、ノエルがオレの肩を叩いた。



「おい、あれ見ろ! あいつ、逃げずにあそこで突っ立っているぞ」


「おん? ほ、本当だ! なんであいつ逃げないんだ?」



 近づくと、霧の中に鰐野郎以外のシルエットが3人見えた。バーンとジャロンとオーベルだ。3人で、逃げようとした鰐野郎を囲んでいる。って事は、あのバリオニクスとかいうもう一匹いた鰐の化物は倒したという事か。



「バーーン!! そいつを逃がすな!!」


「言われんでも解っている!! いくぞ、ジャロン、オーベル!!」


「おう!!」


「解った、まずは私が奴の動きを封じよう!! 悪魔め! 神の力を持ってして、その邪悪なる魂を打ち滅ぼさん!! 《聖光照射(ホーリーシャイン)!!》」



 オーベルの神聖系法術。鰐野郎に向かって十字架を掲げると、眩いばかりの聖なる光が辺りに広がった。魔を打払う、穏やかなる光。鰐野郎はその光を浴びて激しく苦しみ、悶えた。



「ギャアアアアア!! ク、クルシイ!!」


「流石、オーベルだ! クレリックを連れてきて正解だったな。バーンさん、一気にこのままケリをつけよう!!」


「ま、待て! ジャロン、オーベル!! 慎重に行動しろ!!」



 慎重にと指示するバーンの言葉は二人に届いているはずなのに、ジャロンとオーベルは明らかに勝ちを急いでいた。


 ジャロンが剣で鰐野郎の脇腹を突き刺すと、それに続いてオーベルが至近距離から神聖系法術を詠唱し始める。続けてジャロンが、更に攻撃を加えようとする――だが、鰐野郎の脇腹に突き刺した剣が抜けない。



「ぐっ! くそ、剣が抜けねえ! こうなったら……いけ――! オーベル!! このまま仕留めろ!!」


「解った! 任せろ!」


「2人とも、待てって言ってんのに……仕方ねえ。ルシエル、ノエル、俺に続け! ここでケリをつける」



 バーンはそう言って剣を鰐野郎に向けると、駆けた。俺は再び『土風(つちかぜ)』を抜いて、ノエルと共にバーンの後に続く。


 腕に自信のある冒険者5人での一斉攻撃。これで決着がつくと思った。


 だがジャロンとオーベルに続いて、鰐野郎に攻撃を喰らわそうとした刹那、オーベルの放った聖なる光に苦しそうにして身を丸くしていた鰐野郎が、ガバッと身体を起こした。


 鰐野郎は、さっきまで苦しそうに顔を歪めていたはずなのに、今はとても邪悪な顔で笑っている。何かがおかしい。


 身の危険を感じたオーベルは、更に神聖系法術を鰐野郎に放とうとした。ジャロンは、鰐野郎に突き刺した剣を握ったまま固まっている。



「うおおおお!! もう一度だ、これでどうだああ悪魔めええ!! 神聖なる力よ、邪を打ち払え!! 《神聖攻撃法術(ホーリーアタック)》!!」


「ギャッハッハッハ!! 腕は悪くないが、ちと経験値不足の冒険者だったようだな。霧の中では光は弱くなる。それは聖なる光であっても同じこと。貴様のゲスな神聖系法術、聖光照射(ホーリーシャイン)の威力なんて、この霧の中では半減以下だろう。残念だったな、ソレジャ……イタダクトシヨウ」


「やめろおおお!! うおおおおっ!!」



 鰐野郎に向かってバーンが剣を投げた。それと同時に鰐野郎の頭部が倍以上に大きくなり、大きく口をあけるとジャロンとオーベルに同時に噛みついた。


 二人の上半身が、すっぽりと鰐野郎の口の中に収まる。バーンの投げた剣は、鰐野郎の胸に突き刺さったが鰐野郎は何も動じない。



「ギャッハッハ!! 喰らえ……いや、喰らうぜ!! ≪デスロール≫!!」



 オレとノエルも、鰐野郎の口の中にいる二人を助けようとした。でも、とても間に合わなかった。鰐野郎はデスロールと叫ぶと、二人に噛みついたまま軽く跳び上がり、物凄い勢いで身体を回転させた。


 次の瞬間、辺り一面に血の雨が降り注ぎ、ジャロンとオーベルの腰から下の部分が地面に転がった。



「うおおおおおお!! この悪魔めえええ!!」



 バーンは鰐野郎の胸に突き刺さった剣を両手で引き抜くと、それを鰐野郎の大きな頭に振り下ろした。物凄い音と共に剣が折れる。


 バーンは、一切躊躇わずに今度は脇腹に突き刺さったままになっていたジャロンの剣を引き抜くと、もう一度鰐野郎に攻撃を加えようとしたので、俺とノエルも同時に飛びかかった。


 すると鰐野郎は、ゆっくりと仰向けに倒れた。


 身体は徐々に縮んでいき、人の姿……トニオ・グラシアーノに戻る。バーンはすぐさま、トニオが被っている鰐の仮面を剥ぎ取ろうと手を伸ばした。だが――


 あと僅かというところで、横から飛び出してきた何かに先に仮面を奪われてしまった。



「ま、待て!! この野郎、待ちやがれ!!」

 


 バリオニクスという鰐の化物だった。俺が鰐野郎と戦っている間に、バーン達が倒してくれたと思っていたけど、完全に息の根を止めてはいなかったようだ。


 まずいな。直ぐにあの鰐のあとを追いかけて、仮面を破壊しなければ――走りだそうとした刹那、バーンがオレの手を掴んだ。



「な、なんだバーン!! 直ぐあの化物を追って仮面を破壊しないと!!」


「もういい。とりあえず、トニオ・グラシアーノの治療が先だ。こいつは生きているが、大怪我だ。俺達がバリオニクスを追えば、この男は死ぬだろう。オーベルが生きていてくれれば、回復魔法を今すぐ使ってもらえたんだがな」


「くっ……」



 バーンは、兎に角急いで回復術士か医者を呼んでくると言ってブレッドの街の方へ駆けて行った。


 俺はトニオのいるこの場所にノエルを残して、ミャオやクウのいる屋敷に再び戻った。もう大丈夫だと伝えて、外へ連れ出してやる為に。


 ……あの鰐……次見つけたら、必ずオレが退治してやる!


 オレはそう思ってもう一度、鰐野郎が消えていった方を見た。しかし濃い霧が漂っていて、少し先も見えなかった。


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