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第558話 『鰐の屋敷 その2』



 廊下に倒れているガロ・チリーノ。そして更に廊下を進んで曲がった向こうから、激しい金属音が聞こえてくる。きっとシェリーがトニオと戦っている。



「ぎゃあああ!!」



 シェリーの悲鳴。やっぱりシェリーは戦っている。オレはノエルと顔を見合わせると、廊下の2階全体に響き渡る位の声で叫んだ。



「ミャオ、クウ、シェリー!!!! オレだああああ!!!! オレとノエルが助けにきてやったぞおおお!!!!」


「ルシエルさんーー!!」


「ルシエル、奥の部屋にいるニャアア!! 助けに来て欲しいニャアア!! でも鰐に取りつかれたトニオがいるから気を付けるんニャアア!!」



 おっ! クウとミャオの声! 良かった、まだ生きてる!! オレはミャオ達のもとへ向かうため、廊下を駆ける。



「行くぞ、ノエル!!」


「ははっ、どうやら無事だったようだな。よし、敵がいるならあたしに任せろ!!」


「待てと言ってるだろ!! 相手は悪魔だって言ったよな。しかも上位悪魔だ。迂闊な行動をとるな、俺達が先に行く!!」



 バーンはそう言ったが、とても待っていられない。この間もずっと、シェリーが剣で敵とやり合っている音が聞こえる。さっさとシェリーのもとへ行って加勢してやらないと。


 バーンの言葉を無視して突き進み、悪いと思ったが廊下で倒れているガロという男を避けて先に進もうとした。するとガロの身体を越えて前に乗り出そうとした所で、何かに足を掴まれた。転ぶ。



「っぎゃん!!」


「だ、大丈夫かルシエル!!」


「ああ、大丈夫」



 見ると倒れて気を失っていると思っていたガロ・チリーノがオレの左足首を掴んでいた。た、助けてくれという事なのか? 


 ガロの表情は、笑っているのか苦しみに顔を歪めているのか全く判断のつかない感じになっていた。急に恐ろしくなる。



「ヒ、ヒイイイイ!! なんか、怖いぞお!! おい、バーン! この男は仲間なんだろ? 大丈夫なのか?」



 バーンは、剣を抜くと叫びながらオレの方に駆けてきた。



「気を付けろ、ルシエル!! そいつはもうガロじゃない!!」


「え? だって、そんな事言ったって仲間なんじゃねーのかよ!!」


「いいから、ガロを蹴り飛ばせ!! 直ぐに離れるんだ!!」


「け、蹴り飛ばせって……いいのか? こいつ、仲間じゃないのか? しかも怪我人だろ?」



 言った瞬間、ガロは勢いよく立ち上がった。そして身に纏っていた衣服をビリビリに引き裂くと、一回り大きくなった。顔を含め身体中の皮膚もバリバリと裂け始めて、人間で無いものに変形していく。こ、これが悪魔!? 



「キシャシャシャシャシャーー」



 もう完全にガロの原型をとどめていなかった。ボロボロに破けた僅かに残る衣服からそうだと判断できるだけで、外見はもはや鰐。


 ボコボコとした固そうな鱗のような皮膚に、長く突き出た大きな口。しかも二足で立っていて、右手にはガロが所持していた剣をしっかりと握っている。

 


「な、なんじゃああこりゃあああ!!」



 とんでもないいきなりの変身に驚いて固まっていると、バーン達とオーベルがオレの手を引いて引っ張った。ノエルは、オレが助かったのを見送ってシェリー達がいる廊下の奥へと走り抜けていく。よし、いいぞノエル。先に行け!! 


 すると今度はジャロンが前に出て、ガロだった鰐の化物目掛けて斬りかかった。剣。ジャロンの大きな一撃を、ガロは左腕で難なく受け止める。



「な、なんなんだ! あいつ!! もしかして、あれが例の悪魔か? いや、でも悪魔に乗っ取られているトニオって奴は今、ノエルが走って行った先の部屋で、シェリーと戦っているはずだろ?」



 バーンもこれには困惑した表情を見せる。オーベルが呟く。



「あいつはバリオニクスだ」


「バ、バリオニクス? バリオニクスってなんだ? 恐ろしい魔物の名前かなんかか?」



 ジャロンは必死になって剣を振っているが、その全てをバリオニクスの鋭い爪に弾かれる。そして疲労した所を、ガロの剣で左肩を突き刺された。



「ぐわあっ!!」


「ジャロンがヤバい!! オーベル、やるぞ!!」


「おいおい、オレはどうするんだよ!!」


「目の前の鰐野郎は俺達がなんとかするから、お前は上手くここを突破してノエルの後を追え!! どちらにしても、この狭い廊下じゃ一度に一人ずつしか鰐野郎と打ち合えんだろーが!!」


「解った、りょーかい!!」



 ジャロンの叫び声。バーンが剣をバリオニクスへ向けた。オーベルもメイスを握り絞めて構える。



「それじゃ行くぞ!!」


「キシャーーー!!」

 


 仰向けに倒れたジャロンを乗り越えて、今度はバーンとオーベルが斬りかかった。ジャロンの剣と腕では傷をつける事ができなかったバリオニクスの身体に、今度は無数の傷が浮かび上がる。


 バーンの剣と剣術は、バリオニクスに十分に通用している。流石は、もとSランク冒険者だっけか。



「ほら行け!! こいつ畳んで直ぐに加勢に入ってやるから、さっさと行ってクウとミャオを守れ!!」


「解った!! オレに任せろおおおお!!」



 バーンとオーベル、そしてバリオニクスの横をすり抜ける。危うく、バリオニクスに腕を掴まれそうになったが、バーンが体当たりしてそれを上手に防いでくれた。


 うおおお、待ってろよ!!


 廊下を曲がり更に奥へと突き進む。うおおおおお、ぜんぜん関係無いけど、オレもこれ位の規模の屋敷に住みてえええ!!


 ミャオ達がいる部屋の前に到着すると、部屋の中から外へ向けて、ノエルがこっちへ吹っ飛んできた。



「ノ、ノエル!」


「くそ鰐がああ! あ、あたしはいいから……ミャオ達を助けろ……」



 部屋に入ると、鰐の仮面を被る男の前にシェリーがボロボロになって倒れていた。そしてその倉庫のような部屋の奥で、クウを後ろに隠しながら短剣を構えるミャオの姿があった。右足の太腿からは出血している。



「ミャオ、クウ。助けにきてやったぜ。とりあえず、その鰐野郎はオレに任せろ。ハンドバックか財布にしてやるからよ」

 

「ルシエルー!! 助かったニャー!!」


「ルシエルさん!! シェリーさんが、シェリーさんが!!」



 鰐の仮面を被った男は、ひとまずオレに攻撃目標を変えたようで、こちらを向いて両手に持つナイフを構えた。


 フッ、ナイフか。いいだろう。オレは太刀を鞘に納めるとナイフを取り出して構えた。



「ナイフ……得意なんだろ? 実はオレもなんだ。こいよ、それじゃナイフで勝負してやんよ」



 意外にも言葉が癇に障ったのか、鰐の仮面の男が先に動いた。

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