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第557話 『鰐の屋敷 その1』



 トニオ・グラシアーノの屋敷に到着した。屋敷の正面の扉は破壊されていて、外に誰かが倒れている。オレはそれを指さして叫んだ。



「おい! あそこ、人が倒れているぞ!!」


「オーベル、ついてきてくれ!!」


「ええ、解りました」



 バーンは、【クレリック】のオーベルにそう言うと、屋敷の外で倒れている誰かに駆け寄っていく。


 オーベルに声をかけたのは、彼が聖職者系のクラスだから――回復魔法が使えるから、倒れている誰かを治療しようと考えての事だと思った。オレとノエル、ジャロンも直ぐ後に続く。


 屋敷の前に倒れているのが、ミャオやクウだったとしたらどうしよう。一瞬そう考えると、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。だが決まった訳じゃない。しっかり確認しないと。


 ノエルがオレの気持ちを察してなのか、肩を軽くポンと叩いてきた。



「な、なんてことだ……」



 倒れていたのは男だった。男の死体……しかも上半身しか残っていない。内臓が飛び出している。こ、この男の……か、下半身はいったい何処へいってしまったんだ? ノエルは、バーンの方へ振り向いた。



「この男を知っているのか?」


「ああ、ブレッドの街の冒険者だ。酒場で話したろ? ミャオ達の後を追って、仲間のガロ・チリーノがブレッドの街の冒険者二名と共にここへ来ている。こいつはその二名のうちの一名だ」



 ジャロンが続ける。



「しかしなんて事だ。悪魔だ……悪魔の仕業だ。恐らくトニオ・グラシアーノの身体を乗っ取って暴れているんだろう。早く手を打たないと、トニオは完全に奴に取り込まれるぞ。完全にトニオの身体を支配されたら、俺達じゃとても手に負えないかもしれんぞ」



 悪魔? 支配? 何のことだ? 今、奴と言ったか? オレはバーンに詰め寄った。



「お、おい! これは呪いの仮面の仕業なんだろ? 発端は解らないが、トニオがそれを被っておかしくなっちまって人を襲っているんだろ? その仮面を破壊しちまえば終わりなんじゃねーのか? 奴って誰だ?」



 オレの質問に対して、ジャロンとオーベルの目が泳いでいるように見えた。でもバーンは、しっかりとオレの目を見つめて言った。



「あれは嘘だ」


「う、嘘!?」



 オレもノエルも目が丸くなる。



「トニオから仮面を回収して終わり。それだけの仕事だと思っていた。トニオが返したくないと駄々をこねたとしても、これは冒険者ギルドからの決定だ。断れば、強制的に回収する事になるだけ。だからあの鰐の仮面の事を、わざわざ他の者に事細かに説明する必要もないと思った。悪戯に騒ぎを大きくする事になるかもしれないし、知らない方が丸く収まる事もある」


「さ、騒ぎを大きくっつったって、もう人が死んでんじゃねーか」



 そう言って急に、ミャオとクウの事を思い出した。



「そ、そうだ!! 屋敷にはまだミャオやクウがいるんじゃねえのか!! 早く助けにいかないと!!」


「待て、ルシエル!! 相手は悪魔だ!! 迂闊に先走るな!!」


「うるせえ!! ミャオやクウに何かあったら、オレはアテナやルキアに顔向けができねえ!! まだこの屋敷にいるのだとすれば、絶対にオレが助け出してやる!! そう、なんとしてもな!!」


「おい!! 待てって言ってんだろーが!!」



 バーンがオレの腕を掴もうとしたけど、それをかわして屋敷に突入しようとした。ノエルもオレの後に続く。


 ガシャーーーーン!!!!


 いざ、中へ!! そう思った次の刹那、屋敷2階にある窓が割れた。窓に嵌め込んでいた格子と硝子の破片と共に、誰か人が一緒に落下してきた。オーベルが直ぐに駆け寄って確認する。



「駄目だ、もう死んでいる。胸に大きな穴が空いているし、なにより首から上がない。傷跡から見て、まるで頭からガブっと一気に丸齧りされたような感じだ」


「誰かは解るか?」


「ああ、解る。二名のうちの一名だ。ガロに同行したこの街の冒険者だよ」



 どうなってんだ、この屋敷は!! あまりの事に、衝撃を受けているとノエルがまたオレの肩を叩いた。



「今窓から飛び出してきた男は、今死んだって事だ。つまり屋敷の中じゃまだ戦闘は続いている。ミャオとクウはきっとまだ生きているに違いない。シェリー・ステラも護衛についているんだ、間違いない!」



 オレとノエルは、急いで屋敷の中へ入った。バーンの止める声が聞こえたがそんなの関係ない。慎重に行動しないとなどと言っているその間にも、ミャオやクウに何かあったらオレは一生後悔する。



「待てと言ってるだろ、ルシエル!! ノエルも待つんだ!! 相手は呪いの仮面じゃない、仮面に封じ込められた悪魔なんだ!!」



 悪魔? やっぱりその類の奴が相手か。しかもレッサーデーモンやらインプなんかじゃねえ。そんな低級悪魔なら、そこいらの冒険者や聖職者でも倒したりできる者もいる。


 つまり、悪魔と言ってもわざわざ仮面なんぞに封印しなくちゃならないクラスの奴ってことになるな。面白いぜ、オレが退治してやる。そして皆を救う。


 館の中へ足を踏み入れると、中は散々たる有様だった。家具だけでなく、室内の壁やドアなんかも破壊されている。



「きゃあああああ!!」



 クウの叫び声だ!!



「クウ!!」



 唐突に聞こえたクウの声に反応して、彼女の名を叫んだ。その声を聞いてバーンとジャロンとオーベルの3人も、屋敷内へ入ってきた。そしてバーンが二階へと続く階段を指さして言った。



「二階から聞こえてきたな!! 俺達が見てくるから、お前らはここで待機だ!!」


「そんな悠長な事をしてられねえ!! オレ達も行くからな!!」



 バーンが先に行こうとしたが、オレは帯刀している太刀『土風(つちかぜ)』を抜くと、一気に突っ切って階段を駆け上がった。


 すると早速、廊下で横たわっている男の姿が目に入った。知らない顔だったが、一目見てそれがガロ・チリーノだと解った。

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