第555話 『ルシエル&ノエル その3』
「あのなーールシエル、遊びじゃねーんだぞ!」
「わーってるってー。オレだって馬鹿じゃねーんだぜ。冒険者ギルドのお仕事だろ? 知ってるって。それにバーンも、オレの事を知っているだろ? ものっそい役に立つってさ」
「とかなんとか言って、手伝ったお礼にっつって晩飯もご馳走になろうって魂胆なんじゃねーのか?」
にっこりと可愛く笑ってみせるオレ。まるで女神だわ、フヘヘ。バーンの言った事に対して、決して否定はしない。
「かーー、もうしょうがねえな。確かにお前の戦闘能力は侮れないものがあるからな。もはやAランク冒険者だし、この際一緒に仕事を手伝ってくれるというのなら好都合かもしれねーな」
え? Aランク? 嘘?
「バーン!! 今、オレの冒険者ランクの事、Aランクって言わなかったか!?」
「あっ、言った。あっちゃーー、お楽しみだったのにな。すまん、先にばらしてしまった。だけどな、ドワーフの王国を救った一件で、ルキアやマリンもランクアップしているからな。どちらにしても、後で確認しろ。因みに口走ってしまったついでに言っておくと、アテナは既にAランクだからな。変動は無しだ。それと、お前らの活躍を冒険者ギルドへ伝えてそうなるよう取り計らってくださったガラハッド王にも、今度会たったらきちんとお礼を言っとけ。解ったな」
「うおーーー!! やったやった!! 解ったぜーー、オーイエーー!!」
しかしこれでオレもようやくアテナと同じく、Aランク冒険者か。フフン。つまりそれは、同格という事。だとすれば、もうえらそうな態度をとらせねえぞ。ヒャッヒャッヒャ。
浮かれているとバーンが、パンっと手を叩いて注目を集めた。
「それじゃ、早速なんだが本当に手伝ってくれるんだな? ノエルもオーケーでいいんだな?」
「仕方が無いからあたしも手伝う」
「手伝うも何も一緒にくるんだよ、ノエルはもうオレ達の仲間なんだから」
「やめろ、暑苦しい!」
ノエルとのスキンシップを図ろうとすると、嫌がられた。アテナより年上だというが……どうもオレには、ルキアよりも年下に見える。
まあ、114年も生きているオレからすれば皆可愛い小粒ちゃんなんだけどな。ハハハ。
「よし、じゃあ二人ともついてきてくれ。これからある商人の屋敷に向かう。屋敷の主は、トニオ・グラシアーノというこの街の商人で、屋敷は俺達の今いるブレッドの街の外れにある」
おん? トニオ・グラシアーノって名前……何処かで聞いたような気がする。
バーンはオレ達に仕事の内容を説明しながらも店を出て、その商人トニオ・グラシアーノの屋敷に向かって歩き出した。バーンの部下だというジャロンとオーベルも後をついてくる。オレとノエルを含めて5人。
「トニオの名前……聞いてないか?」
「うーーん、どっかで聞いた名前なんだよなー」
思い出そうと唸っていると、隣を歩くノエルが軽くオレの肩にパンチしてきた。
「おお、なんだ? どしたどしたー? 反抗期か!?」
「バカ、んな訳あるか! トニオ・グラシアーノ。ミャオが言ってただろ? ミャオの取引先の相手だ」
「ああー!! そうだった、そうだった! オレもノエルに言われて思い出した!! そう言えば、ミャオが昨日から会っていて、馬車に積んでいる曰く付きの荷を売りつけようとしている相手だっけか?」
「……言い方」
呆れるノエル。バーンは、頷いて続けた。
「その通りだ。俺達は、今ミャオの友人の家に向かっている。実はエスカルテの街の冒険者ギルドからは、もう一人ガロ・チリーノって奴を連れてきていてな。ガロには、先にトニオの屋敷に行ってくれって頼んでいるから、今頃はトニオ・グラシアーノの屋敷に到着しているだろう。因みに、このブレッドの街の冒険者ギルドの者二人もガロに同行中だ」
「どういう事だ? やけに物々しいな。バーンはいったいそのトニオの家に何をしに行くつもりなんだ? ギルドの仕事ってなんなんだ?」
「実はミャオがトニオと取引した例の曰く付きの商品の中に、俺ら冒険者ギルドが回収したいものが一つある」
「え? もしかして林檎か……」
「違う。鰐のデザインの仮面だ」
「あっ! 鰐ね、鰐!! オレもそう思ったぜ。今思い出したが……確かに鰐の仮面、あったよな」
ノエルが肩で押してきた。
「今お前、林檎って言ったろ」
「ち、ちげーーし! そそそ、そんな事言ってねーーし!! ビ、ビンゴって言おうとしたんだよ! ビンゴ、鰐の仮面だろっつって!! ホ、ホントだぞ!!」
「どーだか」
疑いの眼差しで、オレを横目に見るノエル。くっそー、細かい所をいじくろうとしよってからにー!!
今ふと思ったけど、もしかしてノエルってルキアのガラ悪い版じゃねーだろーな。もしそんなキャラクターだとしたら、ルキア共々動けないように拘束して、くすぐり地獄の刑に処してやる。オレに逆らう奴は容赦しねえ。
ついでにカルビもだ。ついでだから、カルビもくすぐってやるぜ。アテナは……後で怖いからやめておいてやろう。
「そ、それでその鰐の仮面がどうかしたのか? 呪いのアイテムとかそういうのか?」
「ほう。ルシエル、お前おつむの方はアレだと思っていたけど案外鋭いな」
「こらっ! おつむがアレってなんだ!!」
唐突にバーンに失礼な事を言われたので、オレはプンプンに怒った。だがバーンは全く気にせずに話を続ける。
「ミャオは曰く付きの商品をリッチー・リッチモンドから買い取った時に、それに関する書類をちゃんと冒険者ギルドに届けを出していたんだ。だがうちの者が、ミスってな。その鰐の仮面を見逃してしまった結果、ミャオはその鰐の仮面を商品としてトニオ・グラシアーノに売ってしまったんだ」
そういう事か。バーンの仕事というのは、その鰐の仮面をトニオから回収する。それだけの事……しかし腑に落ちないのは――やはりこの物々しさ。
既にトニオの屋敷に向かったガロって冒険者と、その男に同行したこの街の冒険者2人加えてバーンは6人で、鰐の仮面を回収する為にトニオの屋敷に押し掛けるという事か。因みに今は、オレとノエルも加わって8人だ。
これは何かあるなと思った。
鰐の仮面――ただの呪いのアイテムという訳ではなさそうだ。会って話をして回収する。それだけの事なら、二人いれば十分な仕事のはずだ。




