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第553話 『ルシエル&ノエル その1』




 ノエルは腕を組むと、考え込むかのようにして言った。



「アテナ達は、このブレッドの街近くの泉へキャンプに出掛けた。ミャオ達も商談に出かけたそうだ。文字通り、あたし達は置いてけぼりをくらってしまった」


「うぬぬぬ、おのれーアテナめー!! ミャオはまあお仕事だからアレだけど、アテナめ!! オレ達を置いて行くとは……これは、メチャ許せんよなー!!」



 別に怒ってはないが、何となくノリで怒ってみせていると、ノエルが言った。



「まあ仕方ねえな。あたし達も別行動になる事は、了解していたしな。それに昨日からあたしとルシエルは、この街でグルメツアーにかまけていたのも事実だし――挙句は梯子酒をして、最後に宿に辿り着きはしたものの、そのまま泥のように眠ってしまっていた。声をかけなかったのは、逆に気を使われたんだよ。ちゃんと置手紙までされていたのがいい証拠だ」


「まあ、そうだな。確かにそう言われてみればそうか」



 むしろこの事でアテナを責めると、まさかそんなにずっと食っちゃ飲み食っちゃ飲みしていたの⁉ って逆に怒られかねん。だからこの件は、この位にしておいてやろうと思った。



「ルシエル、それでどうする? この内容だと、アテナはキャンプに出掛けて戻りは明日だ。追い掛けて行ってもいいが、この街の喫茶店のオーナーと、別に知り合った女の子も一緒のようだ。邪魔するのも野暮ってもんだしな」


「うーーん、そうだな。ノエルの言う通りだ。でもそうなると、今日もまた一日この街で滞在か。またグルメツアー開催してもいいけどなー」


「え? 二日連続で開催すんのかよ、グルメツアー!?」


「アハハ、冗談だよ冗談。だけどさ、とりあえずもう昼だし……起きてから、何も食ってないしさ。腹減らないか?」


「……減った」


「そんじゃさー、とりあえず昼飯食いに行こうぜー!」



 ノエルもオレに賛成だったようで、宿を出ると一緒についてきた。


 ノクタームエルドを旅していた時に、初めてノエルと出会った時は、いきなり顔面を殴られて大変だった。


 まあ、オレが先にノエルが育てていた大事なこんがり焼けた肉を横取りして、食べたのが殴られた事の発端なんだけどさ。でも、あれはうまかった。


 兎に角、そんな最悪な出会いに始まり、その後はドワーフの王国で一緒にラーメン食ったりリザードマンの大群が攻め込んできた時には、みつどもえんなって再びノエルと拳を交えた。


 色々あったけど、オレやアテナとも戦ったノエルが今、オレの隣にいて一緒にパーティー仲間として行動しているのがとても不思議に感じた。嫌じゃない、なんだかムズムズして嬉しい感じ。



「それで、お前は何処に向かって歩いているんだ?」


「え? そりゃ昼飯食えそうな所に決まってんじゃん! ノエルもオレだけに任せないでちゃんと探せよー」


「ふんっ」



 何が気に入らないかノエルは、仏頂面で頬を膨らませた。そしてきょろきょろと周囲を見回している。


 ノエルの事は、一緒に行動を始めてから以前にも増して好きになってきているが、こういうツンデレ的な部分もノエルの好きな部分だ。ノエルが不機嫌な口調で続ける。



「しかしあれだなー。街中だというのに、凄い霧だな。昼飯を食える所を探せと言うが、これじゃ周りが良く見えない」


「それじゃ、あんまり探していてもあれだし……あそこにするか」



 ノエルが眉間に皺を寄らせながらも、オレが指し示した方を見た。



「あれか? ……おい」


「おん?」


「おん? っじゃねえ。あれは酒場じゃねーか! まーた今日も昼間っから飲む気だな」


「違う違う、よく見てみろ。あの酒場の入口に立て看板が出ているだろ? なんて書いてある?」



 オレの方が遥かに歳をとっているというのに、ノエルの方が視力が悪いみたいだった。店の前までくると、ノエルが立て看板に書かれた内容を読み始める。



「なになに……ランチやっています……だと?」


「そうだ、そう言う事だ! よし、入ろうぜノエル」


「わ、わかった、いいだろう。このまま霧が立ち込めている見通しの悪い街の中を、このまま歩き回っていてもいい事なさそうだからな。ここにしよう」



 オレにマウントを取られまいと必死なのか? なんとなく、ノエルの態度がえらそうに見える。ノエルの心の壁を打ち破ってやろうと思い、店に入ろうという所でノエルに後ろから抱き着いてやった。



「お、おい! なんだ、不意打ちか? 不意打ちであたしを倒す気だな!!」



 小さな身体、首のあたりに顔を押し付けて匂いを嗅ぐ。やっぱり、ノエルからは甘いミルクのような香りがした。落ち着くいい匂い。



「すんすん……」


「うわああっ!! よせ、変態!!」


「おいおい、変態って酷いな。オレは、森の知恵者と呼ばれるハイエルフさんだぞ。ハイエルフさんの変態なんて聞いた事ねーだろ?」


「聞いた事はないが、今目の前にいるのを確認した。はあ……お前が森の知恵者っていうのが、理解できない」


「アハハ! まあ、とりあえず店の中へ入ろうぜ!」


「……まったく」



 ノエルに後ろから抱き着いた所から、そのまま隣に移動して彼女の肩に手を回した。そしてもう一方の手で店の扉を開けて中に入ると、それに合わせて声が聞こえてきた。



「いらっしゃいませーー!! どうぞ、お好きなお席へーー!!」



 店員の声。それに続く、よく知っている声。



「おおお、ルシエル!! 奇遇だな!! よし、ここだ、こっちこい。おじさんの隣に座れ!! ほら、早くしろ、でないと無理やり座らせる事になるぞ!!」



 バーン・グラッドの声。まさか起きたてホヤホヤでこの人に会うとは……ノエルに、向こうへ座る? って目配せをしたが、バーンとは王都キャンプ場で会った程度なので、よく解らないと言った感じで流された。



「ほら、何してんだ? 照れんなって。こっちこいよ。ほら、おじさんの隣にこいって。なんなら、膝の上でもいいぞ、ん?」



 アテナかルキアがいれば、人柱にして捧げるのにと思ったが、今この場にいない者の事を考えても栓の無い事だと思い、観念する事にした。

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