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第549話 『鰐の仮面 その2』




 トニオの被る鰐の仮面は、巨大化するとニャーを一口に喰らおうとした。ニャーは、咄嗟にクウの腕をしっかりと掴んで廊下へ跳んだ。


 バグンッ!!


 危機一髪という所で回避。トニオ……いや、鰐の頭は廊下の壁にぶつかる……っが、ニャーを食べようと大きな口を開けていたので、そのまま廊下の壁に喰らいついてえぐった。


 鰐は、噛みついてえぐった分の壁の一部を、バリバリと貪りながらもこちらを振り向く。爬虫類の目がギョロリと動いて、ニャーとクウを捕らえた。ニャーだけでなく、クウも鳥肌が立っている事に気づいた。


 これは……これはもう、トニオ・グラシアーノじゃない。クウが震えた声で言う。



「ミャ、ミャオ……グラシアーノさんが、まるで魔物みたいに……」


「そ、そんな事はどうでもいいニャ! この屋敷から直ぐに逃げるんニャ!!」



 アテナかルシエルか、バーンさんの力を借りないともはや事態の終息はかなわないと悟った。もはやニャーの手にはおえない事態になってしまっている。


 トニオだった鰐の化物がこちらを向く。


 バリバリバリ……


 トニオの身体が大きく膨らみ始めると、身に着けていた服がビリビリと破けた。露わになったそのトニオの身体の皮膚は、鰐そのものになっている。腕や足も、そうだった。



「クウ、早く来るニャ!! 逃げるニャよ!!」


「は、はい!」


「逃がさんよーー、ミャオ……それにクウ。二人ともかなり美味そうだからな。獣人っていうのがまたいいね。喰らいがいがある。お前達は、ここで俺に喰われて俺の糧となれ……ギャッハッハッハッハ!!」



 トニオの声ではあるけれど、濁った声。姿はもう、大きな鰐の怪物だった。人間のように二足歩行で歩く鰐の怪物。例えるなら、サヒュアッグやリザードマンのよう。だけどこうしていても、ドクドクと感じる禍々しさは尋常ではなかった。



「ええい、行くニャ!!」



 ニャーはクウの手をもう一度掴んで、思いきり廊下を走った。後方で壁を粉砕するような大きな音。でも、決して振り返らない。そんな余裕は無い。


 一階へ降りる為の階段を目指し、廊下を駆ける。突き当りを曲がった所で、目の前の階段をとらえた。直ぐそこを駆け降りようと、吹き抜けになっている場所の手すりに手をかけたその時、目前の壁が大きな音を立てて崩れた。


 破壊された壁穴から、大きな鰐の怪物が姿を見せる。



「何処に逃げるんだ? 俺は十分にお前達におもてなしをしたろ? 今度はお前達が俺に礼をしてくれる番だ。なーに、お返しはそのお前達自身のうまそうな肉でいい。獣人の肉は本当に美味そうだ」



 ギョロっとした目が、ニャーとクウを再び捕らえた。そしてその大きな口からは、ダラダラと大量のよだれが垂れる。ニャーは、短剣をトニオに向けた。



「クウ、廊下を戻るんニャ!!」


「ギヘヘ……そうは、させないーー!! むざむざご馳走を逃すと思っているのか!」


「ミャオ!!」



 トニオが迫ってきた。短剣を前に突き出したが、トニオには通用しない。鰐のように変化した皮膚は、ニャーが短剣で攻撃しても刺さりもしなかった。腕と肩を掴まれ押し倒される。



「ニャッ!!」


「ミャオ!!」



 今度はクウが短剣を構えた。護身用にってエスカルテの街から出発した時に持たせていたもの。でも低位の魔物や盗賊に襲われた時にって位で考えていたもので、こんな規格外を相手にする武器ではない。ニャーは叫んだ。



「逃げるんニャ、クウ!! 逃げてニャーンさんを呼んでくるニャ!!」


「嫌!! ミャオをおいて逃げるだなんて絶対に嫌!!」


「ほう、本当にミャオはいい弟子を見つけたな。俺もクウちゃんみたいな弟子が欲しいぜ」


「な、なら私、トニオさんの弟子になります!! なりますから、ミャオを見逃して!!」


「こら、クウ!! 馬鹿な事を言ってないでさっさと逃げるんニャ!! こいつはトニオじゃないニャー!!」


「本当にいい子だなー、クウちゃんは。ますます喰らいつきたくなったぜ。ギャッハッハッハ!!」


「きゃあああ!!」



 トニオに捕まれた腕と肩。そこに鰐のようになったトニオの爪が喰い込んでくる。掴んでいる手にも次第に力が強くなり、骨が砕けそうだと思った。



「それじゃ、頂きまーーーーす」



 トニオ――大きな鰐の口がニャーの顔に触れる程よってくると、バックリと大きく開いた。一口で、ニャーの上半身丸ごと食われてしまう程の大きな口。


 ニャーも、ここまでか……死ぬまでにもう一度だけアテナやルシエルに会いたいと思った……



「クウ! お店とルンの事はしっかりと頼んだニャー!」



 ちょっと涙が出ていたかも。でも、なんとか笑ってクウにそう言い残すことができた。



「いやああああ!! ミャオ――!!」



 クウが短剣を使って、思いきりトニオを突いた。しかし、刃は通らない。トニオはゆっくりとニャーに向かってその大きく開いた口を閉じていく。


 うううう……やっぱり、死にたくない!!


 そう思った刹那、トニオが急に悲鳴を上げて仰け反った。押さえつけられていたニャーは、身体が自由になるとすぐにトニオから離れて、クウの手を握り距離をとった。そして何が起こったのかトニオの方を見る。


 するとトニオの直ぐ後ろに、見慣れた女冒険者が立っていた。シェリー・ステラ――バーンさんがニャーやクウやルンの為に、護衛につけてくれた頼りになる剣士。


 シェリーは、トニオに向けて剣を構え一点に睨みつけていた。

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