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第548話 『鰐の仮面 その1』



「ふーーん、ふんふん、ふーーん」



 急に鼻歌を歌いだすトニオ。クウは、そんな昨日店で会ったトニオとは、まるで違う彼の挙動を恐れて後ずさりした。しかもニャーの服を掴んでいたので、ニャーも部屋の外へとクウに引っ張られる。



「ニャニャー! クウ、引っ張るニャ。まだトニオと話の途中ニャ」


「え、でも……グラシアーノさん、なんだかおかしいです。昨日会ったグラシアーノさんと別人みたい」


「ニャにを言ってるニャ。トニオはトニオニャ。コレクションを返したくない一心で、きっと強硬手段に出ているニャ」


「ふーーん、ふんふん、ふーーん」



 トニオは鼻歌を続けながら、部屋の隅にあるガラスケースに展示してある価値の高そうなナイフを取り出すと、腰のベルトに装着していく。そしてナイフホルスターがいくつもついている肩掛けベルトを2本取り出すと、それにも満遍なくナイフを刺してクロスするように自分の肩にかけた。


 鰐の仮面に、身体中には無数のナイフを装備しているトニオ・グラシアーノ――もはや異常者のようだった。こんな事をニャー達の前でやって見せる意図が解らない。



「ど、どうしたんニャ、トニオ? そんなにナイフを身に着けてどうするニャ? もしかしてこれからニャーンさんを脅して、説得しに行くっていうのなら無駄ニャよ。あの人は、もとSランク冒険者ニャ。怖がらせる事なんて不可能ニャ」


「そんな事は知っているって。エスカルテの街のギルマスは有名だからな。バーン・グラッドを倒せる者なんて、簡単には名前が浮かばない。それでーーどう? 俺ともう一度、取引してくれる気はないのか? ミャオ」


「駄目って言ってるニャ。トニオ、いったいどうしたんニャ」


「はーーん、そうか。こんなに頼んでも駄目ってか。俺はミャオと正式に取引をした後で、ミャオの話に真摯に向き合ってやったのになー。ミャオは、俺の話を聞いてはくれないか。残念だなー」



 やっぱり何か変だ。無数のナイフを身に着け、鰐の仮面を被るトニオ……とてもトニオには見えなくなってきている。


 トニオ相手にこんな事を感じるのは馬鹿げている事なのかもしれないけれど、ニャーは身の危険を感じ始めている。


 これ以上は、トニオを追い詰めない方がいいのかもしれない。後は、バーンさんに任せた方がいい。ニャーは、怯えるクウの手を握った。



「解ったニャ。それじゃ、もうニャーからは何も言わないニャ。でも後でここに、ニャーンさんが訪ねてくると思うニャ。その仮面は呪いの仮面だって言ってたニャから、ニャーは早く手放した方がいいと思うニャけど、それでも嫌なら自分でニャーンさんを説得してみるニャ」


「ミャオ……」


「クウ、そんな引っ張らニャくても解っているニャ。それニャ、ニャー達はこの後友人達と合流する事になっているニャから、これにておいとまするニャ。この街の宿にいるから、その辺りで飲んでいるかしているかニャから、トニオも気が向いたら追って来るニャよ」



 返事はない。トニオは、じっとこちらを見つめている。もしかして仮面の呪いが影響しているのだろうかとも思う……そう言えばバーンさんと一緒にこの街へやってきた3人の冒険者のうち一人は、聖職者だった事を思い出した。


 トニオは仮面を被り表情も解らないし、どちらにしてもおかしな感じ。なんにしても一旦、出直したかった。



「それじゃまた来るニャ。クウも挨拶するニャ」


「そ、それじゃあグラシアーノさん。お邪魔しました」



 そう言ってクウが頭を下げた刹那、クウが下げた頭の上を何かがかすめ飛んで行った。振り向くと、クウの後方の壁にナイフが刺さっている。


 クウはそのショックで、腰から砕けて床に崩れ落ちた。ニャーは、腰からナイフを抜くとクウの前に立って構えた。目の前には、新たなナイフを両手に握るトニオの姿。



「どどっど、どういうつもりかニャー!! ト、トニオ、どういうつもりかニャ!! クウを殺すところだったニャよ!!」


「オシイオシイ……クウちゃんを殺すつもりで投げたんだよー。かなり俺の事を恐れていたから、そのままこの部屋から逃げ去ると思っていたんだけどな。まさかちゃんと別れの挨拶を言って頭を下げるとは――ミャオの教育がいいんだなー」


「な、何を言っているんだニャ、トニオ! 自分が今何をしたのか解って言っているニャ?」


「解っているとも。解った上でナイフを投げた。つまり、こういう事だ。どうあっても俺は、この鰐の仮面を渡すつもりはない。この場でミャオとクウちゃんを殺し、下で飲んだくれている護衛の……シェリーと言ったか。あの女を始末する。そして、いつまでたっても戻らない君らを探して、バーン・グラッドがこの屋敷にやってくる。そしたら、屋敷に招き入れて彼も殺す。そうすれば、全てまるく収まるだろ?」


「そ、そんな事をしてもダメニャ。もしそうなったら、冒険者ギルドから更に別の者が派遣されてくるニャ。この街にいるニャーの友人たちも、ニャー達を探すニャ」


「それなら俺は、ミャオ達もバーン・グラッドもうちには訪ねてきたが、もう帰ったと白を切るさ。ちゃんと証拠を隠滅すれば大丈夫。誰も真相は解らない。だろ?」


「ど、どうやってそうするニャ!! ニャー達を殺せば、この屋敷に死体が転がるニャよ!!」



 トニオは、ほんとにいったいどうしてしまったんだと思った。アサシンだったという暗い過去を持つ彼だが、本当は気さくで根は真面目な男。こんなのトニオじゃない。



「あっ! ミャオ。今、もしかして俺がこの鰐の仮面に操られているとか、そういう事を思ったなー? なかなかいい線いってるよ。それじゃあ特別に、お前達を殺した後どうやって死体処理をするのか教えてやろう。特別だからな、しっかり見てろよ」



 トニオがそう言うと、トニオの頭……鰐の仮面がどんどんと大きく膨らんでいった。そしてニャーの身長の半分くらいまで大きくなった鰐の頭にある両目が、ギョロリと動いた。



「ンニャニャーー!! やっぱり呪いのアイテムニャ!! に、逃げるニャ、クウ!!」



 叫んだ瞬間、その大きな鰐の口がバカっと開いてニャーとクウを丸呑みしようと迫ってきた。もはや、トニオらしさなんて何処にも残ってはいなかった。

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