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第547話 『トニオ・グラシアーノ その6』



「トニオ?」



 声をかける。すると、トニオはこちらを振り返らずに返事をした。



「ああ、ミャオ……それにクウか。随分と待たせてしまってすまない」


「いいニャ、いいニャ。それより鰐の仮面は見つかったんニャ?」


「ああ、あるよ。仮面ならここにある」



 そう言ってやっとトニオはこちらを振り向いた。その手には、例の鰐の仮面があった。とても奇妙で不気味な仮面。


 バーンさんは呪いのかかっている仮面だと言っていたけど、ニャーもそれを聞いた時は「ああ、そうなんだ」とスルっと納得していた。


 リッチー・リッチモンドから曰く付きの品物を買い取り、エスカルテの街からブレッドの街まで馬車で商品を運んではきたけど、その間荷台からはなんとなく嫌な気配は感じていた。


 なんとなくだし、街の外には魔物も徘徊しているからその何かが作用してか、もしくは単なる気のせいかって思ってはいたけど、この鰐の仮面が呪いのアイテムだと聞かされたあとだと、やっぱりと思う。



「それでな、ミャオ。考えたんだけどよ。この仮面、やっぱりレアものっぽいんだよ」


「そうなんニャ。それなら、もう少し金額に色をつけるニャ。まったくトニオは商売上手ニャンニャ。それで、いくらニャ? 言い値でいいニャよ」



 やっぱりトニオ・グラシアーノは商人。ここで、また値を吊り上げるつもりか。まあ商人を目指すクウの為には、いい勉強になる事は間違いがないと思い、クウに目配せしてしっかり話を聞いていなさいと合図た。


 クウは、「はい」と頷いたけれど、さっきからなんとなく様子がおかしい。どことなく怯えているような気配があった。もしかして、このトニオの屋敷に怯えている? 


 確かに今いる広い部屋、トニオが数々のお宝をコレクションしている倉庫は、なんだか怪しげなものも沢山飾られていて落ち着かなかった。不気味な人形や、鰐とは別の、他の仮面もいくつかあって壁にかけられている。


 するとトニオは不思議な顔をする。



「逆だ、逆」


「逆?」


「言い値をつけるのは、ミャオ。君の方だよ」


「ど、どういう事ニャ?」


「言い値を言ってくれ。今回の取引金額に更に金貨を追加しよう。いくらでもいいぞ」



 クウがニャーの服の裾を掴む。ニャーは、大丈夫だとクウに視線を送る。確かに何か、トニオの様子がさっきからなんだかおかしい。金貨をくれるというなら、そりゃ欲しいけど……あまい話には裏があるというのが常識。



「だからどういう意味ニャ?」


「ああ、この鰐の仮面だよ。今、この鰐の仮面をミャオに返そうと取りに来たら、やっぱりね……手放せない」


「ニャニャ? それは困るニャ!」


「だから言い値を言ってくれと言ったんだ。この部屋の壁を見てくれ。沢山の実に個性豊かで、様々な仮面が飾っているだろ? そして美しくこられは非常に価値がものあるんだ」



 昔、トニオが話してくれた事があった。トニオがまだ幼い頃に誘拐されて、アサシンとして鍛え上げられて、実際にその仕事をしていた話。


 正体が解らないように、黒づくめの服に黒いマントを羽織り、顔には黒い仮面をつけていたらしい。もしかしたら、その時からトニオにとって仮面は特別なものだったのかもしれない。


 アサシン稼業を抜け出して商人になった今も、趣味で多くの芸術品と共に仮面をコレクションしている。



「いくらでもいいぞ、金額を言え。さあ、遠慮するな。君と俺との仲じゃないか。俺も君との友情の為に曰く付きの品物を全て買い取ったぞ」


「駄目ニャ。買い取ってくれた事は、感謝しているニャけど金額じゃないニャよ。バーンさん意外にもエスカルテの冒険者ギルドから、その鰐の仮面を回収しにこのブレッドの街へやってきているニャ。先に話した通り、ニャーはその仮面をトニオに事情を説明して引き取りにきたんニャよ」


「なるほど。それじゃこういうのはどうだ? 仮面は鰐の仮面ではなかった。よく似ていたけど、改めて見てみると違った。この部屋に展示している仮面の中にこの鰐の仮面に酷似したものがある。それから一番似ている物を選んで、それをバーン・グラッドに渡せばいいだろう。な、名案じゃないか。俺はこの仮面の所有者でいられるし、ミャオは俺から大金が手に入るぞ」


「だから駄目ニャって。リッチー・リッチモンドから曰く付きの品物を買い取った際に、全部冒険者ギルドに報告しているニャ。その時に、品物の確認もされているから、ギルドは商品のリストを持っているニャ」



 トニオは怪訝な顔をする。



「なんだそんなの? 時には見間違えるって事もあるだろ? 鰐の仮面。それならここに、他にもいくつかあるぞ」


「鰐の仮面と言っても、トニオが今手にしている仮面の事ニャ。ニャーは、腹黒いとか守銭奴とか言われてもそういう事に手を染めたくないニャ。商人は利益と信用だってトニオも以前言ってたニャ」


「そうか……どうしても駄目か?」


「ニャーンさんは、ニャーにとってもこのクウにとっても身内のようなものニャ。身内は決して裏切れないニャ。それよりもどうしたんニャ、トニオ?」



 するとトニオは、目を閉じて思いきり息を吸い込むとゆっくりと息を吐きだした。


 そして手に持っていた鰐の仮面をニャーに差し出すのかと思った刹那、驚くべきことに彼はその仮面をニャーとクウの前で、いきなり被って見せた。

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