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第546話 『トニオ・グラシアーノ その5』



 シェリー・ステラは酒に強いらしく、ここぞとばかりにトニオが出してくれた酒を、次から次へと飲み干して、つまみを平らげていった。


 ニャーは、トニオが戻ってきて鰐の仮面を受け取ったら、商談成立し取引も無事終えたという事で、この辺でおいとましてさっさと冒険者ギルドへ仮面を届けに行こうと考えていた。


 それから宿に帰ってちょっとゆっくりしたい。時間があれば、ニャーもアテナ達と合流してキャンプに参加するというのもいいかもしれない。


 もしくは、また今日もルシエルとノエルの食いしん坊コンビが夜になれば飲み歩いたりして、ブレッドの街のグルメを片っ端から楽しんでいるはず。そう考えると、ルシエル達の方と合流するのも面白そうだと思った。


 ふーむ。でもクウは、きっとアテナと一緒にキャンプをしたいかな。それならそれで、クウをアテナの方へ向かわせて、ニャーはルシエルの方へ行った後にアテナの方へ顔を出すという両得作戦もある。


 そんなこんな考えて、トニオが席を立ってから一時間近くが経とうとしていた。


 クウがこの客間の壁にかけられている時計を見て、呟くように言った。



「グラシアーノさん、遅いですね。戻ってきませんね……」


「ニャニャーン。そうかニャ? 倉庫みたいな部屋にコレクションしているっぽいし、それなら他にも沢山お宝があるだろうから、埋もれて見つけられないのかもしれないニャ」


「そ、そんなに散らかっているんですかね? この客間を見る限り、一人暮らしと言ってられましたけど、綺麗にして掃除も行き届いているように見えますが……」



 言われてみればトニオは、案外几帳面な方だった。几帳面でないのはニャー。クウに連れられて時計を見てみると確かにトニオが部屋を出て行ってから、かれこれ一時間近く……確かに人を待たせている時間としては、長すぎるかもしれない。だとすると、やっぱり仮面がなかなか見つからない?


 仮面と言うか……品物は昨日全てトニオに引き渡した。それでトニオは、店から自分のこの家まで仮面だけ持って帰ってきたはずなのに、もう何処へやったか解らないなんて……



「ニャ。ちょっと見てくるニャ」



 このままここでじっとしていると、更に倍位の時間がかかるかもしれないと思ったニャーは、たまらなくなってクウとシェリーにそう言って立ち上がった。



「そ、それなら私も一緒に行きます!」


「ニャー? 別にクウはここでシェリーと一緒に待っててくれればいいニャ」


「いえ、これだけ時間がかかっているんです。グラシアーノさん、きっと仮面を何処へやったか解らなくなってしまったんだと思います。それでずっと探しているんじゃないですか?」


「ニャー、それが一番可能性が高いニャねー」


「それなら私も一緒に行って、探し出すのに協力する方が早いと思いませんか?」



 うーーん。クウの意見――的を得ている。それもそうだなと思った。



「解ったニャ。それじゃ、クウもついてくるニャ。そういう訳で、シェリーはここで待ってて欲しいニャ」


「ああ、いいぞ。大人しく酒を飲んでる」



 シェリーは空いたグラスに、また酒をつぎながら返事をした。もうこの屋敷にきてから、シェリーはずっとご機嫌だ。


 そう言う訳でニャーとクウは、かれこれ一時間近くも経つのに未だ鰐の仮面を見つける事ができず、。悪戦苦闘していると思われるトニオを支援する為に、彼がいるだろう屋敷の二階へと足を進めた。


 一応、勝手に屋敷内を歩き回るのもどうかと思い、客間を出た時に1回。階段の手前で一回と、二階へ上がった所でもう一回、トニオの名前を叫んだ。

 

 だけど返事がない。結構ニャー達を待たせてしまっているから、もうトニオは無我夢中で仮面を探しているのだろう。



「ミャオ。沢山お部屋がありますね。グラシアーノさん、何処にいるのでしょうか?」


「そうニャねー。普通の部屋はまず関係ないニャ。コレクションは倉庫的な部屋にあるはずニャからねー。大きな部屋で、もっと奥の方にあると思うニャ」



 廊下を真っ直ぐに進み、曲がった。曲がった奥の方に光が見える。廊下には、所々に小さなキャンドルがあり、普段は暗いだろう廊下を照らしていた。


 この屋敷はトニオが一人で住んでいる。だから灯りもこれ位でいいのだろうと思った。無駄に明るくても仕方が無いし、薄暗くても見えればいい。キャンドルだっていくつも設置すれば、馬鹿にならない金額になるし消耗品だ。



「この廊下の奥の部屋から光が漏れていますけど、きっとそこですよね」


「多分そこニャ。トニオーー!! いるのかニャーー!! 仮面、見つかったのかニャーー!!」



 また叫ぶ。廊下。奥の部屋にいるだろうトニオに向かって話しかけた。廊下を進むにつれて、クウがニャーの服を掴んだ。



「ニャ? どうしたんニャ? クウ」


「え? いえ、別になんでもないですよ」



 出会った頃はまだあどけなく可愛らしい女の子だったけど、今のクウはもうすっかりお姉さんになった。最近仕事の手伝いや、ルンの世話などしている姿を見ると特にそう思う。


 だけど今ニャーが目にしているクウは、まるで怯えた少女のようだった。夜中にオバケが怖くてトイレにいけず、親兄弟に一緒にトイレまでついて行ってもらっているような……上手く言えないけど、そんな表情をしている。



「どうしたんニャ? 大丈夫ニャ、クウ。トニオはニャーの昔からの顔なじみの商人ニャ。しかもここは、そのトニオの家だニャ。何も心配する事はないニャ」


「え? あ、はい。そうですよね」



 ルキアやリアもそうだと思ったけれど、カルミア村の獣人の子……クウも何か獣人特有の第六感というのか、そういうのが鋭い所がある。しかしトニオ相手に、彼の家で何か不安を感じるというのもおかしな話。



「トニオやっぱりいたんニャ。いたんニャら!ちゃんと返事をするニャよ。何度も呼んだニャ。随分と時間がかかったようニャけど、仮面は見つかったんニャ?」


「ああ、見つかった。随分と待たせてしまってすまなかったな」



 屋敷二階の廊下、一番奥の倉庫のような部屋に入る。そこに、トニオはいた。表情が見えない。


 トニオはこちらではなく、壁の方……向こうをむいて立っていた。

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