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第545話 『トニオ・グラシアーノ その4』



 うーーん、しかしまいった。もはや商談成立の証書を交わす直前――トニオは品物代金の金貨もしっかり耳を揃えたうえで、ご丁寧にクウへのお小遣いまで上乗せしてくれている。


 この状況で、鰐の仮面だけ返却願えますか? っと切り出すのは、かなり厳しい。もう少し早く言い出せれば良かったのだろうけど……まいったねー。


 ええいっ! どちらにしても言うしかない!! 今言わなかったら、代わりにバーンさんが動くだけ。それなら、商談を進めているニャーが話をつけた方がいい。



「ニャー。実はトニオ、取引について一つだけお願いがあるんだニャ」


「ほう……それはなんだ? まさか、今更取引を止めるとかそんな話ではないだろうな?」


「そ、そうニャ。それはないんニャ……だけど……実は大変申し訳ないんニャけどニャ……」



 仕方がなく話を切り出す。ニャーはこの取引に満足していたけど、今日ここへ来る直前にエスカルテの街のギルドマスター、バーン・グラッドに会った事、その時にある頼み事をされた事を正直に話した。


 そして鰐の仮面は、どうも呪いのアイテムらしく、冒険者ギルドは回収及び管理しなくてはならないという旨を説明した。



「ど、どうかニャ? 解ってくれたかニャ? 大変申し訳ないんニャけど」


「なるほど。一度締結した取引、それを後からどうのっていうのは……商人の間ではあまり良くない話だな。信用を落としかねない」


「す、すまんニャーー。申し訳ニャーです」


「……はあ。いや、でもこの件に関しては、ミャオは悪くはないだろ? むしろ俺と同じく、被害者だろうとは思うよ」


「そう言ってもらえると、嬉しいニャ。もちろん取引金額の値引きはさせてもらうニャ。その分は冒険者ギルドが負担してくれるから、お互いにニャンニャンニャ。どうかニャ?」


「まあ、仕方無しか。……しかし、あれだな。例えば嫌だ、あの鰐の仮面はお気に入りで返したくないって言ったとしても強制的に回収されるんだろ? 冒険者ギルドが相手じゃ、嫌だと駄々をこねてもどうにもならないしなあ」


「それで、どうニャンニャ? いいかニャ?」



 眉間に皺を寄せると、腕を組んで深く唸るトニオ。この件に関しては、トニオも言ってくれたけれどニャーの責任でもないし、どうする事もできない。


 だからと言って、同じ商人同士だし曰くつき商品だと知った上で、それを取り扱っていた気持ちもある。いくら冒険者ギルドにもちゃんと届けを出して、正式に手続きを完了させていたとしても、こういうイレギュラーな事も起きるから、真っ当な商人は曰く付き商品にあまり手を出そうとしない。


 あまり強く言える立場ではないニャーの代わりに、クウが言った。



「本当に申し訳ありません。ですがそう言う事になりますので、その鰐の仮面なんですが、今からグラシアーノさんのお店に取りに伺ってもよろしいでしょうか?」


「え? ああ、そうだな。それなら店にわざわざ行かなくてもいいよ。実はな、仮面はこの屋敷に置いてあるんだ」


「え? そうなんですか?」


「あの仮面の、とてもエスニックな感じが特に気に入ってな。売り物にはせず、俺のコレクションとして大事に保管しておこうと思ってね。だからあの仮面は、この屋敷にある」


「そうニャンニャ」



 そう言えばトニオにも、商人や貴族特融の収集癖があった。ニャーはあまりそういうのは無いけど、高そうなツボとか、変わった絵なんかも収集して大事に倉庫みたいな部屋に飾っていたのを、以前に見た記憶がある。その倉庫がこの屋敷にもあるのだと思った。



「そう言えばそのギルドマスター、バーン・グラッドも、このブレッドの街で鰐の仮面を受け取る為に待機しているのか?」


「そうニャ。冒険者ギルドか、酒場で待っているって言ってたニャ」


「そうか、この街に残っているのか。なるほどな。エスカルテの街とこのブレッドの街は、それ程距離も離れていないからな。しかしギルドマスター直々に来てもらって、あまり待たせるのも悪いだろう。解った、俺のいい値でいいなら鰐の仮面は返却しよう」


「ほんとかニャ!! ありがとうニャ!!」


「ここで断っても、バーン・グラッドが実力行使で奪いにくるだろうしな。仕方がない。できればあの仮面は、俺の貴重なコレクションの一つとして持っておきたかったんだがなー。まあでも、魔石や香辛料なんかも返せとかそんな話ではないんだろ? あれは金になるからな。あれもってなると、流石にな」


「それは無いニャ。交渉成立ニャ。返却を言われているのは、あの鰐の仮面だけニャから安心ニャ。流石にあとでまたこれも返却して欲しいなんて言ってきたら、今度はニャーが出るとこに出て冒険者ギルドに物申すニャ。ニャんせ、こんニャ事にならニャいようにちゃんと届けをだした上で、認可されている品物ニャからね。今度またあっても、商人ギルドに申し出れば……ってもう、これ以上は心配ないニャ」


「ミャオがそこまで言ってくれるなら、これ以上問題はなさそうだな。それじゃ、仮面を返そう。仮面はこの屋敷の二階にあるんだ。ちょっと取りに行ってくるから君達はここでゆっくりとくつろいでいてくれ」


「悪いニャンニャ。じゃあ、お願いニャー」



 トニオは頷くと、客室を出て行った。酒を飲んでいるせいか、少しふらついているように見える。


 ニャー。どう話を切り出そうかと考えていたけど、トニオが話を聞いてくれる商人で良かったと思った。これがリッチー・リッチモンドとかなら、間違いなくニャーの足元をみてくるだろう。


 冒険者ギルドだって、返却させる分とニャーの損失を補ってくれると言っていたけど、その額も青天井というわけじゃない。リッチー・リッチモンドなら、その限度額ギリギリを攻めてくる。


 あーー、トニオ・グラシアーノで良かった。普段から仲良しだし。どうにか取引も完了し、バーンさんから頼まれた面倒事も解決する事ができた。



「ニャーーー」



 安堵の溜息を吐いてソファーにぎゅーーっと、だらしなくもたれかかる。そんなニャーの姿を見てクウがクスクスっと微笑んだ。

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