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第540話 『バーン・グラッドの用件 その1』



 エスカルテの街の冒険者ギルド、ギルドマスターのバーン・グラッド。更にその後ろには、3人の冒険者風の男達。そのうちの一人は、如何にも聖職者で、クラスは【クレリック】と思われる。



「バーンさん、あんたがやって来るなんてなんかあったのか?」



 いきなりのバーンさんの登場に驚いたシェリーが言った。バーンさんは、はははと笑うとクウの頭を軽く撫でる。そしていつになく真面目な顔で、ニャーに言った。



「ミャオ、ちょっと悪いが少し付き合ってもらえるか? なに、時間は取らせない」


「ニャニャニャ!! ニャー、ニャーは何も悪いことをしてないニャよ!!」


「え? え? どうして?」



 慌てるニャーと、クウ。それを見て、シェリーもフォローする。



「そ、そうだぞ。ミャオには、このアタシが終始護衛についていた。ミャオは、法に触れるような事は何もしていないぞ」


「そ、そうですよ、バーンさん! な、何かあったんですか? まさか、シスターケイトとアンナの教会の件で何か……」



 教会!? 教会では、特に何も問題になるような事をした記憶は無い。ニャーは、何も悪いことをしていない。


 教会の事は、エスカルテの冒険者ギルドに報告したし、頼み事もしたけどそれは賊や魔物から子供達を守る為に見回りをしてほしいといったもので、正義に基づく行動だったはず。それが何か、冒険者ギルドに引っかかるような事があったのだろうか?


 バーンさんは、ポリポリと頭を掻きながらも苦笑した。



「はっはっは。教会の件じゃねえし、別にお前らを捕らえにきたとかそういうのじゃねえよ。別の要件さ」



 それを聞いて、ニャーとクウはホっと胸を撫でおろす。シェリーが言った。



「それじゃ、なんだ要件ってのは? これからアタシ達はミャオの取引先に行く所だ。悪いが手短にしてほしい」


「はーー、そんなこと言って! ゆっくりとさっきまで朝食食ってた癖に! シェリー、お前……口の周りがテカテカしているぞ。それ、バターじゃねえのか?」



 バーンさんにそう言われたシェリーは、慌てて顔を背けて口の周りを拭った。はっはっはっと、人目を気にせずバーンさんは豪快に笑う。今度はニャーが聞いた。



「それで、用件はニャンニャンニャー?」


「はっはっは、ミャオ! お前も口の周り、テラテラだぞ! フハハッハッハ!! 折角の美人が台無しじゃねーかよなあ? おもしれー!」



 後ろにいる3人の方を振り返って共感を求めるバーンさん。3人共、ちょっと引いている。


 バーンさんは、クウもいるからかふざけて空気を軽くしてくれているつもりかもしれないが、後ろの3人の表情から察すると、もしかしたら深刻な事が起きているのかもしれないと思った。


 クウがハンカチを手渡してくれたので、ニャーはそれで口を拭いながらも、バーンさんにもう一度問う。



「おふざけはこの位にして、本題が聞きたいニャー。ニャー達に聞きたい事があるのニャら、そろそろ話して欲しいニャ」


「おう、解ったって。もうミャオはあれだな。せっかちだなー。実は、例の商品の事でやってきた」


「例の商品?」


「ああ。お前がリッチー・リッチモンドから買い取ったって言う、曰く付きの商品だよ。荷車に山とあっただろ?」


「それニャら、バーンさんも知っているニャ。ニャー達はその曰く付きの商品を売りに、このブレッドの街までやってきているんニャよ。それがどうかしたかニャ?」


「どうかするかしないかは、これから判断する。とりあえず、お前がリッチー・リッチモンドと交わしたその取引証書を見せて欲しいんだ。持ってきているんだろ?」



 確かにそれは持ってきている。この街にいるニャーの知り合いの商人へ商品を売る際に、必要になるから当然持ってきていた。


 取引する際に、それが盗品や横流し品でない事を立証するのに都合がいいから。しかもそれが、今回みたいな曰く付きの商品ともなれば尚更必要な物だった。取引相手に、商品と一緒に提示する事で、簡単に相手を納得させることができる。



「ニャ? それなら持ってきているニャ。でもなんでそれが見たいんニャ」


「ああーー!? ったく、めんどくせえなあ!! ミャオ、俺とお前の中だろ? そんな前置きはいいからさっさと、取引証書を出しやがれってんだ!!」


「やややや、やめるニャンヤー!! ニャハハ!! セクハラニャ、セクハラマスターがいるニャー!!」



 バーンさんは、嫌がるニャーを捕まえて無理やり、服の中を探ろうとしてきた。その手の動きが、ニャーをくすぐっているのかって動きで、もうどうにも我慢できずに証書を取り出して渡した。


 クウは固唾を呑んで見ていて、シェリーは呆れているだけ。なんとまあ、誰もニャーを助けてはくれなかった。



「どれどれ、じゃあちょっと拝見させてもらうぜ。ふーーむ。ふんふん……あっ、やっぱりそうだったか、なるほどなあ」


「何がニャンニャ? 何を納得しているニャ?」


「いや……そのな、こちらの手違いっていうのもあったりなんかして、大変申し訳ないんだがな……」



 嫌な予感。まさか、リッチー・リッチモンドから取引した商品、曰く付きでやっぱり冒険者ギルドが没収しなくてはならないとかそんな事になっているとかじゃないだろうか!! ニャーは必死になって言った。



「と、取引はもう終えているニャ!! いまさら、没収とか駄目ニャよ!! 事前に冒険者ギルドにもちゃんと、報告し認可を得て商売をしているニャ!! 没収っていうのなら、利益の分はちゃんと冒険者ギルドが負担して欲しいニャ!!」



 必死の抵抗。結構な儲けになると思っていたのに、没収なんて決して認められない。時間や経費、手間もかかっているのに、仕入れた額の負担だけなんて絶対に認められないのだ。



「え? それでいいの?」


「ニャ?」


「いやー、良かった良かった。それじゃあよ、品物の中に怪しげな仮面があったと思うんだけどよ。それだけ冒険者ギルドが、できるだけ言い値で引き取るからよ。返してくれるか?」


「ニャニャ? 怪しげな仮面?」



 そう言えばそんな変な物が品物の中に紛れ込んでいたような……


 ふむ、商品は全てまとめて売っぱらっちゃったからな……でも、あれ一つならなんとかなるかも。頼めば、それだけなら返してくれるかな。


 まあ仮面なんて、収集家でも無ければ誰もそんなに欲しがらないだろうし――――思い出してみれば確か、かなり変わった仮面だったのは覚えている。


 ニャーもエスカルテの街で思い切って起業して、雑貨店をやってそれなりに経つけれど……鰐の仮面なんて変わったデザインの仮面は、初めて見たなと思った。

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