第539話 『テカテカ祭り、開催中』
特性厚切りトースト……一言で言うと、とっても最高でした。
シンプルな調理法に、上質の味!!
一言で言わないとなると……あの厚切りトーストは、とても癖になる味だと言っておこう。角食を厚切りにスライスして……いや、あれをスライスと言ってもいいのだろうか……10センチ位の厚みはあった。
それにパン切り用の包丁で、表面に網目状の切り目を入れる。そしてそれを軽く炙る。
表面が焼けてパリッとしたらそれに、バターをたっぷりと塗ってまた焼く。この時に注意しないとなのが、最初のバターを塗るまでは決して焼きすぎない事。焦げ目がついたら駄目。
バターを塗ってからまた焼いて、今度は少し焦げ目がつくまで焼く。一旦取り出してまたバターを塗る。繰り返し。
ケチケチしないで、気前よくたっぷりと塗りたぐる。そしてまた火で焼いて、いい感じになったら取り出して最後にもう一回バターを表面に塗って特性厚切りトーストの出来上がり。
この分厚いフーワフワのトーストに、たっぷりと濃厚なバターが染みて最高に美味しくなるのだ。因みに追加料金にはなるけど、シナモンシュガーを振りかけてシナモントーストにしたり、ハムエッグを上に乗せてハムエッグトーストにしたり、鉄板だけどチーズトーストにしたりもしてくれる。
ニャーー、どれも全部食べたいニャーー!
だけど今回は、ニャー達3人は通常の厚切りトーストを堪能した。今日はニャーもクウもシェリーも、プレーンを楽しみたいという気分。これだけバターを塗りたぐったものを、プレーンというのかどうかは解らないけれど。
食事を終えて珈琲を飲むと、シェリーが言った。シェリーを見ると、厚切りトーストのバターで口の周りがテカテカと光っていた。
「商品取引の証書は、もう作ってあるんだろ? 今日はもう、先方さんの所へ行って証書にサインと印をついてもらって、金を受け取ったらお仕事完了って感じだな」
「そうニャ。必要書類はもう昨日の夜に用意済みニャ。曰く付きの商品だったし、それなりに買い叩かれるかもっていうのは、覚悟はしてたんニャけどかなりいい金額で取引できたニャ。正直ウハウハニャ」
明らかに浮かれているニャーを見て、クウが微笑んだ。クウの口の周りにも、厚切りトーストのバターがついているのか、テカテカとしていた。
「お酒とか煙草もありましたし、お酒に至っては年代物な感じがして、なんだか高級そうでしたもんね。でもそれだけの値段になったっていうのは、やはり魔石が決め手だったのでしょうか?」
「そうニャ。魔石は凄く貴重なものニャからね。色々な魔道具にも使用されているし……ドルガンド帝国のような国では、軍事利用もされていると聴くニャ。つまりそれだけ需要があるって事ニャ」
シェリーが笑う。口の周りのテカテカが気になり始める。
「何にしてもアタシは冒険者だ。商売の事はよくわからん。さっさと昨日の商人の所へ行って取引を完了させて帰ろうぜ」
「そうニャね。でもアテニャ達が、今日はキャンプに行って明日まで帰らないニャ。だからどちらにしても、エスカルテの街へ帰るのは早くても明日になるニャ」
戻ったらリッチー・リッチモンドには、感謝の言葉の一つでも言ってやろう。心の何処かで、面倒事には違いないと思っていたけど、こんなに上手くいくとは――儲けさせてもらった。でもクウは少し寂しそうな顔をする。口は、テカテカ。
「どうしたニャ? クウ」
「いえ、なんでもないです」
「なんでもないって、今凄く寂しそうな顔をしていたニャ」
「あはは。見られちゃっていましたか……ミャオのお店でお世話になってから、商売の事を知ってやりがいも出てきて、毎日が楽しいんです。でも最近はめっきりとエスカルテの街から出る事もなくなったので、こうしてミャオやルン、アテナやルキア達とちょっとした旅でも一緒に行動できて楽しいなって」
「クウ……」
「それももう終わっちゃうのかなって考えると少し寂しくなっちゃって……でも大丈夫ですよ。ルキアやアテナがまた旅に出ても、ミャオやルン、ミラールにロン、それにバーンさんにシェリーさんは変わらずエスカルテの街にいるんですから」
「アタシも入っているのか。嬉しい事を言ってくれるな」
なるほど、そう言う事だったか。
「ニャー。そう言えば、シスターケイトとアンナ、教会の子供達の件もあったニャンニャ。これから教会の皆と一緒に仕事をするから、ニャーが教会までいけない時はクウにお願いしようかニャ」
「ええ!? で、でも私一人でなんて魔物が出たらどうしようもないですし……」
「それならシェリーが護衛についてるニャ」
「え? アタシかよ!」
「仕事なら引き受けてくれるんニャ。それにシェリーは、エスカルテの街を拠点に活動をしているから、ニャンニャンニャ」
「ウィンウィンな。それなら、別に引き受けてもいい」
「良かったニャ、クウ。また一ついっぱしの商人に近づいたニャ」
「あ、ありがとうミャオ! それとシェリーさん、よろしくお願いします!」
「お、おう。子供は嫌いだけど、仕方ないから引き受けてやる。まあ、その時は早めに声をかけてくれればいい」
クウがシェリーに向かって手を差し出す。すると、シェリーはその手を握って握手を交わした。ニャーが思っているよりも、クウもルンも大人になっていくんだなと思った。
「さて、それじゃあそろそろお仕事にいくニャー。ってその前に、シェリーもクウも口の周りがバターでテカテカニャ。ちゃんと拭いてから行くニャ、商談にはちゃんと身だしなみを整えて挑むものニャよ」
偉そうに言った刹那、シェリーに顔を指でさされた。
「お前もな! ミャオの口の周りもテカテカ祭りだぞ!」
「ニャニャ!! マジかニャ!!」
3人仲良く口の周りをごしごしと綺麗に拭いた後、お会計を済ませて店を出る。昨日から取引をしている知り合いの商人のもとへ向かおうと、歩き始めたその時後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。
「おう! まだ街にいてくれたか、間に合って良かった!」
「ニャ、ニャーンさん!!」
振り返るとそこには、エスカルテの街のギルドマスター、バーン・グラッドと見覚えのない冒険者風の男が3人いた。




