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第531話 『泉で釣りを楽しもう その1』



 コナリーさんのテントの中から、マリンの「ぐーーーぐーーー」っという冗談みたいないびきが聞こえてきた。暇しているのなら、一緒に釣りを楽しもうと思ったんだけど――気持ち良さそうに眠っているみたいだし、まあ、いいか。


 コナリーさんは、いそいそと焚火の前で荷物を漁って、何かを準備しようとしている。コナリーさんも私達と一緒に、釣りをしないのか聞こうとしたけれど、ルンが私のスカートを引っ張った。



「ルキアとクロエとカルビ、行っちゃったよ。ルン達も早く釣りしようよ!」


「うん、そうだね。それじゃあ早速しようか」


「何処で釣るの? 向こうに行く?」


「うーーん、そうねえ」



 色々と泉の畔を歩いてみて、魚のいそうないいポイントを見つけるというのもいいかもしれない。だけど、意外とこの私達のキャンプしている場所の辺りでも良さそう。



「まずは、そこで釣ってみようか」


「うん!」


「それじゃ、まず釣り竿をセッティングしないとね。ルン、コナリーさんから貸してもらった道具箱の中から釣針と糸、それにウキとオモリ……出してくれるかな。ああ、あと鋏もね」


「う、うん解った。ルンに任せて! えっと……釣針と糸と……」



 フフフ。一生懸命に道具箱を漁って言われた物を探すルンの姿は、ウキウキしていて楽しそうだった。



「これでいい?」


「うん、ありがとうルン。じゃあ釣り竿に仕掛けを作ってセッティングするから、その間にルンは餌を準備してくれる?」


「うん、解った。餌も道具箱に入ってる?」


「多分……」



 あっ! もしかしたら、餌って生き餌かもしれない。モゾモゾ動く系の餌だったら、ルンが腰を抜かすかもしれない!



「ル、ルン! ちょっと待って! 餌は私が確認するから……」



 っと言ったが、ルンは既に道具箱の中を覗き込んで餌を探していた。眉間に皺。



「うーーん。餌、無いよー。何処かなー?」


「え? 餌がない?」



 もしかして、現地調達? そう思った刹那、コナリーさんが近づいてきた。



「はっはっは。そう言えば餌を準備していなかったね。これで代用してくれ。この泉で釣りをするなら、これでも釣れると思うよ」



 コナリーさんはそう言って、パンをルンに手渡した。なるほど。パンを小さくちぎってそれを丸めて針に刺す。確かに意外といい餌になるのかも。



「ありがとうございます、コナリーさん」


「コナリーさん、ありがとー!」



 まるで本当に、自分の孫でも見ているかのような眼差しで、ルンと私に微笑みかけるコナリーさん。



「それじゃ、ルン。コナリーさんにもらったそのパンを釣針に引っ掛けてくれる? 極めて精密な作業だから気を付けてね」


「せ、せいみつな作業って……?」


「パンをルンの指の爪程に千切って、それを丸めて針に引っ掛ける。キャスティング……泉に仕掛けを投げる時に、針から餌が外れないように……尚且つ、お魚さんから針がある! ってバレなりように上手につけなきゃなんだよ。それと、油断するとルンの指に針が刺さっちゃうかもだから、注意して慎重に」



 それを聞くと、ルンの口がパカっと開いた。明らかに緊張で、顔が引きつっている。私はそんな釣り如きで追い詰められた表情をしているルンを見て、笑い転げそうになるのを必死で我慢した。



「ル、ルン、責任重大なんだけど」


「そ、そうだね。ップ……」


「ルン、それ、やり遂げられるかな?」


「ププ……さ、さあ。何事も試してみないと解らないからね。プププ」


「…………アテナ、もしかしてルンの事、笑ってる?」


「え? 笑ってないよ。ルンに責任重大な仕事を任せる結果になってしまったから、私も緊張を隠せないんだよ」


「……解った。じゃあ、ルンやってみるね」


「うん、頑張って! 失敗する事を恐れるよりも、前に進もうというチャレンジ精神が大切だからね」



 真剣に釣針に丸めたパンを刺すルン。丸めたパンが爆発するんじゃないかって位、ルンはパンを凝視して作業を行っている。


 まあ作業って言っても、パンをちぎって丸めて針に刺すだけなんだけどね。考えると、余計にまた吹き出して笑い転げそうになるので、ちょっとそれについて考えるのはやめた。



「できたーー!! アテナ、釣針に丸めたパン刺せたよー!!」



 大きな声! コナリーさんの方を振り向くと、コナリーさんは大笑いしていてルンに手を振っていた。それに気づいたルンが、焚火の所にいるコナリーさんに手を振り返したので、私も恥ずかし気もなく手を振った。



「どれどれー。うん、いい感じ。それじゃ早速そこの畔まで行って、糸を垂らしてみよう」


「うん!」



 ルンは、もうワックワクだった。釣竿を片手に全力で畔の方へ駆けて行く。この感じ、嫌な予感がする。



「ルン! ちょっと待って! 危ないから、走らないで!!」


「うん! でも、だいじょう……ぶ……」



 案の定、言った傍からルンは、石に蹴躓くとそのままゴロゴロと泉の方へ転がっていき、水飛沫をあげて見事に水の中へ落ちた。



「あぶ……あぶ……アテナ!! アテ……助け……」



 バシャバシャと泉で、藻掻くルン。でも、直ぐに水の中へ沈んでいく。



「ルンーーー!!!!」


「ルンちゃん!!!!」



 コナリーさんもこれには、慌てふためき泉の方へ駆けてくる。私は、全力でルンの後を追い、彼女が落っこちた泉の中へ飛び込んだ。


 辺りは、濃い霧が漂っている。なりふり構わず泉に全力で飛び込んだから、物凄い水飛沫が舞い上がった。

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