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第529話 『ミストキャンプ その3』



「できたーー!! ルンとクロエで、完成させたんだよー!!」


「な、なんとかできて良かった」



 ルンとクロエを見ると、二人とも見事に焚火の為の準備を終えていた。焚火を囲む為の石を、円形にいい感じに配置し、薪も綺麗に積みあげて組んである。


 ザックをゴソゴソと漁り、木の皮とマッチを取り出すとそれをルンに手渡した。



「これなに? 木の皮? この木の皮に火を点けるの?」


「うん。それは白樺の木の皮。油分が多くて凄く火が点きやすいから、焚火をする際に優秀な着火剤になるんだよ。直ぐに火が点くから、それをちゃんと考えて火傷しないように注意してやってみて」



 視線を感じたので振り向くと、そこにはコナリーさんがいた。にこにこと和やかにこちらのやり取りをを見て微笑んでいる。



「も、もしかして、ル、ルンが点けるの?」


「うん。ルンかクロエにやって欲しいな。初めての事だって、二人ならきっとやれるよ。チャレンジ、チャレンジ」



 そう言って二人の頭をポンと触った。するとクロエは、少しびっくりした表情をした。そんなクロエの方にルンは振り返り、顔を見る。



「クロエ、やってみる?」


「ううん。私はほら……目が……だから、少し怖いかも。ルンちゃんがやってみて」


「う、うん。じゃあ、ちょっとルンがやってみるね。でもルンも不安だから、クロエはちゃんとルンの傍にいてね」



 二人で頑張って焚火の準備をしてくれた。その組んである薪の方へ向かって、ルンはしゃがみ込んで、慎重に見つめる。それはまるで、焚火とのにらめっこ。


 ルンは、思いきってマッチを擦ると「きゃっ!」っと言って地面に落とした。クロエが、何があったのかと慌てる。



「大丈夫? ルンちゃん?」


「う、うん。へーき。でもちょっと怖かった」


「フフフ。ちゃんと、真剣にやらないとマッチの火がルンに燃え移って、あっという間に火達磨になっちゃうかもしれないよ」



 小さな子供を脅かす程度の事を、言ってみただけ……だけだったのに、その言葉を聞いたルンは、とんでもなく顔を引きつらせた。



「……ルン、火達磨になるの?」


「いや、大丈夫だよ。マッチの火なんかじゃそんな事にはならないよ。あはは冗談、冗談」



 それを聞いてホッとするルンと、クロエ。


 そう言えば昔、私がまだルン位の歳の頃に爺が話してくれた子供向けのおかしなおとぎ話があったっけ? それを思い出す。


 悪い狸が、お爺さんとお婆さんを騙すお話。お爺さんとお婆さんが困っていると、近くを通りかかった兎が、お爺さんとお婆さんからの話を聞いて同情し、狸を懲らしめるという。最終的に狸は、兎に火達磨にされてしまうっていう、ちょっとやりすぎな復讐劇。


 マッチの火を恐れている狸の獣人のルンを見ていると、その爺が話してくれた物語を思い出して、ルンがその悪さをしたせいでとても可哀そうな事になってしまった狸と重なって笑ってしまった。


 まるでその狸が、ルンみたいだって。でもルンが火達磨になっていたりしたら、私は自分の命を賭けても絶対に助け出すけどね。



「なぜ笑ってるの、アテナ! 今、ルンを見て笑ったんだけど!」



 何かを感じ取ったルンが、少しむくれた顔で詰め寄ってきた。



「ううん、別にーー。それより、ほらほら。もっと火が点くまでトライしてみて。焚火を熾せても朝食の準備がまだ控えているんだからね」


「う、うーー。それじゃ、今ルンがやったから今度はクロエがやってみて!」


「わ、わたしが火を点けるの!?」


「うん、今度はクロエの番だよ。ルンはもう頑張ったから」



 そう言って、ルンはクロエの手にマッチと白樺の木の皮を握らせた。クロエはそれを一生懸命に手で触って確かめている。



「で、できないわ……私、火をつけるだなんてできない。やった事もないし、ランタンに火を灯したりするのだって危ないってお母さんが……」


「でも、やらなくちゃ一生やれないままよ。クロエはそれでもいいの? 今日は、クロエはキャンプをしにやってきたんでしょ?」



 優しく語り掛ける様に言った。それでも、クロエは戸惑っている。目が見えないのだ。他の者にしてみれば簡単な事でも、クロエにとっては凄く勇気が必要になる事がある。それは解る。


 でも折角キャンプしに来たのだし、私もコナリーさんもついているのだから、クロエには自分の限界なんて決めないで、色々な事に挑戦して欲しいと思った。



「でも……わたし、目が見えないんです。上手に焚火を熾すなんて、とてもわたしにはできないわ。失敗してマッチも無駄にするし、時間も無駄になる。それなら、ルンちゃんがやった方が……」



 私は、白樺の木の皮を持っている方のクロエの小さな手を包み込むように、両手で握ると言った。



「クロエは何か勘違いしているようだから、ちゃんと説明しておくね。キャンプっていうのはね、失敗してもいいんだよ」


「え? 失敗しても?」


「そう。キャンプは、失敗も成功も含めて楽しむものなの。成功したら、上手くいったーーって喜ぶでしょ?」


「え、ええ」


「キャンプでは失敗しても、それはそれでじゃあ次はどうすれば上手くできるかなって考える。この焚火だってそう。私は火属性魔法を使えるから、魔法を使用すれば簡単に薪に火が点く。だけど不自由を楽しむの。失敗する事も楽しんで、そこから学ぶの。知ってる? 人間は失敗する事で多くを学んで成長する生き物なんだよ」


「そ、そうなのですか?」


「そうなの! だからクロエもやってみて! 怖がらずにやってみて失敗して学べばいい。失敗も私達に対しても気を使わないで。失敗なんか気にせず楽しんでくれた方が、私達も嬉しいよ」



 そう言うと、クロエは私達の目の前で初めて笑って見せた。ずっと、虚ろな表情のクロエ。でも今は、まるで可愛い花が咲いたよう。ルンも、そんなクロエの表情に驚いた顔をした。



「クロエ?」


「フフフフ……すいません。こんなに笑ったなんて、何年ぶりかしら。失敗を気にせず楽しむ……フフフ、なんだかとっても変な感じ……解りました。わ、私やってみます」


「うん。それじゃ、お願い。でも失敗するにしても、どうせなら成功をさせてやろうってやらないと、面白くないからね! 頑張って!」



 そう言って私とルンは、クロエの左右に座って彼女のお手並みを拝見する事にした。

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