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第526話 『寝ぼけるマリンが現れた。』



 ブレッドの街を出て暫く歩く。明け方なので、本当は清々しくて気持ちがいいはずなんだけど、空は物凄く曇っていて、今にもまた雨が降り出しそう。


 辺りには濃い霧も発生していて、視界も悪いしとても晴れ晴れとした感じのキャンプにはなりそうにないなと思った。


 それでも内心は、楽しみである。


 師匠の言葉だけど、晴れの日は晴れを楽しんで雨の日は雨を楽しむ。師匠ヘリオス・フリートはそういう事を言う人だった。


 当時それを言われた時は、私も幼かった。晴れと雨なら断然晴れの方がいいに決まってんでがしょーって思っていたけれど、今はその気持ちがよくわかる。


 実は雨音は意外と大好きで、それを聞いて眠ったり本を読んだりするのは格別に思える。


 だけど……だけどこの霧はないなと思った。だって、視界が悪い。それにもしも魔物に遭遇したとしたら、不意打ちを喰らわされる可能性も高くなる。


 振り返ると、後ろからちゃんとついてくるルキアとクロエとカルビの姿があった。その更に後方には眠そうなマリン。あと私の背中には、ルンが今だ気持ちよさそうに寝息を立ててペットリと張り付いている。こういう可愛い動物がいたよね、フフフ。


 道からそれて、草原のような場所を歩いて草が生い茂る場所を歩いた。霧の中、腰位の高さまで伸びる草の中を歩くのは結構危険な感じがした。でもコナリーさんは、ここへよく来るからか手馴れている感じで先頭を行く。


 この視界と草むらだと、急に横から何か出てきてもおかしくはない。それを考えて、ルキア達も恐怖しているかもと思ってまた振り返る。すると、ルキアとクロエは楽しそうに何かを喋りながら私とコナリーさんの後をついてきていた。ちょっと意外。


 年も近いし、きっと気があるのだろうと思った。それにルキアはとても面倒見がいいし、凄く気遣いのできる子だから、クロエもそんなルキアと一緒にいるので安心しているのかもしれない。


 私が彼女と知り合ってから、時間にして1日分も経過してはないけど、一番楽し気な表情をしているなと感じた。


 草が沢山生い茂る場所をようやく抜けると、コナリーさんが声をあげた。



「よーーし、ここだ。皆、お疲れ様! 目的地に到着したよ」



 それを聞いて、ルキアがクロエの手を引いてコナリーさんのいる方へ駆けた。



「ルキア、気をつけてあげてね」


「はいっ、大丈夫です! こっちですよ、クロエ!」


「は、はい」



 草むらの先、そこには泉があった。普段はもっと綺麗な泉なのかもしれないけれど、生憎のお天気と濃い霧が発生している事で、なんとも夢の中の世界……幻想的な感じにも見えた。


 霧がかった泉からは、何かがヌゥッと現れそう。



「コナリーさん。それじゃ、ここでキャンプをしてもいいですか?」


「ああ、そのつもりだよ。私は早速ここにテントを設営するから、君達も好きな場所にテントを設置しなさい。ああ、でもあまり私から離れちゃ駄目だよ。ここはもう街の外だからね。絶対に安全とは言えないからね」


「ええ。解りました。それじゃ早速テントを張ろうと思います」



 あれ? ふとマリンを見ると、サイドバックを肩から掛けているのと、あとは杖を手に持っているだけで、テント的なものを何も持っていない。……ま、まさか。不安になって聞いてみる。



「マリン?」


「…………え? もう、ご飯?」



 ね、寝ぼけている。よくこんなので、「ボクも一緒にキャンプする」とか言ったよね。ふーーっと溜息を吐いてもう一度言った。



「マリン? 起きて! もうキャンプをする目的地に到着したよ」


「……え? もう、着いたの? へえ、それじゃ朝ごはんにする? 心配しなくても、食べられるよ」



 これはまた、ルシエルに続いての濃い食いしん坊キャラだ。


 ルシエルと出会う前は私は、自分の事を食いしん坊だなと思って自覚してはいたけど……マリンやルシエルを見ていると、自分が食いしん坊だと自覚していると言っているのが可愛く思えてくる。



「そうだけど……そうじゃなくて、その前にまずはテントの設置でしょ」


「そうなの?」


「そうだよ。マリンもテトラやセシリアと旅をしていたんでしょ? テトラ達と別れて、ルキアを探してくれていた時は、エスカルテの街からノクタームエルドのドワーフの王国まで一人旅をしたって言っていたし」


「はは、そうだね。ボクは旅をした。一人旅には違いないけれど、道中に他の冒険者との出会いもあったりした。既にもう、遠い昔の思い出のように懐かしく思えるよ。エミリアとは、気が合ったなー。それと君の師匠ヘリオスさんとも会ったなー」


「エミリア? その話は気になるけど、今はそれを一旦置いといて!! 私が今何を言いたいのかというと、これからここでキャンプをする訳だけど、マリンはテントをどうするの? とても持っているようには見えないんだけど。テントも毛布もないと、今夜どうやって眠るの?」



 そう言って事の重大さを伝えると、やっと閉じているのか開いているのか解らない程細くなっていたマリンの目が開いた。それでもまだ眠たげではあるけど。



「しまった。そう言えば、ルシエルかノエルにテントを借りようと思っていたんだったよ」


「マリンは、テントを持っていないの?」


「端的に言うと、今はないよ」


「それじゃ、そんな感じでキャンプについてきちゃってマリンはどうするの? さっきも言ったけど、今日ここに泊まるんだよ?」



 すると、マリンは急にダルそうな感じで私にもたれかかってきた。



「ちょ、ちょっとマリン! な、なに!!」


「アテナがきっと泊めてくれるよね。まさか、テントがないボクを外で一人寝かせたりしないよね。夜や明け方は結構冷えるから、そうなればボクは凄く可哀そうな事になるよ。それでアテナは、いいのかい?」


「わかった、わかった! わかったから、ちょっと離れてくれる! もう、まったく! でも、きっと狭いよ。私のテントにルキアとルンとクロエ、それにカルビも一緒に入れるつもりなんだから」



 マリンを加えれば、一つのテントに6人!? これはきっとギュウギュウになる。



「うん、いいよ。その方が、皆で身体を寄せ合って暖かそうだしね」



 この時、私は初めてマリンの無邪気な笑顔を見たような気がした。まるで仏様のような安らいだ笑顔。


 ちゃんと、そういう所も考えて行動しなきゃダメだよって説教しようと思っていたけど、その心を見事に砕かれてしまった。また溜息。



「ハアーーー。それじゃ、もういいから――これからテントを張るから、手伝ってください」


「え? ボクが?」


「当たり前でしょ。だって、私のテントを一緒に使うんでしょ?」


「う、うんーー使うよ」



 仏様のような顔をしたと思ったら、今度は凄く嫌な顔をする。私は悟った。マリンという少女は、ルシエルに勝るとも劣らない問題児だなと。


 まあそれならそれで、私がちゃんと教えてあげないと! 


 これからいざキャンプという所で、早速マリンに出鼻を挫かれたけれど、気合を入れなおす私だった。ふんすっ!


 そして、未だ私の背中にペトリと張り付いているルンが、可愛い寝息をたてて眠り続けている事に気づいた。

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