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第52話 『タユラスの森の集落 その1』 (▼セルディックpart)






――――クラインベルト王国、タユラスの森。


 この森は、穏やかな森で小鳥や栗鼠、鹿、兎などの動物も多く生息している。空気は澄んでいて、いくつもの渓流が森の中を流れる。その渓流ではイユナという名前の、とても美味しい魚が釣れたりする事もあって、旅人や冒険者が釣りに訪れたりもする。


 しかし、そんな穏やかな場所にも魔物は生息している。この森の奥地には、コボルト達の集落があった。コボルトとは、二足歩行で人間のように行動できる犬型の魔物である。一般的には、ゴブリンのように、武器を手にして人を襲う事で知られているので、冒険者達には討伐対象にされている。


 ――――その集落で、1匹のコボルトが仲間を募っていた。目の辺りに傷、頭の毛は逆立ち、身体も他のコボルトより遥かに大きい。ボスコボルト。


 そのボスコボルトは、集落の近くで旅人を見つけたのだ。旅人は、コボルト達の獲物。襲って殺して、持ち物を奪い取る。やっている事は、ゴブリン達とさほど変わらないがコボルト達は、自分たちの方がゴブリン達よりも遥かに優れていると思っていた。ゴブリン達にしてみても、それは同じ事である。



 ガウガウガウッ!!



 ボスコボルトのもとに22匹もの若いコボルトが集まった。手には、剣や槍、斧を装備し、レザーメイルを着込む。これから、何も知らない愚かな旅人を狩りにいく。



 ガアアアアアア!!



 ボスコボルトを加えた総勢23匹のコボルトの集団が、集落から勢いよく飛び出して旅人がいるという方へ雄叫びをあげながらも向かった。


 旅人達を見つけた。タユラスの森の中に1本通っている、少し拓けた道を移動している。この森を通過する人間はだいたいここを通る。


 そしてコボルト達は、その旅人達がどういった者かをよく知っていた。商人というやつだ。馬が4頭、荷馬車が2台。商人という種類の人間は、弱いくせに驚く程の宝を持っていたりする。それも知っていた。コボルト達の顔がニヤつく。



 ガルウウガーーッ!!



 ボスコボルトが斧を掲げ、仲間に突撃するぞと合図を送る。コボルト全員が武器を振り上げた。森から、一斉に躍り出て荷馬車を襲う。



「うわああ!! コボルトだあああ!!」



 悲鳴。逃げ惑う、商人達。コボルト達は雄叫びをあげながら商人を追いかけ回し、背中から容赦なく斬りつける。



「ひいいいい! 助けてくれーー!!」


「俺達に任せろ!! 皆、下がっているんだ!!」



 逃げ惑う商人達の前に、別の種類の人間が3人現れ、立ちはだかった。コボルト達は、そいつらが何者なのかも知っていた。冒険者というやつだ。商人は、弱いが宝を持っているので、魔物や賊に襲われる。だから、こういう冒険者というやつらを用心棒として雇って身を守るのだ。そして、そいつらは強い。


 コボルト達は、四方から一斉に3人の冒険者へ襲い掛かった。ボスコボルトが、斧で一人倒す。残り二人の息の根を止めるのも、23匹で押し潰すように襲いかかれば簡単だった。


 コボルト達は、商人4人と冒険者3人を殺して荷馬車と馬を奪った。馬は、集落に連れ帰って潰せば、ご馳走になる。



「う……う……たすけ……て」



 2人だけ、商人を生かしたままにした。木に縛り付ける。ボスコボルトは、なんとか逃げ出そうと藻掻く商人たちの腕や足に槍を突き刺した。森に商人達の悲鳴と、コボルト達の笑い声が広がる。


 涙を流し、許しを請う商人の顔をボスコボルトは、思い切り蹴とばした。



 グアーハッハッハ!!



 人間を嘲笑った、刹那、近くの茂みから気配がした。コボルト達は、一斉にその茂みの方へ武器を構えた。


 ――――緊張。


 ボスコボルトを先頭に、その気配のする茂みに近づいていく。そして槍を投げると、その茂みから慌てて3匹が飛び出してきた。


 ボスコボルトはおろか、他のコボルトもその3匹を知っていた。同じ集落にいるコボルト。つかえないコボルト。できそこないのコボルト。頭のおかしなコボルト。


 ――――コボル、ルト、ボコルの3匹。


 おもむろに、ボスコボルトは、コボルの顔を平手で殴った。吹っ飛んで近くの木に叩きつけられるコボル。それを心配してルトとボコルが駆け寄る。


 よろよろと立ち上がるコボルを見て、爆笑するコボルト達の中で、ボスコボルトが木に縛りつけた商人二人を見張っていろとコボル達3匹に命令した。


 ボスコボルト達は、とりあえず荷馬車や馬などの戦利品を集落に運びたいのだ。その後に、息のある商人二人を切り刻むか、飼うか、喰ってしまうか、他の魔物の餌にするか考える。


 ボスコボルトを含める23匹のコボルトは、コボル達3匹と商人2人を残して、集落に戻った。



 ――――戸惑うコボル達。



 残されたコボル達は、武器という武器を持ってきていなかった。ナイフを取り出して、商人に向ける。2人いる商人のうちボスコボルトに顔を蹴られた方は、目を瞑ったまま動かなくなっていた。もう一人が声を絞って発した。



「助けてくれ……私は何もしていない……君たちを傷つけたりもしていない……助けてくれ……」



 コボル達は、顔を見合わせる。すると、その場にルトを残して2匹は何処かへ行ってしまった。暫くすると2匹は帰って来た。


 水の入った皮袋の他に、沢山の草を持っている。商人は、その草を見て一目でそれがなんなのか解った。薬草だった。


 コボルは、薬草を石の上にのせてすり潰すと、動かなくなった方の商人の傷口に、塗り込んだ。そして、水を飲ませる。意識がある方の商人にも飲ませた。



「っっぷはあ! はあ……はあ……ありがとう」



 商人は、その3匹のコボルトの行動に驚いた。そして、もしかしてこの慈悲の心があるコボルトを説得する事ができれば、助かる事ができるかもしれないと思った。



「なあ、助けてくれ。頼む。助けて欲しい」



 3匹のコボルトは、再び顔を見合わせると再びナイフをこちらに向けた。やはり人間を警戒しているのだ。



「私の名前は、セルディック。助けて欲しい。この縄をそのナイフで切ってくれ」



 商人セルディックは、必死になって3匹のコボルトを説得しようとした。きっと、あの大きなコボルトが戻ってきたら、きっと助からないと思ったからだ。


 コボル達は、セルディックの言葉を理解はしていなかった。だが、この商人が何を言わんとして必死になっているかは、感じていた。



「頼む!! お願いだ、助けてくれ!! 頼むよ!! なんでもする! 御礼もするから、この縄を切ってくれ!! 私には、妻も娘もいるんだよ!!」



 その必死さに、コボル達は震えた。気が付くと持っているナイフを、商人を縛っている縄の部分に、あてていた。ルトとボコルもそれを見ていたが、止めようとはしない。



「ありがとう、ありがとう!!」



 縄に少し、切れ目が入ったその時だった。ボスコボルトが4匹のコボルトを連れて戻ってきた。セルディックの表情が絶望にかわる。


 ボスコボルトは、またもやコボルの顔をぶった。駆け寄ろうとする、ルトとボコルにも近づいていって蹴り飛ばした。


 そして、動かなくなっている商人の頭を斧で割った。セルディックは、悲鳴を上げる。


 ボスコボルトが他のコボルトに何か合図する。すると絶望に打ちひしがれるセルディックの縄は切られたが再び拘束され、無理やりコボルトの集落へ連れて行かれた。



 コボルト達の集落の奥、悪臭のする洞穴の中の檻の内側で、セルディックは、死を覚悟した。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇セルディック 種別:ヒューム

商人。仲間の商人と一緒に、商売の為の商品を荷馬車に詰め込みタユラスの森の辺りを移動していた所を、コボルトに襲われて捕らえられた。このままでは、殺されて食べられてしまう。


〇コボルト 種別:魔物

人型の犬の魔物。二足歩行する犬で、肩からは前足ではなく腕がついている。その為、武器た盾などを装備する事ができ、人間と同じように防具に身を包むものがほとんだ。背丈も似ていて、小鬼のゴブリンと二分される場合があるが、コボルトの中には温厚な性格のものもいる。本作16、17、18話のアテナ一行の渓流釣りで、ルシエルがこの森に来て釣りをした時にフィッシングマスターの二匹のコボルトに出会い、魚の釣り方を教えてもらった。


〇ボスコボルト 種別:魔物

大型の狂暴なコボルトの個体。通常のコボルトとは比べ物にならない程の強さな上に、群れを率いている場合が多い。獣などを襲って食糧にもするが、ボスコボルトは人間を襲う事を好む。そして、殺した人間を食糧にする他、装備や持ち物を奪う。出現すれば、冒険者ギルドの優先的討伐対象になる。


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。魔族ではない。低級の魔物だが、ずる賢く冷酷残忍なうえに単体で行動する事がほとんどないので、人々からは恐れられている。冒険者の一般的な討伐対象。


〇3匹のコボルト 種別:魔物

セルディック他1名の商人の見張りを任されたコボルト。ボスコボルトや他の血の気の多いコボルトには、落ちこぼれと思われている。人間に対し少し興味があるようだが……


〇イユナ 種別:魚

イワナとアユを掛け合わせたようなハイブリットな川魚。空気の綺麗な森にある渓流に生息しているので、どちらかというとイワナよりの魚なのかも。塩焼きにすると美味しい。警戒心が強い魚で釣るためにはそれなりの熟練がいり、味も美味しいので釣り人に人気の魚。上級者向けの魚だが、本作16、17、18話では、この森でルシエルとローザはこの魚を見事に釣り上げていた。


〇レーザーメイル 種別:防具

皮製の鎧。一般的に流通しているのは、ビッグボアやブラックバイソンなどの魔物の皮を使用して作られている。豚や牛などの家畜の皮よりも、丈夫で攻撃を通さない。村には武器や防具を取り扱っているお店が無い事がほとんどなどで、購入するには街に行くといい。


〇タユラスの森 種別:ローケーション

クラインベルト王国にあるとても穏やかな森。鳥や兎に栗鼠などの小動物も数多く生息しており、いくつもの渓流がある森で、釣り好きの冒険者などには絶好の渓流釣りポイントとして知られている。本作16、17、18話で、アテナとルシエエルとローザもこの森へ渓流釣りを楽しみにやってきた。


〇コボルトの集落 種別:ロケーション

タユラスの森の奥にあるコボルト達の住む集落。ゴブリンやオークやトロルなどは洞窟や洞穴などを巣にしている場合が多いがコボルトも同じように洞窟などに住んでもいる。しかし、集落を作って人間のようにそこで生活する者達も数多くいるのだ。


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