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第519話 『鰐の仮面 その4』



「水よ! 邪悪なる魔を打ち払え!! 《水玉散弾(ウォーターショット)》!!」


 ギャアアアアア!!



 マリンは得意の水属性魔法で、襲い来る悪魔達を打ち抜いた。それでも抜けてくる敵を、私が二振りの剣で斬り倒す。


 私の使っている師匠から譲り受けた剣、ツインブレイドは特急品の武器で、そのいくつかある特性の中に破邪特効がある。だから悪魔でも、スペクターのような霊体のアンデッドでも斬って倒すことができるのだ。


 ただ、不思議なのはマリンの方だった。隣で次々と襲い掛かてくる悪魔相手に、得意の水属性魔法で奮闘するマリンをチラ見する。


 物理攻撃があまり有効ではない悪魔に対し、魔法で攻撃するというのは理にかなっているように思えるが、実は少し違うのだ。悪魔は魔そのものである為、魔力を使用して攻撃する手段は、場合によってはダメージを与えるどころかその力を相手に更に注いでしまう場合かあるのだ。


 例えば炎を司る悪魔に火属性魔法をお見舞いするなんて事をするをすれば、焼き払うどころかその悪魔に力を与えてしまうという事。

 

 ……うん、確かそうだったと思う。私は魔法があまり得意だと自分で思ってはいないし、爺の授業からも事あるごとに逃げ回っていたからアレなんだけど、確かそんな感じの事を爺は言っていた気がする。


 見た感じ、あの仮面の男が召喚した悪魔はインプだ。インプ程度なら、マリンの魔力をもってすればその水属性魔法で退治する事も容易だろう。だけど……マリンの攻撃魔法がインプに対して効きすぎているように見えた。


 マリンの水属性の攻撃魔法を喰らったインプたちは、断末魔をあげて次々と消し飛んでしまっている。


 私も負けずに襲い来るインプ達を斬っては斬りあげ、そして斬り払った。マリンも私の事を意識しているらしく、戦いながらもこちらをチラチラ見ている。



「凄いなー。流石はあのヘリオスさんのお弟子さんだ。太刀筋も凄いし、動きも尋常じゃない。武術の事はボクにはよく解らないけれど、それでも素人目に見ても凄いと思えるよ」


「私だってマリンの事を同じように思っているよ! あの師匠とも、手を合わせて認められたんでしょ? それってとても凄い事だよ」


「……認められたのかな? あれは、アテナ達と共闘してドワーフの王国を救う力があるかどうか試されて、それでギリギリ落第しなかったってだけのような気もするけれど……」



 仮面の男が召喚し続けるインプ達を斬り倒し、打ち抜き、薙ぎ払う。そうしながらも流暢に会話をしていると、その様子に男はあしらわれていると気づいたのか、両手にナイフを握り再びこちらへ悪魔達と共に突っ込んできた。



「誘いにのってきたようね! これで、あの悪魔を召喚する男を倒して終りね!」


「油断しない方がいい。あの男……更に大量の魔力を集めていると同時に、何か禍々しい気配も放っている。これはまだ何か、奥の手を隠し持っている感じだよ」


「お、奥の手? 奥の手って……」


「禍々しい気配、もしかしたらインプ以外の何かもっと強力な悪魔を召喚できるとか……」


「……オマエハ、ジャマダナ」



 仮面の男は、召喚したインプに一斉に私達目掛けて襲わせると同時に、その中に紛れ込んで襲い掛かってきた。二本のナイフ。それを剣で払い、返す刀で一度にインプを3匹倒した。


 マリンも攻撃魔法を放とうとした。そこで仮面の男は、叫んだ。



「ギヒヒヒ! ユダン、シタナ、ニンゲン!! 《呪縛の鎖(カースチェーン)》!!」



 辺りにドス黒い霧が発生したかと思った刹那、私とマリンの足元から無数の真っ黒な色の鎖が飛び出してきた。私は咄嗟に、二刀流でその鎖を斬り払ったがマリンはしっかりとその鎖に拘束されて動けなくなってしまった。


 でも私なら、マリンに巻き付いた鎖を切断し助ける事ができる。そう思って近づこうとした。だけど、仮面の男の方が先に動いていた。


 何本もの真っ黒な鎖に身体中を撒きつかれ、動けなくなっているマリンのすぐ目の前に、仮面の男は移動していた。


 マリンの直ぐ目の前――刹那、男の被る鰐の仮面が急に巨大化した。まるでそれは、風船か何かのように思えた瞬間、唐突に巨大化した仮面の鰐は大きく口を開いてマリンの上半身に喰いついた。そして首を捻る。血飛沫。マリンの上半身は引き千切れて鰐の口の中へ消えた。



「マリンーーー!!」



 叫んだ。助けようとしたが、遅かった。仮面の男は、マリンから離れるやいなやギヒヒと笑い、建物から飛び降りて暗闇に消えた。


 私は、下半身だけになってなってしまったマリンに近づくと、彼女を抱きしめた。真っ黒な鎖は、彼女の上半身と共に消滅していた。



「そ、そんな……マリン!! マリーーン!!」



 涙が溢れる。どうすればいいのか解らない。もう少し注意していれば、マリンを助ける事もできたのに……手が震える……マリンの死を私はどんな顔でテトラやセシリア、それにリアに報告すればいいのだろうか。


 雨が降ってきた――


 私は下半身だけになってしまったマリンを抱きしめながらも、大声で叫びかけた。そうしないと、気持ちを保っていられなかった。さっきまで、あんなに話をしていたのに!! ううう……


 私は、必ずマリンの仇を討たなければならない。


 雨が強くなる。すると、奇妙な事が起きた。私が抱きしめていたマリンの残った身体は雨に打たれると徐々に崩れ始め、最後には溶けてその辺りに散ってしまった。


 その光景に目を奪われ茫然としていると、私の肩を誰かが叩いた。


 振り返ると、そこには水色の三角帽子とローブに身を包み、銀色の髪を三つ編みにした眠たげな少女が立っていた。



「マ、マリン!! あ、あなた生きていたの⁉」


「まあね。驚かせてごめん、端的に言えばこれはそういう魔法だね」



 マリンはそう言って、下に落としていた眼鏡を拾い上げるとローブの袖でレンズの雨露を拭いて耳にかけた。私は暫く唖然としてマリンを見つめる。



「あの鰐の仮面の男には、完全に逃げられてしまったね」


「う、うん、そうだね。でも、何にしてもマリンが無事で良かった」


「え? な、なに!?」



 私はそう言っていきなりマリンに抱き着いた。すると、あまり何事においても動じないイメージのあるマリンが明らかに動揺しているのが解った。



「ちょ、ちょっと。離れてよ。さっさとカルビを探して宿に帰ろう。雨がどんどん強くなってきているし……」


「フフフ、どちらにしてももうビショビショでしょ。もう少し抱きしめさせて。そしたら、カルビを探し出して宿に帰りましょ」



 私はそう言って、マリンの小さな身体を更に自分の方へ引き寄せた。マリンは、「ええー」と言って相変わらずドン引きしているような態度を私に見せたが、耳が少し赤くなっていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇スペクター 種別:アンデッド

霊体のアンデッド。実態が無い為、物理攻撃は有効ではなく神聖系の攻撃に弱い。また、魔法も有効。


〇インプ 種別:悪魔

小悪魔の事。低級の悪魔。


水玉散弾(ウォーターショット) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。小さな水の弾を無数に生成し、一斉に放って目標を撃ち抜く散弾魔法。


呪縛の鎖(カースチェーン) 種別:黒魔法

中位の闇魔法。地面に影を作り、そこから無数の黒い鎖を生み出す。対象にその鎖を巻き付けて拘束する。

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