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第517話 『鰐の仮面 その2』



 ナイフの扱いは、得意という程ではなかった。例えばルシエルに比べれば、彼女の方が数段上だ。でも、キャンプや旅ではナイフは欠かせないものだし、至る事に使用する。だから、苦手という訳でもなかった。


 鰐の仮面の男。ブレッドの街、夜中になっても私達のもとに戻らないカルビを探しに、私は人気の少ない夜の街に出た。


 そしてたまたま通りかかった路地で、なんとも怪しげな沢山のナイフを所持している鰐の仮面をつけた男を目撃した。すると仮面の男は、両手に持つナイフでいきなり私を殺そうとしてきた。


 反撃すると男は、路地奥に逃げ込んだ。私はそれを追う。すると路地でも戦闘になり、追い詰めようとすると仮面の男は、路地の壁を器用に蹴りながら建物の屋上まで昇って行った。


 そんなアサシンか忍者みたいな真似のできない私は、どうすれば男を追って屋上まで上がれるか考えていた。すると男は、今度は逃げずに私を仕留めようと、屋上――頭上から私のいる路地にナイフの雨を降らせてきた。


 防御魔法で降り注ぐナイフを弾く事は容易いけど、路地は狭い。それだと両サイドの建物の壁をえぐる事になると思った私は考える。


 それで男が先に投げたナイフが壁に突き刺さっていたのに気付き、それを引き抜いて両手に持って二刀で降り注ぐ無数のナイフを弾く事にした。



「こうなったら、やるしかないわね!! やああああ!!」


 ギィイン! ギィン! ギィイイン!



 ナイフシャワー。シーフが使用するナイフ技の一つで、敵のいる頭上に向かって無数のナイフを放り上げる。放り上げられたナイフの刃先は、全て対象に向くと同時にまるで対象者に引き寄せられるかのように落下しながら突き刺さる。


 ――仮面の男の使ったこの技は、確かそんな効果のある技だったと思うけれど、この路地で使ったのは逆効果だったようだ。

 

 路地が狭い分、降り注いでくるナイフを打ち払いやすい。現に私は、両手に持つ二刀のナイフで頭上から落下してくる無数のナイフを次々に弾いていた。きっとこの技はもっと広い場所、尚且つ暗闇で発揮する技だと思った。


 最後のナイフを勢いよく弾き飛ばすと、屋上から高みの見物をしている仮面の男を睨みつけて言い放った。



「さあ、今度はこっちの番だからね! そこで待っていなさい! すぐそこまで行って、あなたを捕まえるからね!!」



 周囲を探る。少し奥に行った所に建物の外壁に取り付けられている梯子を見つけた。目で追っていくと、それで男がいる屋上まであがれる事が確認できた。



「よし! 今からそっちに行くからね、ホント許さないんだから!! 首を洗って待ってなさいよー!!」



 結局、怪我は一つも追ってはいないけど、それでも危ない所はあった。何か事故が起きていたら殺されていたかもしれない。そう考えると、絶対にここで捕まえてお灸をすえた上で男が何をしようとしていたのか、調べないといけないと思った。


 場合によっては、街の警備隊へ突き出すか、エスカルテの街の冒険者ギルドへ連絡してバーンに逮捕してもらうか。


 梯子がある方へ走る。


 すると、屋上からこちらの様子を眺めていた男は、再び何か聞き取れない位の言葉を喋り始めた。それは、まるで唸っているような……いや、何かを詠唱している⁉



「ヒカリーー! ヒカリヲーー! 魔法の灯(マジックトーチ)!!」



 男が片手を掲げると、そこに火の玉が現れる。そしてその火の玉は、メラメラと燃えて路地に広がる暗闇を照らし出した。



「火属性魔法……ライティング系の魔法? なんで今、そんな魔法を?」



 丁度、昇ろうとしていた梯子の近くまできた所である事に気づく。


 あの男を捕まえようと梯子まで勢いよく一直線に向かっていると、急に両足がその場で止まって全く動かなくなってしまった。



「えっ! ちょっと何⁉ か、身体が動かない……」


「ギヒヒヒ……シヌ……シヌ……ナニモデキズニ、オマエハシヌ……ギヒ」



 まるで金縛りのようだった。どうあがいても、身体が動かない。どうしよう⁉ 


 この状態で、またナイフの雨でも降らされたら……いや、スローイングダガー。あの急所を狙った一撃を放たれら危ない。そうなったら、もはや全方位型魔法防壁(マジックシールド)を発動させるか、もしくは火属性魔法を使用して飛んでくるナイフを焼くしかないと思った。


 と、とりあえずナイフが飛んでくる前になんとか脱出できないか、辺りを確認しないと!!


 私は慌てて周囲を見回して、この状況がどういう攻撃で陥っているのか観察する。仮面の男の手に光るものが見える。ナイフ。だめ、早く見つけないと。


 周囲を注意してみていると、私のすぐ近くの地面に一本のナイフが突き刺さっているのが解った。いや、地面じゃない。影だ。あの男が発動した魔法の灯(マジックトーチ)で照らし出された私の影に、ナイフが突き立っている。つまりこれは……


 ――影縛り!!


 幸いこの技を私は知っていた。師匠にやられた事があるから。そして、弱点も知っている。私の影を無くすか、他の位置から光を当てて別の位置へ影を向ければ抜け出せる。


 でも、一足遅かった。屋上から私の事を見下ろしている仮面の男は、更に一本のナイフを私目掛けて投げ放つ。そう、あれはスローイングダガー!! こうなったらもう、人様の家の壁を破壊してしまったとしても全方位型魔法防壁(マジックシールド)で、ガードするしかない。



「シネーーーー!! ギヒヒーー!!」



 鰐の仮面――無機物であるはずの、その仮面が大笑いしているかのように見えた。


 私は防御魔法を発動しようとした。するといきなり、目の前に大量の水が地面から噴き出して飛んできたナイフを弾き飛ばした。



「え、水!?」


「やっと追い付いた。手を貸してあげようと、後を追ってみればまたこれは、実に不思議な者に襲われているねえ。まったく興味深いよ」


「マリーーン!!」



 噴水防壁(ウォーターウォール)の魔法で、私を守ってくれた者の正体はマリンだった。ありがとう、マリン!! 戦闘中でなければ、彼女を思い切りハグしたい!


 マリンは更に何か呟くように魔法を詠唱すると、先程と同じように地面から大量の水が噴き出して私とマリン自身を、なんと仮面の男がいる屋上まで押し上げた。


 マリンのお陰で影縛りから脱出できたうえに、一気に屋上にいる仮面の男を追い詰める事ができた。私は、路地では使いにくかったツインブレイドを鞘から抜くと構えて仮面の男を睨み付けた。


さあ、もう逃がさないわよ!






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


魔法の灯(マジックトーチ) 種別:黒魔法

火属性の下位黒魔法。メラメラと燃える火の玉を掌に生成し浮かせる。辺りを照らすのに使用するのが主だが、着火にも使える。


噴水防壁(ウォーターウォール) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。

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