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第510話 『クロエとグーレス その1』 (▼カルビpart)




 アテナ、ルキア、ルンがブレッドの街にあるコナリー夫婦の営む喫茶店で、楽しいお茶を楽しんだ後に店を出る時の事だった。


 アテナがお会計を済ませ、ショーン・コナリーと翌日一緒にキャンプをすると約束をする。そして、別れの挨拶をした。


 アテナ達3人が、コナリー夫婦と向き合っている時にカルビは別の事に注目をしていた。


 本来ウルフという狼の魔物は、鋭い嗅覚に合わせて聴覚も持っている。しかもカルビに至っては、子供のウルフではあるけれど亜種であり、通常のウルフよりもその能力は更に高いものであった。


 アテナ達がコナリー夫婦とお別れの挨拶をしている時に、カルビはその人間よりも凄まじい嗅覚と聴覚で何かを捉えていたのだ。



 …………助けて。


 …………助けて。


 …………誰か助けて。



 カルビには確かにそう聞こえていた。声はルキアやルン位の少女のものに違いない。そこまでカルビは、感じ取っていた。


 カルビは、サッとアテナ達のもとから離れると、その助けを求める声の方へ向かって全力で駆けた。


 もともとこの日は、天気は良くなく空はずっと曇っていて雨が今にも降りそうだった。だからなのかブレッドの街には、今日はあまり人が出歩いていない。何処かで誰かが助けを求めているのだとすれば、見つけやすいはず。


 カルビは、アテナ達を置いて懸命に声の主を探した。嗅覚を研ぎすまし、聴覚を最大にして周囲を探る。


 …………誰か。


 カルビの目つきが変わった。見つけた!


 カルビはビュンっと走ると、大通りを抜けて少し寂れた建物のある方へと移動する。


 途中、見覚えのあるというか……見覚えだらけのハイエルフとハーフドワーフが、何やら言い合いをしながらも歩いている後姿を見かけたが、遠くにいた事と今は一刻を争う事態かもしれないので、ルシエル達のもとには行かずに真っ直ぐに聞こえてくる声の方へと走った。


 すると、誰もいない道に出る。


 いや、誰かいる。誰かが道端に前のめりに倒れていた。カルビは急いでそこへ行くと、目の前に倒れているのが先程から助けを求めている少女だと理解した。



 ワウッワウッ!!



 カルビは倒れている少女に駆け寄ると、耳元で大きく吠えた。そして、少女の顔をペロリとなめる。



「う……う……誰?」


 ワウッ!


「ワンちゃん? もしかして、私の声を聞いて助けに来てくれたの?」



 少女は、顔を上げた。目の焦点が合っていないような表情を見せる少女。カルビは、彼女に近づく。



「何処にいるの? ワンちゃんなんでしょ?」


 ワウッ



 少女は、まるで暗闇にいるかのように手探りでカルビの身体を触った。すると少女は笑顔になり、カルビの身体を引き寄せると抱きしめた。



「やっぱりワンちゃんだ。フワフワして気持ちいい」



 圧迫されてカルビは、少し苦し気な表情をしていた。だけど、逃げようとはしない。少女を安心させるために逃げ出すという事はせず、されるがままになっていた。


 カルビの身体を触りまくり、抱きしめる少女。



「可愛い! 可愛くてとっても優しいワンちゃん。わたしの声を聞いて助けに来てくれたんでしょ? ありがとう。わたしの名前は、クロエ。クロエ・モレットよ。あなたのお名前はなんていうのかしら?」


 ワウッ? ワウンワン!!



 カルビは自分の名前の事を、ちゃんと理解していた。だけど人の言葉も喋れないし、文字を書く事もできないしその知識もない。名乗り返したつもりだったが、ブレッドの街で出会った少女クロエには、伝わる訳もなかった。



「うーーん、ワンとかじゃ解らないわ。どうしよう……そうだ、それじゃわたしが名付けてあげる。名前がないと、これからあなたの事をなんと呼べばいいか解らなくなっちゃうから。……そうね、それじゃ……どうしよう、名前を名付けるにしても、あなたが男の子か女の子かで、つける名前も変わってきちゃうわよね。でも、それを確かめるにしてもわたしには、方法が……」



 クロエがカルビの身体に手を伸ばすと、流石にカルビはすっとそれをかわして避けた。



「あっ、ごめんなさい! お願いだから逃げないで! 謝るから! わたし、どうしてもあなたの事をもっと知りたいの。……そうだ、いい事を思いついたわ。もしもあなたが男の子なら、わたしの右の頬にキスをして。もしくは女の子なら左の頬に……」



 クロエが言い終える前に、カルビは彼女に近づきその右頬にチョンとキスをした。


 クロエは驚きと感動を隠せなかった。なぜなら自分の助けを求める声を聞いてやってきてくれたのなら、自分の前にいるワンちゃんは人の言葉をちゃんと理解している。もしかしたらそうではないかと思っていた事が、カルビの驚くべき行動でやっと確信に変わった。


 少女クロエには友達がいない。だから、カルビと出会い意思疎通ができる喜びはとんでもなかった。



「本当にあなたは、わたしの言葉を理解していたのね。ワンちゃん……いえ、あなたの事は……そうね……グーレス! グーレスと呼ばせて」


 ワウッ



 何かを察したカルビは、クロエにグーレスと呼ばれて返事をした。クロエは、カルビに抱き着いてその匂いを嗅ぐとカルビの頭に自分の顔を押し付けた。



「グーレス! グーレス、大好き!!」



 カルビは、自分に縋りつくように抱きしめるクロエの方に顔を向けると、彼女の頬をまたペロリと舐めた。そして、この場所で彼女にいったい何があったのかと周囲を見渡して考えた。

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